「見習い」が取れました
ブクマ、いいね、☆ありがとうございます!
読んでいるだけの方もありがとうございます!
とても励みになります!
聖メルリウス歴 881年 4の月。
師匠の元で、薬や毒の作り方や扱い方、病や傷の見極め方と治し方、ギルドの利用の仕方、この世に溢れかえるあらゆる、薬や毒となる動植物、客のあしらい方、そんなことを教えられるまま、必死に覚えていって、気がつけばここに来てから2回目の春を迎えていた。
昨年同様、3の月のリーアの誕生日は、イクスとアンナが慎ましやかでありながらも温かく祝ってくれた。
自分が生まれた日を祝われるという事は、生まれてきても良かったのだと、生きていてよかったのだと言われているようで、とても幸せなことだと知った。
だから、正確な月日は知らないけれど、イクスの誕生日は春のはじめと言っていたから、今年は何かイクスにプレゼントとしたいと思って、アンナに教えてもらいながらお守り袋を作っている。
イクスにも、生まれてきて、生きてきてくれてありがとうって伝えたかったから。
お守り袋を作るために師匠に手芸を教わり始めてから、リーアはますます忙しくなった。
薬師としての勉強、外国語の習得、料理の練習、そして手芸。
リーアにとってはとても充実しているけれど、アンナもその分忙しくさせてしまっているので、少し申し訳ない。
師匠にそのことを伝えたら、薬師の勉強だけでなく、他のことも教えるのが師匠なのだから、気にしなくていいと言ってくれた。
それに、新しい事を教わるときは、イクスが報酬を出しているらしく、懐がうるおうのよ、とも言っていた。
そうなると、イクスに申し訳ない気がしてくるけれど、イクスにも、リーアが成長して一緒に各地を回る為の自分のわがままなのだから、気にしなくていいとこちらも言われてしまった。
それはそれとして。
いつものように朝の素材採取を終え、朝ごはんを食べ終わった時に、師匠が尋ねてきた。
「私が今まで教えてきた薬師としてのあらゆる知識、紙に残しているんでしょう?全部持ってきてくれる?」
「はい、すぐに持ってきます」
リーアはかけ足で階段を上り、机の上に並べていたいくつもの冊子──リーアのメモを紐で閉じたもの──を全部抱えて、なるべく急いで師匠のもとに戻った。
「中、見ていいかしら?」
「もちろんです」
「ありがとう」
師匠はパラパラとページを捲りながら、頷いたり、リーアに質問したり、別の冊子と見比べてみたりしていたが、やがて納得したようにリーアに冊子を返した。
「かなり貯まったわね。もう、全部一人で作れることはできる?」
「えっと、試したことはないですけど、全部一度は作ったことがあるものだから、大丈夫だと思います」
「じゃあ、今日から3日間かけて、全て一人で作ってみて?ギルドに調達を任せるような素材に関しては、私がボックスから出すから、必要なら言ってね。それから」
そう言って、師匠は一旦言葉を切って、キッチンにある料理のレシピ本が並んでいる所から、何冊か冊子を持ってきた。
「これは、私がまとめた薬や毒のレシピよ。普段は隠してあるの。ここに書いてあるもので、作ったことがないものもその後でリーアだけで作ってみましょ」
試されている、とわかった。
たぶん、このテストでリーアの薬師としての技術や経験、資質などが明らかになる。
それによって、約束の3年より早く独り立ち出来るか、明暗が分かれる。
(早くイクスさんと一緒に暮らす為に、頑張る)
リーアは力強く誓った。
それからは、師匠の仕事を手伝うことより、一日中、これまで教わってきた物を再現することを優先された。
作るのに数日を要するものから先に作っていき、それらを作る合間に、短時間で出来るものを作っていく。
出来たものはどんどん師匠に確認してもらい、成功していたものは、レシピに印をつけていく。
5日後。
数日間熟成させる必要のあるものは除き、他のものは師匠のレシピも含めて、すべて合格をもらえた。
「よく頑張ったわね、いい子。じゃあ、最後に、これまで作ったことがなくて、レシピもない、まったく新しい薬と毒を作ってみて。効能はこれまで作ったことがあるものと同じでもいいわ。何日かかってもいいし、希少性の高い…手に入りにくい素材が必要ならギルドで採取依頼をかけてね。これまでに教えてきた、あらゆる素材の特性を考えて、自分でレシピを作って、実物を作り上げてみて。出来る?」
師匠は、最後に、と言った。
ということは、これがきっと最後のテストなのだ。
出来る出来ないの問題じゃない。
やるか、やらないかだ。
「やります」
リーアの言葉に、師匠は嬉しそうに微笑んだ。
それから、1週間かけてリーアはどんな薬と毒を作るのかを決め、さらに3日かけてレシピを考え、また3日かけて必要な素材を決めた。
ちなみに、毒を作るときは解毒薬も必須なので、これは特には言われなかったけれど、リーアはもちろん解毒薬の調薬のレシピも考えた。
薬の素材については手に入りやすい物を中心として、逆に毒の素材は手に入りにくい物をメインにした。
作る薬は、身体が自分で治そうとする力を倍近くまで底上げするもの。
毒は、毎日小匙一杯を服用すると、1週間後には目覚めることなく眠るように死ぬ、というものを作ることにした。
毒の素材は、リーアのボックスにはないし、師匠の家の周りでも手に入らないので、ギルドに採取依頼をかけた。
報酬は、師匠が払ってくれることになった。
毒の素材が集まるまでは時間がかかるので、それまでの間に薬を作り始めることにした。
素材はすべて師匠の薬草園や森で手に入るものだったけれど、早朝や、逆に月夜や新月の夜にしか手に入らないものもあったので、やはり作りあげるまでに時間がかかった。
そして1ヶ月後。
リーアは作り上げた薬と毒、解毒薬を師匠に見てもらった。
師匠は、実験用の動物でそれぞれを試して結果を確認したあと、リーアにレシピを聞き、さらに1ヶ月かけて、薬の副作用や、解毒薬の効能を確認して、全てが終わったとき、リーアに優しい視線を向けた。
「合格よ。どちらも素晴らしいわ。特に、毒のレシピはいいわね。入手困難な素材を扱うから、その分価格も上がるし、そうなれば安易には手が出せなくなる。それに、これはこの三種類全てに言えることだけれど、なんの素材を使っているのか、微妙に判りづらくカモフラージュされてるから、まねをするのは難しいでしょうね。
おめでとう。これは、あなただけのレシピよ。今後も、自分で新しくレシピを作ることが増えるでしょう。薬師は、常に新しいものを作り続けなければいけない職種だから。でも、基礎となるレシピもちゃんと疎かにしないで必ず毎日作るようにしなさい。基本レシピは、毎日の生活で役立つものだから。
さあ、これであなたは今日から一人の薬師よ。でも、まだシュバルツの元へは返してあげられないの。ごめんね。あなたの薬師としての知名度を上げるために、商業ギルドと闇ギルド、冒険者ギルドに紹介状を書いてあげるから、どんどん自分を売り込みなさい」
つまりは、ギルドで名が通るようになれば一人前なのだろう。
紹介状を手に、師匠と一緒に各ギルドをまわったが、さすが師匠だけあって、「グリーン・アイ」の弟子と言うだけで、どこでも信用してもらえた。
やがて、わずか1ヶ月でリーアのコードネーム「レッド・アイ」はその腕の良さで有名になるのだが、それはまだ、少し先の話。
各ギルドから調薬の依頼が来るまでや、採取の依頼をしたりしている間、リーアはこれまで通り、師匠の仕事の手伝いをして過ごした。
なるべく、調薬は毎日行った方がいい。
毒はともかく、薬はいつどんな場所で必要になるかわからないからだ。
それに、身近な素材でも、採取条件が厳しいものもあるので、採取したらボックスに保管して置くことも必要だ。
空いている時間には、外国語や、料理、歴史など師匠から教わった。
リーアのテストが終わってから会いに来てくれたイクスには、すごく褒められて、喜んでもらえて、イクスに誕生日プレゼントも渡せたし、リーアの調薬した薬を、ちゃんとリーアから買ってくれた。
つまり、イクスはお客様第一号。初めてのお客様だ。
そのことが、リーアはとても嬉しかった。
「アッチの教育は?」
「心配しなくてももう始めるわよ」
イクスと師匠はよくわからない話をしていたけれど、イクスが訪ねてきた翌日には、なんの話をしていたのかわかることになった。
それは、リーアにとって、初めて難しいと感じる教育になる。




