第一話 男二人
「僕は鶴見」
「俺は和狸」
二人の男は互いに名乗った。
私は一話にしか登場しない解説者。
貴重な存在ですが、あまり気にしないでください。
「日本人だよね?」
「お前は随分整った顔だがミックスとかか?」
「生粋の日本人。君は?」
「俺もそうだな」
どうやら二人とも日本出身らしい。
「で、どうしてここへ?」
「さっぱりわからん。お前は?」
「僕もわからないんだよね」
神隠しにでもあったのか、二人とも気づいた時には森にいた。
それもうっそうとした森。
道すらない、少しだけ開けた場所。
「お前、最後の記憶は?」
「うーん、覚えてないんだよね。君は?」
「俺も思い出せないなあ」
どうやら二人とも似たような状況らしい。
「で、どうする?」
「そうだね。まずはここが何処か知りたいところだけど」
「手がかりはなさそうだな」
生憎二人ともサバイバル経験も登山体験もないようだ。
「せめて山とか街とか見えりゃあなんとかなるんだが」
「期待できそうにないね。あ、タメ口で話しちゃってるけど大丈夫?」
「気にすんな。俺は見た目はごついがまだ二十代だ。後半だがな」
「あら奇遇。僕も似たようなもんだよ。三十路までは後二年ある」
「なら、いいだろう。俺も似たようなもんだ」
同年代であることは、何かしらの親近感をもったようだ。
「じゃあ、もう少しだけ情報共有しようか」
「ああ、そうだな。だが一つだけ約束して欲しい」
「約束? なんだろう?」
「俺は嘘はつかない。信じがたい話をするが、疑わないで欲しい」
「ん? どういうことかわからないけど、約束するよ。僕も一つ信じがたい話をすると思うから」
どうやら二人とも秘密があるようだ。
「何て呼べばいい? 俺は和食の和と動物の狸で和狸。ヌタさんとかヌーさんとか呼ばれてた気がする。お前の好きに呼んで構わない」
「じゃあ、とりあえずヌタさんて呼ぶよ。僕は鶴見。まあ見ての通り、名は体を表す。君も好きに呼んで」
「あーうん。俺はカッコいいと思うぞ? その頭。まあ、それはいいか。じゃあとりあえずそのまま鶴見って呼ぶわ」
鶴見、自虐なのか今までさんざんいじられていたのか、割と普通に話している。
いわゆる毛髪が乏しいというよりは、一切ない。
「さて、お前の信じがたい話ってのを聞いてみたい」
「じゃあ話すよ。僕は王族らしい」
「王族? どうしてそんなことがわかる? 覚えてないんだろう?」
「うん、でも視界の隅に『貴公子 LV01』って見えるんだよね。貴公子って王族だよね?」
王族?
そうなの?
「違うんじゃねえかな。音速の貴公子とか聞くから、王族ではないと思うぞ? 高貴な身分なのかも知れないけどな」
「そうなの? なんだ期待して損した。じゃあ、普通の人なのか」
「いや、普通ってことはあるまい」
「でも、この視界の隅にある表示ってなんなんだろう」
おそらくステータスってやつだと思うけど。
禿げメンはゲームとかしたことないのかしら。
「それを言うなら、俺も表示されている。俺は『変態 LV01』だな。ジャージの下には下着を身に着けてるから安心しろ」
「うん、Tシャツ見えてるし。男同士だし、心配はしてない。あまり人に迷惑をかけないようにね」
「そんな趣味はないから心配無用。ちなみにだが、俺の予想を聞くか?」
和狸はゲームもしくはネットに詳しい可能性が出てきた。
「うん、教えて欲しい」
「おそらくだが、これって職業か何かだと思う」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「RPGとかやったことないのか? ゲームのことな」
「うん、覚えていない。君は覚えているの?」
「具体的なゲームを覚えているわけじゃないんだが、知識として残ってた」
都合の良い設定である。
「それで?」
「何か特技や魔法が使えたりするんだと思う。俺だったら、ホレ」
そう言って彼はバイクになった。
バイクになった?
そして元に戻った。
「え? 今の何?」
「だから特技か魔法なんだろう。今なれるのはバイクだけ。おそらく変態って『変身』みたいなもんなんだろう」
「バイクにしかなれないんじゃなくて?」
「その辺はなんとなくわかる。むしろバイクにしか変態できないなら、バイク人間っていう表示になりそうだ」
言われてみればそうなんだが、バイク人間ってなんだろう。
「まあ、レベルをどうやって上げるのか、ほかにどんなもんになれるのかはこれからのお楽しみだな」
「ふーん。便利なのかなあ? 僕はバイク乗ったことないからわからないけど」
「そうなんか? 普段は何で移動してたんだ?」
「タクシーとか車だった気がする」
どうやらお金持ちだったのかも知れない。
侮れん、貴公子。
「で、お前の方はどうだ?」
「そうだね、僕もバイクを見て話しやすくなった。じゃあいくよ」
鶴見はそう言うと、和狸に微笑みかけた。
「ん? なんだそれ? かっこいいとは思うが?」
「あれ、何もおきないのかな?」
「何ていう技? 魔法なんだ?」
「籠絡スマイルAっていうみたい」
男同士だからなのか、同じ境遇だからなのか、和狸には通用しなかったようだ。
「うーん、微妙? 少なくとも俺には通用してない。いや一割ぐらいかっこよく見えたか?」
「お世辞はいいよ……」
職業なのか、魔法なのかは定かではないが、和狸はともかく鶴見は役立たずなのかも知れない。
「さて、名前も状況もある程度わかった。どうする?」
「そうだね。せめて今日の宿泊場所ぐらいは見つけておきたいね。今が何時かわからないけど」
「飯とか水より先に泊まる場所か。まあ、そんなのがあればすべて解決だわな」
「ん? 何かおかしなことを言ったかな?」
ここが何処なのか、確かめた方が良いと思うが余計なお節介かな?
「とりあえず、目印を決めて道を探そう」
「目印? 樹しか見えないよね? 太陽は見え隠れしてるけど」
「太陽の方を目指せばとりあえず何とかなるんじゃね?」
どうだろう。
時間帯によっても違うと思うが。
「なるほど、君は賢いね。参謀向きだ。君に任せるよ」
「ああ、そうだな。その何も考えずに人を信じるお前に任せると碌なことにならなそうだな」
「僕もそう思う」
自分で言うのだから間違いないのだろう。
「じゃあ、あっちへ」
「うん。あっちへ行こう」
こうして、変な職業だか魔法だかを使える、男二人の旅が始まるのでした。
今日は5話一気投稿なのでござる。
明日から昼12時投稿なのです。




