表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サジタリアスの円盤  作者: 飛知和美里
9/21

第一部

 スタンも自慢の剣でジャイアントバットを切り裂いた。

「吸血タイプじゃねえってんなら……とおりゃっ!」

 リザードマンならではの筋力や俊敏性を活かし、次々と仕留めていく。

「さすがスタンだな。戦うことに関してだけは、天才だ」

「その『だけ』ってのは何だよ? ニス」

 そうしてスタンたちがモンスターを引きつけている間に、モーフィは錬金魔法の準備を済ませた。ジャイアントバットの群れは赤い煙に包まれる。

「#$%&ッ!」

 それまで機敏だったジャイアントバットの動きが、やけに鈍くなった。目をまわしたように宙でふらついては、ひっくり返る。

「これはコンフュージョン(混乱)か? モーフィもやるではないか」

「#$%&」

 敵の群れはもはや格好の的だった。スタンとニスで数を減らし、とどめにはドラゴンネオのエルロイが十八番を披露する。

「あとは僕がやります、さがってください! ハアァーッ!」

 高熱のブレスが残りのジャイアントバットを一気に焼き尽くした。

 スタンは剣を納め、余裕を浮かべる。

「まっ、こんなもんかな。すげえじゃねえか、エルロイ。火を吐けるなんてよ」

「ドラゴンネオの仲間がこれほど心強いとは……」

 ニスからも賛辞を受け、エルロイは照れながらも謙遜した。

「ハハハ……スタミナを消耗しますから、せいぜい一度の戦いで一回が限度なのですが」

「モーフィの魔法もあるし、おれたち、割といいパーティーなんじゃねえ?」

 先ほどの戦いに確かな手応えもあって、スタンたちは意気投合する。

 付き合いの長いスタンとニスの息が合うのは当然、モーフィのサポートもタイミングがよかった。また、エルロイは槍とブレスで中距離をカバーできる。

「錬金系統の魔法にあまり攻撃的なものはないそうだが」

「#$%&」

「そんなこと言うなよ、ニス。モーフィが怒るだろ」

 おかげで、ジャイアントバット程度のモンスターに苦戦する道理もなかった。

「それより……あの女性が見当たりませんね」

「ん? ……おっと、忘れてたぜ。変な女を追ってたんだっけ」

 スタンたちはモンスターの奇襲を警戒しつつ、塔の階段を昇っていく。

「いたぞ、スタン。あっちだ」

 リザードマンのご令嬢はおぼつかない足取りで、スタンたちの少し先を進んでいた。こちらには気付きもせず、黙々と歩くだけ。

 階段の脇には看板が立っていた。

『宝石姫の滑稽な最期はこちら。あなたも笑えるはず!』

 意味がわからず、一同は首を傾げる。

「……笑える、だって?」

「あと少しで最上階のはずです。行きましょう」

 さらに昇ると、半壊した扉があった。これも『広間』のものと同じく昔は豪奢なものだったらしい。蝶番も外れ、向こうから冷たい風が吹き抜けてくる。

 その先は誰かの私室だった。とうに朽ちているとはいえ、箪笥やベッドなどから、部屋の主の立場や生活を窺い知ることができる。

「こんな高いとこに住んでたってか? おれの婆ちゃんじゃ昇れないぜ……」

「小生の祖父も無理だな」

 壁の一部は大きな鏡となっていた。扉や家具は壊れている中で、その鏡だけは目立った破損もなく、先ほどの女性を映している。

 真正面からそれを見て、リザードマンの令嬢は急に狂乱し始めた。しきりに丸い頭を撫で、何かを引っ張ろうとする。

「な、なんだ?」

「様子がおかしいですね……」

 大声で喚き散らしているようだが、声は聞こえなかった。

 そして窓へと近づき、それを乗り越えようとする。

「いかん! やめろ!」

 咄嗟にニスが手を伸ばすも、彼女に触れることはできなかった。

 女は身を投げ、塔の下まで落ちていく。

「……………」

 スタンたちは絶句した。窓から見下ろせば、再び立ちあがるのが見える。

「彼女は小生の手をすり抜けたのだ。実態がない、ということは……」

 背筋にぞっと震えが走った。

「じ、冗談だろ? 幽霊だなんて……ハッ、ハハハ」

 スタンは青ざめ、慌てて窓から離れる。

 鏡の前でモーフィが小さなものを見つけた。

「#$%&」

「大分傷んでますけど、靴ですね」

 エルロイに『靴』と言われて、スタンも気付く。

「あの女の持ち物ってか?」

「それにしては小さすぎるぞ。履くのが子どもならまだしも……」

 見たところ、その靴は彼女のドレスに合わせてのものらしかった。だが、さっきの女性の足とはサイズが一致しない。

 特にリザードマンは脚力に優れる分、足が大きかった。

 スタンたちだけで考え込んでいても、答えは見つかりそうにない。

「……腹も減ったし、今日はこのへんで切りあげるか」

「僕も賛成です。陽が暮れては、動きづらくなりますから」

「#$%&」

 踵を返そうとしたところでニスが提案した。

「やはり一度ブライアン殿に聞いてみてはどうだ? 石碑のこともご存知だったんだ」

「それしかねえか。ここには長いこと住んでるみたいだし……」

 話しがてら一行は塔を降りていく。

 その途中で令嬢の幽霊とすれ違った。延々と身投げを繰り返しているのだろう。

『宝石姫の滑稽な最期はこちら。あなたも笑えるはず!』

 あの看板は彼女を嘲笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ