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第11話 表情

殿下の笑顔を垣間見えたところで、茶会はお開きになった。結局、私達の仮婚約は継続という形になった。


そんな私達は今は__夜会にいる。


今回の夜会は私達の婚約を発表するものである。そして私は今回の主賓として、夜会に出ている。

つい先程、婚約発表が終わり大体の挨拶回りが終わったところである。もうそろそろ表情筋が痺れそうだ。

そういう意味では…ロキ殿下は羨ましいよな。思わず常に無表情であった彼を見た。彼は彼で私の方を見ていたようでバッチリと目が合う。

思わず、目を逸らした。

いや、待て何故目を逸らした私。逸らす必要など無かった筈では。…殿下が無駄に美形なのが悪い。そうだ、それだ。よくわからない八つ当たりを心中でしているとロキ殿下が私の方に顔を覗き込んだ。


「ワインは飲めるか?」

「はい、でも…カクテルとか方がいいですかね」


君は正直者だな、と少し口角を上げた。私も含めて、周りが息を呑んだことが分かる。そして私の方に目線が送られる。いや、わかる。いいたいことはわかるが私にも彼のツボが掴めないのだ。あの茶会から少し変わったことがある。このように彼の表情が少し出ることが増えたのだ。何故か、わからない。


「では、声を掛けてくるから待っていてくれ。」

「はい?」


頭に疑問点が浮かびら上がる前に、隣にいた筈のロキ殿下は近くにいた給水係に声を掛けていた。ち、ちょっと待ってくれと思った私は間違っていないと思う。

婚約者とは言えど、ロキ殿下は王族だ。基本的に貴族は自分たちで飲み物を取りに行かない。そもそも注文するときも使用人に言伝を頼み、その使用人が給水係に声を掛けて飲み物を取ってきてもらうのだ。

彼は自分を卑下しているような行動や言動をすることがある。この前の茶会の発言も…自分の命なんてどうでもいいというようなそんな感じがあった。

少し前世の自分を思い出してしまう。あのときの()も己の命を軽視していたところがあった。だからこそ、大胆なことをできたということもある。

余計にほっとけなくなってしまったな。

飲み物を取ってこようとする彼の背中を見ながら苦笑いをした。さて、そろそろと彼の方に向かおうとすると反対方向から凛とした声が響いた。


「ラキ様、ご機嫌麗しゅうございます」

「…サフィー様」


殿下のことに気が取られていて、気づくのが一歩遅れた。思わず舌打ちしそうになるのを堪えた。直ぐに令嬢としての笑みを貼り付ける。彼女の名はサフィー・クライアントという伯爵家の娘である。貴族位としては、私とは大きな差はあるものの、資金源について彼女の家は侯爵家に匹敵すると言われている。そんな彼女が私を度々敵視していることがあった。彼女の攻撃自体は基本的に嫌味だけなので、そんなダメージはない。ないのだが…控え目に言って、面倒くさい。


「ラキ様がロキ殿下の婚約者になるなんて驚きでしたわ…全く興味のないって顔をしてましたし…あら、ごめんない。私ったら失礼なことを。」


嫌味だ。完全な嫌味だ。むしろここまでスレートだと気持ちがいいなと思いながら、にっこりと微笑む。


「気にしませんよ。事実ですから…失礼なことに顔は知っておりましたが、人柄までは全然知らなかったのです。この前の夜会で話した際にとても富んだ会話できましたの。それから、気が合うことがわかり殿下の人柄にとても惹かれてしまったのです…ふふ」


幸せそうに微笑む。サフィー様の取り巻きの彼女たちがあらまぁと少し顔を紅潮させていた。こういうときの話は本音を含ませることが大切だ。惹かれると言えばこの年頃の女性たちなら勝手に恋愛に繋げてくれるだろう。サフィー様の少し苦い薬を飲み込んだような顔つきを必死に隠しながら、笑みを零していた。

政略結婚だと匂わせようとしたところが、婚約者の惚気を聞いたのだからそんな顔をするだろう。


「…ラキ嬢」

「あら、ロキ殿下」


少し気まずそうな恥ずかしそうな顔をした…他の人から見たら無表情であると思うが、そんな顔をしたロキ殿下がグラスを持って立っていた。


「では、私は此方で失礼しますね。」


令嬢らしい笑みを浮かべて、ロキ殿下の方に足を運んだ。ロキ殿下から礼を言いながら、受け取る。結局、殿下を相手にグラスを取らせてしまった。


「…君は凄いな」


うむ…と貴族としての自分が猛省していると、文脈もない言葉がロキ殿下からポツリと零れた。思わず、顔を上げる。そこには…悲しそうな顔をしているように見えた。何が凄いのかはわからないが。


「私から言わせれば、ロキ殿下も充分凄いですよ」

「いや。私は君のように強かな訳では無いし、とても弱虫だ。義母上(ははうえ)のことも…」

「弱虫の何処が悪いのですか。」

「え?」


すっと殿下が顔を上げる。ロキ殿下の顔を見ていると

、自分はなんてことを今を口走ってしまったのかと思ったがここで止めるのも決まりが悪いと思い、そのまま突っ走ることとした。


「私の持論なので聞き流してくださっていいですけど…弱虫っていうのは総じて心配性な傾向があると思うですよね。想像力が豊かとも言えますよね。それって国政に置いて必要だと思いません?」

「想像力豊か…」

「そうです。私だって直したいことや自分の嫌いところとか結構ありますけど…それでも、それが今の自分なんです。それを受け入れて、直したいところは頑張って直していって、それでも無理なら開き直って受け止め上げればいいんですよ」


ね?と笑うと、殿下は…泣きそうな笑っているようなよくわからない表情になっていた。なんかまるで、迷子の犬が飼い主をようやく見つけたような表情であった。不敬だな。えーと、他になんだろう…別の…何も思い付かなかったので隅に置いておくこととした。


「何だかスッキリした感じの表情ですね」

「…スッキリした感じの表情?」

「違ってました?」

「いや、違っていない」


殿下が自身の手を表情筋を触っていた。え…まさか無自覚だったのか、違う意味で驚く。


「そんなに表情に出ていたのか…」

「笑う表情とか出てくるようになりましたよね」

「え?」

「へ?」


まさか…それも無自覚だったの。この前の茶会であんなに笑っていたのに。そんなことをオブラートに包んで伝えると、ロキ殿下はさらに驚いた顔をした。


「そうか…笑っていたのか」

「私にはそう見えましたよ」

「だったら、それは…」


君のおかげだな、とロキは微笑んだ。

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