1
もっと早く死ぬべきだった。そんな風に思ったことがあった。
じゃあ僕はどこで死ぬべきだったのだろう。繰り返すだけの日常を、そんなことを考えながら過ごした。でも、悩んでいたというほどのものではない。たまに変化が起こればしばらくは忘れられた。その変化が日常になった頃、ふと思い出すだけ。未来を夢想する代わりに過去を見ているのかもしれないし、思い出に浸る言い訳が欲しいだけかもしれない。
首都に行ってみようと思ったきっかけは、多分、隊長の死だった。病死。やっぱりジャンクフードは止めておくべきだったかもしれない。
馬車で山を越えて駅のある町へ。そこから汽車で首都に入った。空いてるホテルを探しているうちに、街並みが大分変わっていることが分かった。昔の大通りは今では旧道と呼ばれていて、店もほとんどが閉まるか、新たな大通りに移転したらしかった。
ホテルに荷物を置き、散歩してくると言って外に出た。日を跨ぐ長旅で疲れていたのか、幸い、付いてくるとは言わなかった。
貧民街へ向かう。途中で、店の女たちが住んでいた一軒家の前を通った。二階の一室に洗濯物が干してあった。
貧民街に入る。壁にもたれている浮浪者を見て、ふと足を止める。道の隅を歩いていた。少しだけ中央によって、再び歩き出した。
店に着いた。看板は出ていない。ノック。男の声。出てきたのは知らない男だった。話を聞くと、前の店長は五年前に店を畳んで首都を出て隠居生活へ、働いていた女達は他の店に散り散りになって、ここには誰一人残っていないと言った。
店を出てホテルに向かう。途中で日が暮れてきて、貧民街を出る頃には空が薄い橙色に染まっていた。
路地を抜けて旧道に出る。ぽつぽつと残っている店のなかに、見覚えのある時計屋を見つけた。看板は出ているけど、休みなのか、ショーウィンドウにはカーテンがかかっている。
近付いて、ガラスに手を付く。冷たい。
時計の音。
狭間の世界。
ここだったんだ。
笑みが浮かんだ。
あの時、あの瞬間なら、まだ。
薄明の届かない霧の中で、僕は死ぬべきだった。
ショーウィンドウに背中を預けて空を見上げる。赤と黒が混ざったような色。
白い息を吐きながら足の力を抜いていった。地面に腰を下ろす。やっぱり冷たかった。
このままここにいたら死ねるだろうか。死ねるかもしれない。近くに街灯もないし、人通りだってほとんどない。なにより、夜明けまでは気が遠くなるほどに時間がある。
瞼を閉じる。意識が堕ちていく。
足音が聞こえた。現実のものだろうか。
優しい声。僕の名前を呼んだ。
笑みを浮かべて、瞼を開いた。目の前に彼女が膝を曲げてしゃがんでいた。
「大丈夫?」
「うん。少し、眠たくなっただけ」
立ち上がる。彼女も立ち上がった。
暗くなった空。遠くに見える街灯。
「行こう?」
差し出された手。
頷き、手を重ねた。




