星系軍の戦闘機部隊
王国への備えについては星系軍の参謀に丸投げして、俺は戦闘機部隊へと回ることになった。ドヴェルグ星系軍の基本戦術は遠距離からの制圧射撃ではあるが、それで殲滅はできない。間合いが遠いということは、相手は不利になれば逃げられるという事だからな。
また相手を海賊戦術と想定するなら、懐に入られた時を考えなければならない。それに対応するのは戦闘機部隊なのだ。
魔導騎士も大隊を組める程度には配備されているが主力ではない。魔導騎士は戦艦が相手となれば主力として働くが、海賊船相手だと機動力についていけない。
王国が艦隊を持って攻めてくるというのは、現時点で考えにくく、海賊を駒として攻めてくるなら対抗するなら戦闘機となる。
海賊船は機動力に優れるとはいえ民間船を改造した程度のもの。軍が正式に採用する戦闘機に比べれば機動力の面でも戦闘機の方が分がある。
これは継ぎ接ぎで作られる海賊船と違って、戦闘機は一機でデザインされた兵器なのでバランスが整えられているから当たり前だ。
出力を上げた推進力を持っていても、それを制御できなければ動きが単調になり的になるだけ。光速で弾が行き交う宇宙戦では、意図通りに曲げれる事が生死に直結する。
もちろん急旋回などでGが掛かって分解するようだと話にもならないし、耐G制御がなければパイロットが潰れてしまう。
それらをトータルで設計するには、まとまった金が必要で、それを出せるのは星系を守るために税金を使える軍となる。
この世界にも安価な兵器として無人機という概念はあるが、あまり有効ではなくなっている。
人工知能として船などの制御を任せるホムンクルスは、外部からのハッキングに弱い。人工生物は魔術に対する抵抗力が弱いらしい。
下手をすると制御を奪われて味方を襲い始めるなんて危機もありえた。
俺達研究所出身の転生者達もホムンクルスをベースにしているが、抵抗力が弱いと感じたことはない。となると考えられるのは魂の有無とかになりそうだが、人工知能として生み出された自分では動けない魔道具に魂を宿らせるなど人体実験以上に非道な行いだろう。更にはそれを無人機として使い捨ての様に使うとなると、ハッキングされる前に反乱が起こってもおかしくはないな。
意思のない簡素な命令だけを聞く旧式コンピューターの様な魔道具で運用しようとすると、処理速度は遅くなるし、センサー類を誤魔化されると対応できなかったりと、やはり実戦では使えない代物になってしまう。
町の警備レベルなら問題ないんだろうが、軍として命を預けるには心許ないとなっていた。
そんな訳で国防で大事なのは人による戦力となってくる。特に戦闘機乗りとなるのは、実力を認められたエース達。その優劣は勝敗を左右する事もあるだろう。
星系軍の主な仕事は鉱山やステーションといった拠点防衛ではあるが、航宙部隊は巡回任務も行っていた。航路の安全を守るのを傭兵に任せきりというのも外聞が悪いし、戦闘経験を積ませるという意味でも大事だろう。
それらを踏まえて戦闘機部隊の隊員というのは少しエリート意識が強いというか、自信が溢れていて少々天狗になりがちだとか。
ドヴェルグの平和は俺達が守る。
そんな意識がビンビンと感じられた。
そんな隊員達を相手に模擬戦をしてくれというのが今回のお仕事だ。
俺が乗ってきたのは小型宇宙船で戦闘機ではないんだがね。それでもアイネと共に王国の戦闘機部隊とやり合った事もある。その辺の戦績を見つけた参謀からお灸を据えてくれという依頼だ。
自分達もへこまされたんだから、戦闘機部隊もへこんでおけという嫌がらせではないだろうな。
まあ、いきなり王国軍を相手にするよりは前もって足りない部分があれば、補っておくのは大事なことだ。
「こちらは小型宇宙船と魔導騎士一騎、そちらは小隊単位で戦力を整えてください」
「では第1小隊から順番にやろうか」
王国相手の時は小隊3編成の中隊を相手にした。星系軍もまずは1小隊で様子を見るつもりだろうが、さてさて何小隊まで相手にしないといけないかな。
アイネとテッドの操縦分はシミュレーターの設定値として入力している。ただどうしたって本人達よりはスペックは落ちるだろう。人というのは戦闘中にも成長するからね。それは射撃精度が上がるとかではなく、動きを読んで偏差射撃を行ったり、相手の意表を突く攻撃を行ったりという面でだ。
その辺、シミュレーターは撃墜結果からの反射や攻撃精度でしか評価されない。少し不利ではある。
「ま、逆を言えばスペック通り仕事をしてくれるって事だけどな」
人間であれば不調もあれば、些細なミスも混ざる。意表を突いた行動というのは、味方を驚かすこともあるのだ。その辺、シミュレーターの演算は計算通りの数値を出してくれる。
「テッドの射撃の腕は俺から見ても変人の域、それを数値通りに熟してくれるなら十分だ」
シミュレーターで再現された戦場は艦隊戦だった。戦艦同士が距離を詰合い、主砲で互いの防御結界を叩きあってる状況。味方の船の側なら援護射撃が貰えるし、相手の船に近づけは対空砲火を浴びる可能性も出てくる。
更には主砲を撃ち合っているので、その火線上へ入るのは危険。
「シミュレーター慣れしていたら、リスキーな戦法も取りやすいかもしれないが……」
命が掛かっていないシミュレーターだと戦死判定で多少のペナルティがあるとしても、バンザイアタックをしがちだ。自分が死ぬことよりも相手に打撃を与える事を優先できる。
実際の戦場でそれができるかは分からんが、捨て身の攻撃というのは厄介だ。ギリギリまで距離を詰め、外せない距離で攻撃を狙ったりできるからな。
小隊での戦闘となるとセオリーは2機ごとのバディに分かれて挟撃だろうか。味方が射線に入らないように十字砲火できる形を作るのが基本。
それを避けるには片方へと接近して、フレンドリーファイアを嫌う状況に持ち込む事だ。ただここでもシミュレーター慣れの問題が出てくる。味方を撃ってもペナだけだと思えば、際どい射撃も躊躇わずに行える。
「だからこうなる」
俺の機体はあの時と同様にワイヤーで魔導騎士と繋がれた状態だ。これは戦闘機の機動力に魔導騎士を連れ込むための手法だったが、逆に魔導騎士を使うことで戦闘機にない移動ができたりする。
魔導騎士のスラスターと腕力で、宇宙船の方を引っ張って貰うことで、本来なら不可能なスライド移動ができてしまう。敵の目前でピンと張ったワイヤーによって大きく軌道が変わった。
そこへ背後から狙っていた戦闘機からの攻撃が、目の前の戦闘機へと襲いかかる。戦闘機は機動力で避けるのが基本なため、防御結界はさほど厚くない。正面からの連射を食らったらひとたまりもなかった。
近づく俺にギリギリまで狙いを付けて攻撃していた前方の機は回避への意識が薄く、背後から俺を狙ってきた機は味方を攻撃する意識が薄い。
俺は攻撃する意思もなく、タイミングを合わせて回避すれば、目標を失った弾は味方を貫くという訳だ。
ここでの想定外は、前方にいた戦闘機の攻撃も後方から追ってた機体に当たった事だな。ギリギリまで引きつけて避けられない様に広い射角の攻撃を行った事と、逃さないようにピッタリと背後を取ろうとした事が重なった結果か。
「連携が取れてないな」
もしかするとチーム内の評価でも攻撃を当てた者が優秀とされているのかもしれない。そうなるとひたすら攻めへの意識が強くなっているだろう。
俺は辛うじて生き残っていた戦闘機を処理しつつ、次の小隊が参戦してくるのを待った。




