凄腕薬師に弟子入りします 4 〜イクス視点〜
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仕事が立て込んでいて、数日はリーアの顔を見に行けなかった。
でも、ある日の昼間、リーアに渡したネックレスの反応を感じた。
あれは、リーアに許可なくイクス以外の異性が触れようとして、リーアが恐怖を覚えたときに薄くシールドを張る役目も付与している。
幸いというべきか、軽い反応が1回だけだったので、ひどい状況にはなっていないだろう。
軽くとはいえ、魔法反応を感じれば、アンナも対応するだろう。
アンナが不在にしていた時だったとしたら、少し心配だ。
あれ以来、ネックレスが伝えてくるリーアの感情は落ち着いたものなので、大丈夫だろう。
とは言え、心配なので、今夜の任務が終わったら様子を見に行こうと思っていた。
夜半すぎにリーアの部屋へ入ると、リーアは落ち着いた様子で、ぐっすりと眠っていた。
相変わらず、ウサギのぬいぐるみと自分の服を抱きしめている。
「今夜は来ると思ってたわ」
呆れたような声に、イクスは後ろを振り向きもせずに尋ねた。
「今日は、何が?見たところ、リーアに傷はついてないみたいだけど。まさか、危険な目に遭わせてないよな」
「近所の子どもたちに絡まれたみたいよ。魔女の子って。年頃はこの子と同じくらいだったらしいけど、どうも、男の子たちだけで、一人がリーアを小突こうとしたらしいわね。アンタが付与している魔法にびっくりして逃げ出したらしいけど」
(リーアを小突く?子供だとしても、許されることじゃないな)
「ちょっと、殺気抑えてよ。リーアが起きちゃうじゃない」
言われて、殺気を身体の奥に抑え込む。
「どこの子か、わかる?」
「分かるけど……子供相手に手荒なことはしないでよ?」
「大丈夫。ちょーっと脅かして、二度とリーアに話しかけようなんて思えないようにするだけだから」
はぁっ、と姉弟子がため息をついたが、リーアはやり返そうなんて思いもしないだろうから、イクスが代わりに、リーアが感じただけの恐怖感を味あわせてやるだけだ。
正直、これでもかなり譲歩している。
イクスにとっては、この近所の子供が一人や二人いなくなろうがどうなろうが、どうでもいいのだ。
イクスの任務の中には、幼い子どもや赤ん坊まで殺すものもある。
これまで、それをなんの感慨もなく熟してきたのだ。
今更、平民の子供を殺すことに躊躇いはない。
「で?どこのガキ?」
「リーアの言ってた特徴から考えると、ここから一番近い下町の、パン屋の息子と八百屋の息子、あとはちょっとわからないけど、リーアを小突こうとしたり、主に話しかけてきてたのは、パン屋の次男坊よ。
こげ茶の髪」
「すぐ戻る」
アンナの言っていたパン屋は、すぐに見つかった。
家の中に入ると、両親とは別の部屋で、兄らしき少年と眠っているガキがいた。
こげ茶の髪。身体の大きさからして、おそらくリーアと同じくらいの年齢。
コイツで間違いないだろう。
そっと、まだ細い首を片手で掴む。
(このままヤッちゃってもいいんだけど、万が一にもリーアに危害や被害が振りかかっても困るしね)
イクスは、首から手を離すと、子供の額に手を当てた。
そのまま、目を閉じてゆっくりと子供の夢の中に入り込む。
「眠りの森」と言われている精神干渉系の魔法だ。
他人の夢に入り込み、夢を自在にコントロールする。
(へぇ。これはこれは)
そのガキは、夢の中でリーアに会っていた。
夢の中のリーアは、何故か天使の姿をしている。
(何だかんだやっておきながら、リーアのこと好きになっちゃったって感じ?確かにリーアは極上の女の子だけど、これは許せないよね)
ガキの見ている夢を、少しずつ変えていく。
まず、コイツが触れた瞬間に、リーアの翼が失われる。
そして、雷雨。
濡れているのはガキだけだ。
たまらず森の中へ逃げ込んだところで、魔物に襲わせる。
敢えて、下町まで逃げさせて、自分の家の店先で家族が神様(っぽく見えるやつ)に、額をついて謝らせている姿を見せる。
駆け寄ろうとしたガキを、恨めしげに睨む家族。
ガキが動揺したところで、最後の一発。
ガキ目掛けて雷を落とす。
そこまでやって、イクスはすっ、と屋根裏に移って様子を見た。
ガキは泣きながら目覚めて、どうやら粗相もしたらしい。
隣に眠る兄を起こして、大泣きしている。
まあ、これでとりあえずは懲りるだろう。
ここまで、時間にして3分。
イクスは、早くリーアの元へ戻りたくて、さっさとその場を後にすると、リーアの部屋へと戻った。
「あら、早かったわね」
「ガキ一匹懲らしめる程度、そんなに時間かかんないよ」
「あっそ。それより、アンタに少し相談があるのよ。この子のそばにいたい気持ちは分かるけど、起こしちゃっても可哀想だから、場所を移しましょ」
面倒だな、と思いながらも、リーアを預けているアンナからの相談だ。
もしかしたら、リーア絡みかもしれないので、アンナの後について使われていない客間に移動した。
「私、闇ギルドから依頼が入って、依頼主と会うのに5日後の夜に家を空けなきゃいけないのよ。
そうすると、リーアが一人になるでしょ?」
「あーそうか。リーアは俺と暮らしてたときも1度夜に留守番させたから、出来ないことはないだろうけど、一人にしておくのは不安だな」
アンナに依頼をかけたあの日。
リーアは一人でちゃんと夜の留守番が出来た。
でも、あの時、すごく不安そうだったのを覚えている。
「一応、リーアの気持ちを聞いて、ダメそうなら俺が夜に会いに来るよ。ただ、リーアは表面上我慢しちゃうから、うまく誘導よろしく」
「アンタの仕事は……って、何とかしちゃうでしょうね。愚問だったわ」
それから、またリーアの部屋に戻ると、持ってきていた服を、リーアを起こさないように、抱きしめている服と交換した。
同じデザインだし、たぶん気が付かないだろう。
「じゃ、5日後の夜にね。リーア」
額に軽く口付けて、イクスはアンナの家を出た。
リーアの留守番の夜。
任務を終えて帰ろうとしたが、隠密騎士団長に引き留められて、少し時間をロスしてしまった。
リーアの元に着いたのは、夜もだいぶ更けてからだ。
アンナの家からは、リーアの気配はしない。
ちゃんと、約束通り気配を消しているのだろう。
2階の窓を、予め決めてあった通りに3回ノックする。
それから返事も待たずに部屋の中に入ると、パッとリーアが起き上がるところだった。
子犬が尻尾をブンブン振っているみたいに、全身から喜びが漏れているリーアに、イクスも笑顔になる。
(起きてるところは久しぶりに見たけど、ほんと、可愛いんだから)
「イクスさんっ!」
「久しぶりだねぇ、リー。元気に頑張ってる?」
「うんっ!師匠が、色んなことをたくさん教えてくれて、たくさん覚えたし、たくさん出来る様になったよ」
「そっかー。リー、少しふっくらした?」
尋ねると、リーアはキョトンとして自分の身体をペタペタと触っている。
「そう、かな」
「うん。俺と初めて会ったときに比べると、だいぶ健康そうに見えるようになったよ」
リーアは、えへへ、と嬉しそうにしている。
アンナの話では、リーアは早く大きくなりたいらしい。
身体的なこともそうだけど、年齢的にも。
(俺に釣り合うようになりたいから…とかだったらいいなぁ)
リーアが、今、アンナの元で薬師の修行をしているのも、イクスが決めたからだが、リーアはそれが当たり前のように、修行を頑張っている。
早く一人前になって、イクスと旅をするために。
こんな風に自分のために頑張っている姿を見せられたら、そりゃあ、多少は自惚れる。
「リーにとってさ、俺って父親とか兄貴みたいな感じ?」
「わたしは、父親とかお兄さんとかいないからわからないけど、イクスさんはそういうのじゃなくて、一緒にいられると嬉しくて、胸がぎゅうってする感じ。
師匠にはそういうのは感じない」
(ふーん、そっかそっかぁ。いい具合に溺れてくれてるねぇ)
「俺も、リーが大事で、可愛くて、ずっと胸に閉じ込めてたいくらい好きだよ。
さ、もう遅い時間だから、寝ようね」
「イクスさんも、一緒にベッドに入ってくれる?」
「今日だけ特別ねぇ」
靴も上着も脱がずに、リーアを抱えてベッドに入る。
もちろん、ベッドが汚れないように足は布団から出している。
「イクスさん」
「ん?なぁに、リー」
「師匠には、イクスさんのこと、どう呼べばいいの?師匠は、イクスさんのこと名前で呼ばないけど、『イクス』ではないのかなって」
「うん。賢いねぇ、リー。『イクス』は俺の本当の名前だけど、知ってる人は少ないから、呼び名としては、『シュバルツ』が多いよ。だからもし、リーがアンナに俺のこと話すときは、『シュバルツ』って言えばいいよー」
「しゅばるつ……」
幼い舌には、少し発音が難しかった様だが、その舌足らずな感じもまた可愛い。
「明日の朝も早いんでしょ?じゃ、もう寝ないとね。おやすみ、リー」
一緒に寝起きしていたときのように、背中を優しくポンポンと叩いてやると、リーアはすぐに眠りに落ちた。
それから、アンナが帰ってくるまで子供体温を堪能すると、入れ違いにイクスは隠れ家へと帰った。
夜明けまで、あと少し。
イクスは短い眠りについた。




