凄腕薬師に弟子入りします 4
師匠のところで、薬師の仕事について勉強し始めて今日で10日。
毎日、覚えることがたくさん。
段々と、作れる薬が増えていくのは楽しい。
たまに、失敗して師匠から注意されることはあるけど、師匠は一方的に怒ったりしないで、どこで間違えたのかをリーアに考えさせてくれる。
そうすると、不思議なんだけどもう同じ間違いはしなくなる。
師匠のところには、たまにお客様が来る。
大抵は、近くの町の小物屋さんで、そこで師匠の作った薬を売ってくれているらしい。
あとは、滅多にこないけど、高そうな服を着た人。
こういう人が来たあとは、師匠はいい金になったわ、と喜んでいる。
そういう人は、師匠のことを「グリーン・アイ」って呼んでる。
最初、リーアが対応したとき、そういう人たちはみんなびっくりした顔をして、ここは「グリーン・アイ」の家で間違いないか確認してきた。
リーアが間違いないと言ったら、リーアの正体を探るような目を向けてきたけど、すぐに師匠が奥から来てくれて、自分の弟子だと紹介してくれた。
でも、あまりリーアがそういう人の相手をしなくていいように、すぐにリーアに調薬室に行くように言ってくれるから、怖い思いをしたこととかはない。
町の子どもたちからは、師匠は魔女だと思われてるみたいだ。
1度、家の前の薬草園で薬草を摘んでたら、男の子たちが何人か来た。
ちょっと怖かったけど、なんの用なのか分からなかったからじっと見てたら、一人の男の子が言った。
「おまえ、魔女の子供だろ!」
最初、本当に何を言われているのか分からなくて、首を傾げた。
「知ってるんだぞ!ここで魔女があやしい薬作ってるんだろう」
「わたしは、師匠の子供じゃなくて弟子だし、師匠は薬師で、魔女じゃないよ」
静かに言い返したら、男の子たちはちょっとびっくりしたみたいな顔をした。
でも、別の子がまた言った。
「薬師ってなんだよ!あやしい薬作ってるのは本当なんだろう?」
これには、うーん、と考えさせられた。
まず、「あやしい薬」が何を意味しているのかわからなかったのだ。
確かに、師匠は普通の風邪薬とかだけじゃなくて、眠りを深くさせる薬とか、お肌を若く保つ薬とかも作ってる。
あと、毒や毒消しも。
(毒とかは、あやしい薬になるのかな)
考えていたら、男の子たちはそら見ろと言わんばかりに勢いづいた。
「ほら、やっぱり作ってるんだ!」
(うーんと、でも確か、毒を作ってるのは内緒なんだよね。じゃあ……)
「師匠の作る薬は普通だよ。あなた達も、風邪を引いたりお腹痛くなったりする時薬を飲むでしょ?
そういう薬を作ってるんだよ」
そう言うと、男の子たちはちょっと怯んだみたいだった。でも、後には引けないと思ったのか、一人の子がリーアの体を後ろに押そうとしたみたいに手を出した。
その瞬間、男の子の手がパチン!と音を立てて弾かれた。
「うわっ!なんだよ、今の……や、やっぱり魔女なんだ!」
男の子たちは怖くなったのか、一斉に逃げ出した。
(魔女じゃないって、信じてもらえなかったな)
でもリーアも突然手を伸ばされて怖かったし、これであの子達が近づかなくなればいいな、と思って放っておくことにした。
後から、師匠にこの話をしたけど、師匠も笑っているだけだった。
なんとなく、魔女だと思われてる方がいいのかな、という気がした。
師匠は、たまに市場に買い物に行ったり、ギルドに依頼や受取に行ったりするけど、あんまり人と関わらないようにしてるように見えたから。
それ以来、町の子どもたちは来なくなったから、もうどうでもいい。
初めて、同じ歳くらいの子にあったけど、乱暴だったし、人の話をちゃんと聞かないみたいだったから。
「町の子は、たいてい教会に勉強をしにいってるのよ。だから、ここへは滅多にこないわよ」
「教会で勉強してるんですか?」
「そう。読み書きとか、計算とかね。リーアも行きたい?」
「行かなくていいです。わたしは、読み書きも計算も出来るし、今はここで師匠に薬師になるための勉強を教えてもらってるから」
そう答えたら、それから後は師匠ももう町の子たちの話はしなくなった。
そんなことがあった数日後の夜。
夕ごはんを食べながら、師匠が言った。
「私、3日後の夜は出かけなくちゃいけないの。一人でお留守番できる?」
「はい。誰が来てもドアを開けない。気配を消して、音を立てない。あまり動き回らない。これを守ればいいんですよね」
イクスさんに教えてもらったことを言うと、師匠もにっこりした。
「そう。誰が来ても、絶対にドアを開けちゃだめ。
留守だと思わせておくのよ?
でも、一人で寂しくない?」
そう言われると、少し寂しいし、心細い。
前に、イクスさんと暮らしていた時、イクスさんが夜出かけたときも、心細かった。
それに、もしも師匠のいない時にお客様とか町の子が来たら、怖いと思った。
身を潜めているのは得意だけど、怖いものは怖い。
「でも……この家には師匠と私しかいないから」
「そうね。うーん、じゃあ、アイツに来てもらう?」
師匠の言う「アイツ」は、イクスさんのことだ。
(まだ、1ヶ月経ってないけど、いいのかな)
師匠は、わたしの考えていることがわかるみたいに、ちょっと笑って頭を撫でてくれた。
「アイツの都合もあるから、必ず来てもらえるとは限らないけど、あなたが夜一人になるのが不安だってことを伝えたら、用がない限り来てくれるわよ」
「そう、でしょうか……」
「大丈夫。聞いておくわね」
師匠とイクスさんは離れているのに、どうやって聞いておくのか分からなかったけれど、その言葉に安心した。
なんとなくだけど、師匠から話を聞いたら、イクスさんは来てくれる気がした。
だって、優しい人だから。
出会ってからずっとずっと、優しかったから。
それから3日後の夜。
師匠は出かける準備をしながら、リーアに微笑みかけた。
「アイツ、来てくれるって言ってたわよ。あなたの部屋に直接来るって言ってたから、ドアの鍵は締めて、絶対に開けないでね。部屋の鍵も締めていいわよ。
アイツが来たら、窓を3回ノックするって言ってたけど、まぁ、アイツなら鍵が閉まってても入ってこれるから、安心して待ってなさいな」
(イクスさんに会える!)
リーアは嬉しくて、コクコクと頷いた。
それから、リーアが湯浴みをして髪を乾かしたのを見届けて、師匠は出かけていった。
リーアは、言われた通りに玄関のドアの鍵をかけて、部屋の窓の鍵も閉めて、イクスの買ってくれた夜着姿でベッドに腰掛けて、ソワソワとイクスさんが来てくれるのを待った。
でも、月がだいぶ高くなってもイクスさんは来てくれなくて、リーアはイクスにもらったウサギさんを抱いて、ベッドに転がった。
毎朝、起きるのが早いこともあって、少しだけ転がっているだけのつもりが、リーアは気がつけばウトウトし始めていた。
その時、トントントン、と窓が鳴って、リーアが飛び起きるのと同時に、カーテンがフワッと揺れて、待ち望んだイクスが部屋の中に入ってきた。




