「見習いが取れました」 〜イクス視点〜
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アンナから、リーアの最終試験が無事終わったと聞いて。
(そっかそっかー。やっぱり予定より早かったなぁ。隠密の仕事はもう少し続けなきゃだけど、その間は一緒に暮せばいいよねぇ)
イクスはウキウキとアンナの家へと向かった。
いつもならリーアが寝付いた頃を見計らって行くのだが、今日は、リーアの卒業祝いだから、気にせず明るいうちに行ける。
仕事?
そんなもの、とっくに前倒しで終わらせている。
(お祝いだからなぁ。何か、プレゼントあった方がいいよな。今のリーが欲しがりそうなものかぁ)
以前に渡した外国語の本は、とっくにリーアはマスターして、難なく読み書き発音出来るようになっている。
(別の国の本でもいいけど……今のリーなら、アレかな?)
イクスは本屋に寄って、2冊の本を購入した。
1つは生物の構造について、もっと言うと解剖学の本。もう1つは料理の本。
アンナに預けて以来、リーアはすっかり料理に興味を持ったみたいだし、薬師として今後生きていくには、すでに知識としてはあるだろうが、生物の構造について詳しく書かれた専門書も必要だろう。
いくらなんでも、さすがにアンナも人体解剖まではさせていないだろうし。
アンナは人体解剖の経験も、そう言った専門書もあるだろうが、リーア専用の物も必要になるはずだ。
ちなみに、料理の本は、普通の家庭料理だけでなく、野営時にも作れるような冒険者向けのレシピも載っている。
アンナの家のある森に入ると、気配を感じたのか、或いはアンナに教えられたのか、リーアがご主人を迎える犬のようにこちらに向かって走ってきた。
(あーもう。ホント、可愛いなぁ)
胸に飛び込んできたリーアを危なげなく受けとめて、そのまま抱き上げた。
「リー、また少し大きくなったねぇ」
「うん。お誕生日に貰った服が、ちょうどいい大きさになったよ」
「そっかー。それより、おめでとう」
「ありがとう!でもね、まだ一人前じゃないし、教わらなきゃいけないこともあるんだって」
一人前じゃない、と言うのは、たぶんギルドで薬師として名前がまだ売れていないということだろう。
教わらなきゃいけないこと、はアレか。
「そっか。でも、リーならきっとすぐだよ。だから、今日はお祝いしようねー」
「あのね、あのね!それもだけど、4の月はイクスさんのお誕生日もあるでしょ?ちょっと過ぎちゃったけど、お祝いしよ?」
(去年ちょっと話しただけだったのに、覚えてたんだ)
本当に、リーアはいい子だ。
アンナの家の中に入って、リーアの作り出した薬について話を聞く。
「この白い粉が、毒なの?」
「そう。一日、小匙一杯を飲むと、1週間後には目覚めなくなる薬。それでね、この黒い粉が解毒薬なの」
「へぇ。どのタイミングで解毒薬飲んでも、大丈夫なの?」
「うん。その代わり、毒を飲み始めて何日経ったかで、飲む量は変わるけど」
続けて、リーアは、作り出した薬の方を説明しようと、金色の丸薬を見せてきた。
「それでね、この、きんた」
「リー、ストーップ!それは言っちゃだめ。その言葉は、女の子が使っちゃだめー。金の丸薬、ね?」
「ん?うん、このきん……の丸薬が、人間の回復力を倍にする薬なの。他の薬と合わせて飲むと、効果が抜群なんだよ」
(あっぶね。天使なリーが、伏せ字になるような単語言っちゃうとこだった)
それでも、リーアの生み出した薬や毒が、すごいものだとわかる。
(リーの初めては全部俺って決めてるから……)
「リー、今教えてくれたの、全部売って」
「え?えーっと」
リーアは、困ったようにアンナを見る。
アンナは苦笑していた。
「そうねぇ。価値をつけるなら、薬が銅貨100枚、毒は……金貨2枚、解毒薬も金貨2枚ね」
アンナの目利きでは、それくらいの価値らしい。
市場に出れば、もっと上がる可能性はある。
「分かった。じゃ、今払うよ。はい、金貨4枚と銅貨100枚」
皮袋から出してリーアに渡すと、オタオタとしている。すごく可愛い。
「これから、同じものを作るときに、材料費として必要になるだろうから、気にせず貰っときなさい。
あなたは、コイツに、自分の作ったものを売ったんだから、対価は当然よ」
「わかり、ました。バルさん、お買上げありがとうございます」
自分の調薬したものが売れたという意識がまだ薄いのだろう。リーアは納得したようなしてないような曖昧な顔で、でもちゃんと礼を言ってくれた。
「あー、あと。これはいつでもいいんだけど、リーに作って欲しい毒があるんだよねぇ。無味無臭で、苦しまずに、でも3つ数えるくらいの間で死ぬ薬。作れる?」
いつか。
いつか、リーアが自分のもとを離れる決断をしたとして。
監禁することも考えた。
だってそうすれば、間違いなくリーアは自分だけのものになる。たとえリーアが嫌がっても。
それでも、リーアのすべてが欲しいのに、心は手に入らないなんて、面白くない。
だから。
出来るだけ自分の手で、苦しまずに殺してあげるつもりだけど、もしそれが出来ないのなら、リーアには苦しまずにすぐ死ねる薬を飲ませてあげよう。
自分の元を離れるなんて、許せないし、罰として苦しませることも考えたけど、やはり、死に顔はキレイな方がいい。
それに、もしも自分が仕事で失敗して死ぬことになったら、その時はリーアも連れて行くと決めている。
それは、リーアにかけた魔法が解けて、瞳の色が戻れば、フィリアが生きていると判明してしまうからという理由もあるにはあるが、一番は、やはり、リーアはイクスのものだから、だ。
イクスが与える以外の死なんて、リーアにはあげない。
死ぬ前に何とかしてリーアの元へ行って、殺してあげるか、それが無理なら毒で死なせてあげるか、だ。
これは、リーアが万が一、不治の病になった場合も同じことで、その時は、二人で、今回リーアが作った毒薬を飲んで死ぬつもりだ。
今のイクスには、リーアのいない世界なんて考えられないし、そんな世界、生きてたって仕方ない。
リーアにも、同じように思ってもらえるように、溺れさせるつもりだ。
(あー、でも。子供ができてたらどうしようかなぁ。ある程度大きくなってたら、またアンナに預けてもいいけど、赤ちゃんだったらちょっと、大きくなるところみたいよねぇ。いや、でもやっぱり、いくら二人の子供がいたとしても、リーがいないのに、生きてるのは嫌だな)
どう考えてみても、自分がリーアより子供を優先する未来は見えない。
「……さん、バルさん」
「ん?なぁに?リー」
しまった。
考えに没頭して、リーアの言葉を聞き逃した。
「えっとね、その毒なら、もう持ってるから、いつでもあげるよ」
「え?リー持ってるの?」
「うん。もしも、バルさんと離れなきゃいけなくなって、バルさんからの助けもない場合に、飲もうと思って作った。師匠のレシピにあったから」
(あらら。もうそこまで、俺に堕ちちゃってた?いらない心配だったみたいだねー)
「良かった。じゃ、それはリーが大事に持ってて。いざという時は使ってねぇ」
すぐそばで、アンナが剣呑な目を向けているが、これはイクスとリーアの話だ。
それに、イクスだって、そんなに簡単に死ぬつもりはない。
(ま、でも一応)
「そうは言っても、俺はそんな簡単にやられたりしないし、リーアと離れ離れになることもないけどねぇ」
そうそう、と話を変えるように、イクスがリーアにプレゼントを渡すと、リーアは思った通り、とても喜んでくれた。
「バルさんには、私のこと何でもわかっちゃうんだね」
可愛いことを言う。
リーアのことを考えて、プレゼントを選んだ甲斐があった。
リーアからも誕生日プレゼントを貰った。
本当にかわいい。
その後、チラッとアンナに聞いてみると、やはりこれから性教育を始めるらしい。
リーアはまだ9歳。
初潮すら迎えていないから、随分と先の話になってしまうけれど、知っておいて損はない。
それに、性教育自体はしていないけど、女性特有の病や、男性機能についての勉強はさせたので、うっすらと、本当にうっすらとした知識はあるらしい。
男性機能についての病や薬についても、そういうものがある、ということだけは分かっているみたいだし、薬も作れるようだけど、どんなときに使うか、つまり、閨についてはからっきしらしい。
媚薬だって、作れるけれど、それがどんな時に使われるかはわかっていないみたいだ。
でも、知らないままでは薬師としては半人前。
だからこそ、アンナも性教育を施すことについて受け入れてくれたのだろう。
「ついでにさ、男女の機微っていうの?恋愛感情とか、それに伴うアレコレとかも教えてやってよ」
「はぁ。そこまで行くと、完全に私の仕事の範疇外なんだけど。まぁいいわ。ここまで面倒みたんだし、年齢は達していなくても、中身は素敵なレディに仕上げてみせましょ」
「助かるー。どれくらいかかる?」
「あの子がギルドで認められるまで、ね。1ヶ月もあれば十分だと思う」
つまり。
1ヶ月後には、リーアは恋愛感情についても、男女のアレコレについても、しっかり知識や感情をもつことになる。
その状態で、自分のもとに戻ってくるのだ。
イクスはペロリと唇を舐めた。
「1ヶ月、楽しみにしてるよー」