表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

10、漁師の話(怖さレベル:中~高)

 私は生まれも育ちも海無し県だからか、船への憧れ意識が強かった。


 しかし残念な事に私には豪華客船に乗れるような甲斐性はなく、クルーザーを持ってる富豪の知人もいない。

かといってどこぞの池や湖にあるスワンボートで満足する筈もなく──


 そこで私は二十代前半の頃、船に乗る事を目的とした旅に出たのだった。



 場所はK県の海。

遊覧船に乗り、定期船に乗り、別の遊覧船に乗り──


 果てには観光案内の人に地元の漁師さんを紹介してもらって、特別に個人で持つ漁船に乗せて貰う事になった。


 地元の人の優しさに感謝である。

勿論謝礼は渡した(あと菓子折りも)


 前置きが長くなってしまったが、今回の話はその時に知り合った漁師のおじさんに聞いた話である。



 私が乗せて貰ったのは五人だか六人乗りの小型漁船で、屋根のないタイプの船だった。

乗船者は船の持ち主である漁師のおじさん(六十歳前後?)と私の二人きり。


 そう、まさかの初対面で二人きり。

気まずくて会話も弾まない──なんて事は微塵もなかった。


 漁師さんはとても親切&豪快な人で、聞いてもいないのに色々な話を聞かせてくれた。


 時期にもよるが、魚が大漁の日もあればやけに不漁な日があるらしい。

自然が相手なので仕方ない事ではあるが、生活もかかっているので漁師さん達も必死である。


 話によると「獲れる」ポイントがあるらしく、地元の漁師達はそれらと長年培ってきた勘を頼りに船を出すのだそうだ。


 ふいにエンジンを切った漁師さんが、「ほら、流されてるの分かるか?」と語りかけてきた。

小刻みに激しかった揺れが止まり、波の揺れだけが感じられる。

なんて粋な計らいか。


 晴れ渡った空の下、本島や島、他の小型漁船が遠くに見える。

風が強い。

ボボボ、と吹き付ける風の音に負けないよう、漁師さんは声を上げた。


「この辺りは流れが早い。特にあの辺り(前方を指し示し)は怖いポイントでな。たまに船がひっくり返るんだ。何日か前も事故があったし」


 実際はかなり方言が強かったのだが、まぁそんな感じの事を言われた。

私はというと「ひゃ~、見た目じゃ全然分からないですねぇ」と小学生のような感想を述べたように記憶している。


 再びエンジンをかけた漁師さんは、彼なりに安全らしいルートで私をもてなしてくれた。


 話の内容は「この辺でバカデカい魚(種類は聞き取れず)が獲れた事があって皆に自慢した」だの、「港に戻ったらあそこの定食屋が旨い」だの色々である。


 そんな「色々」な話の中に、ちょっと気になる話が混じっていた。


「そういえば、さっき(船を)停めた所で昔、不思議な事があったなぁ」


「不思議な事?」


 漁師さん曰く、もう十数年も前の事だという。

その日、彼はいつもと変わらず早くから漁に出ていたらしい。


 天気は曇天。

なんとなく、嫌にソワソワ?(方言だったので自信はないが、たぶんそんなニュアンスだと思う)する日だったそうだ。


 しかし、いざ海に出てみるとまさかの大量。

網に掛かるわ掛かるわで、漁師さんは上機嫌で帰ろうとしたらしい。


 その時だった。


 おぉーい


  おぉーい


 何処からともなく聞こえてきた人の声のような音──

それに気付いた漁師さんは最初は「風の音か?」と思ったそうだ。

だがその声はすぐにはっきりと聞こえだし、明らかに自分に向けて発せられていると確信したのだという。


 おぉーい、おぉーい


 酷く悲しそうな男の声だ。

おそらく自分よりも年上の、中年から老人の声──漁師さんはそう感じたそうだ。


 声が届くような範囲内に船は見当たらない。

風も弱いので風音の聞き間違いでもないだろう。

だが、絶対に返事はしたくない──


 どうしたものかと悩んだ漁師さんは船を停め、捕まえた魚の半分近くを海に返したらしい。

バチャバチャ、ボチャボチャと魚が海に落ちる音に紛れ、それでも微かに声が聞こえてくる。


 漁師さんは何も聞こえないふりをして、船に引っ掻けてある御守り(奥さんから貰った物)に心の中で拝みながら港へと戻ったそうだ。




「うわぁ、それは何というか……無事で良かったですね」


「魚が減ったのは痛かったけど、無事に帰れたから良しだと思ってるよ」


「でもその声、何だったんでしょうね?」


「さぁ。あんな事は生まれて初めてだったなぁ」


 海は事故も多いし、たまには不思議な事くらいあるもんだ、的な事を笑いながら言われた。

私にはあまりピンと来ない感覚だったが、海に携わる人からすれば「そういうもの」なのかもしれない。


 話題はすぐに別の話(奥さんのくれた御守りから地元の神社の話)へと変わってしまった為、それ以上深く突っ込めなかったのが残念である。


 それにしても──



 おぉーい


  おぉーい


 聞き間違いでないのなら、その声は漁師さんに何を伝えたかったのだろうか。


 ちなみにこの漁師さんとは二年だけ年賀状のやり取りをしたものの、今では完全に音信不通となってしまった。


 なので投稿の許可を得られていない。

身バレ防止のフェイクは入れてるものの、問題があるようなら対応するのでご了承頂きたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 見落としてないかなあと思い来ました そしたら「このお話未読だ!」となり読みました 呼ばれる 海から呼ばれるお話って本でもたまに見かけますが実際に体験した人から話を聞くと怖いですね しかもそ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ