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鶴見と和狸  作者: きじとら
第1章 目指せ楽隠居
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第三十八話 作戦会議


「ボクに畑はわからないよ。なので、二人に任せます」

「ウチも無理。普通科だったし、農業はおろか夏休みの宿題の植物観察もやらなかったし」

「すまんな。俺も役には立てん。経験がない」


 三人が早々にリタイア。


「ヌタさんは?」

「俺も大差ないぞ?」

「僕だってそうだよ」


 こういう時に良い方法があればいいんだけど……

 

「都合のいい時だけ呼ばないでいただきたいもんですね」

「昭和屋さん? ヌタさん呼んだの?」

「いや、来てくれないかなあと思ってな」

「来てくれないかなあ、じゃないですよ。私は直接何かをすることは禁じられてますので、何もできませんよ?」


 だが、本当にできないなら出てはこないだろう。

 

「はいはい、わかりました。これはサービスです。『農業事始め』これを進呈しましょう」

「なんだこの本? 著者は?」

「私ですが、ご不満でも?」

「昭和屋さん、いや、元堕天使ナンバー2さん。ありがとう」

「昭和屋でいいですよ。ナンバー2は単純な実力ですから」


 それでも神に次ぐ実力なんだ。

 すごいと思うけど。

 

「塩害については、カスミさんの水魔法とあなたのエアガンをうまく使えば何とかなりますよ」

「え? どうやって?」

「まったく……まずは排水だけしっかり確保してください」

「排水を整えるんだね?」

「ええ、それさえしておけば、雨を降らせるなりして、水を一気に流す。できれば簡易的なダムにして畑全体を洗い流す感じで」


 結構大変そうだな。

 だが、やらなきゃ農業できないなら、やるしかないよね。

 

「あとは、普通に栄養を足して、しっかり混ぜればとりあえずは何とかなります。詳しくは私の著書を読んでください」

「ありがたい! 読ませてもらいますね」

「まあ、人の役に立つのは悪いことじゃないですからね。今回だけサービスですよ」


 そう言って消えてしまった。

 

「これで何とかなるか?」

「いや、まだスタートラインにすら立てないよ」

「じゃあどうするんだ?」

「商売しよう」


 お金を稼いで、集落の人たちが食べられるようにする。

 僕たちは半年ぐらいなんとかなる。

 カスミのポシェットに保存食があるからね。

 

「全部こっちの持ち出しか?」

「いや、彼らは働いて返してもらおう」

「それしかないんだが、実際奴らが返せるのか?」

「米作りをやってもらえばいいさ」


 まるで庄屋と小作人みたいだけどね。

 今は仕方ないさ。

 


 * * *

 

「商売はいいが、元手がないんだぞ?」

「あ、そうか。保存食でだいぶ足元をみられてたか。かなり厳しい?」


 財布代わりにつかっている小袋を漁る。

 

「うーん、ちょっと待て。今の手持ちは5000D、金貨5枚だな」

「厳しいかな?」

「どうだろう。ただ、昭和屋の商品をそのまま売るのは避けたい。技術差がありすぎる」

「狙われる可能性がある?」


 そりゃあそうだろう。

 御者の連中が貯蓄をはたいてでも道具類や釘を買い漁ったんだ。

 

 鉄の質だけでもかなり違うだろ。

 

 そんなのが代官や領主に見つかると碌な事にならん。

 

「じゃあどうするかなあ」

「意見を言っても良いか? 釘を鋳つぶしたらどうだ?」

「サスケさん。釘って鉄だよ? 千何百度って言ってわかるかな? かなり高温じゃないと溶けないよ?」

「知ってる。俺の加護を思い出せ。鍛冶だ。簡単な炉でも鉄ぐらいなら溶かすことはできる」


 なるほど。

 釘として売るんじゃなくて、インゴットとか、こちらのレベルの製品にまで落として売ればいいのか。

 

「だが、鉄の塊だと目立つだろ?」

「それでも、大量じゃなければ二十人が一年食えるぐらいは稼げるだろう? 釘自体は安いんだし」

「それはそうなんだが……それしかないか?」

「何も一か所で捌く必要はない。前に居た交易の街のような宿場は他にもある」

「何か所かにわけて売り捌くのか」


 だが、誰が同行する?

 サスケさん一人で行かせるか?

 夜番はどうするんだ?

 

「僕が一緒に行こう。スマイルもある。肉体労働は出来ないけど、交渉ぐらいはできるさ」

「うーん。リョウ、カスミ、どう思う?」

「肉を狩るのはワタヌキじゃなきゃいけないし、集落の人たちは弱そうだから、ここに残るのはワタヌキの方がいい気がする」

「ウチも同じ意見。ウチもリョウちゃんも商売できないし、また狙われると面倒かけちゃうから残った方がいいよね」


 まあ、一緒にいくなら、王子か俺なんだが、でもなあ。

 

「何も今すぐ行くわけじゃないんだ。釘を鋳つぶす時間も必要だし、畑をなんとかしないといけない」

「その間の奴らの飯はどうするんだ?」

「肉と、僕たちの保存食をわけよう」


 お人好しすぎないか?

 まあ、奴がリーダーと言った手前、反対はしないけどな。

 

「いずれにしても、そうなると主導権は僕たちが握らなきゃいけない。それに反対するならこの話はナシだよ?」

「当然だな。だが、あいつらが素直に従うかな?」

「うーん」

「まあ、いいか。話してダメならそん時はそん時だ」


 あいつらはもうすでに限界に近いんだ。

 足元を見るようで悪いが、こちらは人手が欲しい。

 あっちは飯が欲しい。

 ギブアンドテイクでいこうじゃないか。

 

 

 * * *

 

「助けてくださるのですか?」


 ツルミ様たちの申し出は歓迎すべきことだった。

 すでに兵達、いや集落の民もツルミ様の御力に縋りたいと願っていた。

 

 あの頭部にはそれほどまでに威力があるのだ。

 いろんな意味で。

 

「私たちの国には『働かざる者食うべからず』という言葉があります」

「良い教えですな。私たちもそのお言葉に従うこととします」


 私たちで言うところの、「怠け者は藁でも食め」なんだろうと思う。

 言い伝えまで上品だ。

 

「私たちはどうすればよいですか?」

「まずは村人全員のことを教えてください。また、出来ること、不得手なこと、それによって役割を決めましょう」

「でしたらば、ツルミ様」

「なんです?」

「ツルミ様がこの集落の長に就いてくださいませんか?」


 戦うことと、兵を移動させることしか能がない私にはこれ以上できない。

 兵たちはまだしも、その子ども達を飢えさせるわけにはいかないのだ。

 

「そうですね。一時的でよければリーダーを引き受けます」

「おお、ありがたい! 皆、これからはツルミ様が長だ!」


 若い兵達、いや集落の者が全員笑みを浮かべる。

 これで、私の肩の荷も少し下ろせると思うとうれしく感じる。

 

 彼らの父母から預かった大事な若者たちだ。

 

「長老、あなただけ楽はさせませんからね」


 しまった。見透かされていたか。

 苦笑いを浮かべるしかない。

 

「もちろんです。まずは全員の能力の把握、あとはあなたの加護について教えてください」

「私の加護? 大したもんではありませんが……私も一兵卒として働きますよ」

「ちなみに私には祝福がありますので、もしすでに病やけがをしている方たちがいれば教えてください」

「祝福もお使いになられるとは。わかりました。まずは私から……」


 そういって、私の体を蝕んでいる病について話す。

 

 期待はしていない。

 だが、若者たちの負担にならないよう、期限付きの私が選ばれた理由と合わせて話す。

 

 おそらくツルミ様の祝福でも難しいだろう。

 それでもいい。

 当初の予定通り、口減らしのための長老だから。

 

 

 * * *

 

「リョウちゃん、鶴見さんはすごいね」

「ツルミ様は最初からすごいよ?」


 リョウちゃんは鶴見信者なんだね。

 あの頭が信仰の対象なのかも知れないけど。

 

 私はあいにく無宗教だけどね。

 

「ウチたちは私たちにしか出来ないことをやろう」

「そんな仕事あるの?」

「もちろんだよ。鶴見さんや和狸、サスケさんじゃできない仕事があるのよ」


 女の子じゃなきゃ、女の人のことはわからない。

 男に任せておけない。

 

 特に保健体育を学んだ私としては、この環境は見過ごせない。

 

「リョウちゃんも一緒に勉強しよう」

「ええ……勉強はいやだなあ」

「将来きっと役に立つよ?」

「将来?」

「そう、リョウちゃんがお嫁さんになった時にね」

「ボクがお嫁さん? 面白いことをいうね、カスミは」


 十一才だったっけ?

 私はどうだったかな。

 もっと小さい時からお嫁さんに憧れがあった気もするんだけど。

 忘れちゃったな。

 

「今はわからなくてもいいの。でもきっと必要になるから、ね?」

「うん、わかったよ」


 さて、何から手をつけたらいいのかな。

 まずは母子の衛生環境を改善しないとね。

 

 紙おむつは無理でも、清潔な布、洗濯、石鹸。

 色々必要だね。

 和狸に相談しないといけないかな。

 

 布はともかく、石鹸は作れないもん。

 

「ん? 俺の顔に何かついてるか?」

「目と鼻がかろうじてついてる」

「そうか。口はなかったか。残念。で、何が欲しいんだ?」

「話が早くて助かるよ。乳幼児のための環境を整えたいの」

「ふむ。言ってみ?」


 とりあえず思いつく限り話してみる。

 

「あーどうだろう。今昭和屋の商品が偏ってるからなあ。さすがに最近甘えすぎだし……」

「レベルアップすると商品の入れ替えとかあるんでしょ?」

「多分な。昭和屋の気分っぽいけど」


 どうやったら和狸がレベルアップするのかな?

 聞いた方が早いか。

 

「商売が一番だな。後は悪党を倒してもいいっぽいが、ここにはいないからな」

「商売かあ。村落の人たちもお金ないもんね」

「だろうな。まあ金があっても使い道なさそうだけどな」


 となるとすぐには無理かなあ。

 商売かあ。

 

「あ、そうだ。ねえ昭和屋さん呼べる?」

「どうした? 何を思いついたんだ?」

「いいから、呼んでみて」


「だからね、そう気安く呼ばないでくださいと言いましたよね?」

「昭和屋さん、これを買い取って欲しいの」

「ん? 買い取りですか?」

「そう。前の所で買ったものなんだけど、何かの役に立つかと思って買っておいたの」

「拝見しますね」


 皆には内緒で、もらったお小遣いで買った小物を見せる。

 金額としてはそんなにしなかった。

 銅貨二、三枚ぐらいだったはず。

 

「ふむ。買い取ってもいいですが、値は低いですよ?」

「いいの。そういうのをまとめて買い取って欲しいんだけど、ダメかな?」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

「どういうことだってばよ。俺にわかるように説明しろよ」


 和狸は買う事ばかり考えているけど、昭和屋さんの言う商売ってそういうことじゃないと踏んだんだよね。

 だから、買取もしてくれるって。

 

「なるほど? それに何の意味があるんだ?」

「金額が問題じゃないの。私では取引できないから、和狸、やってみて」

「ふむ。じゃあ昭和屋、これらを買い取りで」

「わかりました。では、買い取りします。お金は全部で銅貨一枚です」

「おい、カスミ。これでいいのか? 大損だぞ?」

「いいのいいの」


 きっと何かあると思うんだ。

 

「カスミさんは賢いですね。ワタヌキさん。おめでとうございます。レベルアップでいいでしょう」

「わけがわからん」

「『初めての買い取り』ボーナスで、あなたが望む商品を三つ増やしましょう」

「やった!」


 思った通りだ!

 でも、きっと昭和屋さんは何もなくても助けてくれた気がするんだけどね。

 言わないでおこう。

 

「ふむ。カスミ、お前のアイデアでレベルがあがったんだ。お前が決めていいぞ」

「本当に? ちょっとだけまってね。考える」


 うーん。

 何にしよう……

 

 

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