58話:光る剣
サリーの仕込み杖を、光の剣で受け止めた有賀が静かに言った。
「君は、怒りという感情をどうやって抑制するかな?私の場合は…」
サリーが有賀の言葉を遮る。
「興味ないです。早く死んでください。」
サリーは、仕込み杖に力を込める。それでも、有賀は押されない。構わずに話を続けた。
「私の場合、頭の中にショスタコーヴィチの『革命』を流し、その後にグリーグの『ペール・ギュント』を流している。すると、自然に落ち着くようになる。」
「興味ないって言ってるでしょうが!」
サリーは、両手で持っていた仕込み杖から右手を放し、それを有賀の方に向けた。
「それを待っていた。」
有賀はにやりと笑い、剣を振り払った。それに合わせて、サリーが持っていた仕込み杖も振り払われてしまう。
(そんな!なんて力なんですか!)
サリーは姿を消し、有賀と間合いをとろうとする。
「またそれか。便利だねぇ。君の魔法は。だが…」
有賀は光電弾を発射した。今度は消滅させられることなく、フェンスに命中する。光の弾が花火のように散り、辺りに飛び回り始めた。
「さあ。これを消すことはできるかな?」
透明になったサリーは、盾を出現させる防御魔法を発動して身を守ろうとした。
(さすがに、レベルの格差には敵いませんね!ときどき盾を貫通してきます!)
光の弾の一つが、サリーの左足を貫通した。
「ぐっ!」
「そこか。」
有賀はサリーの声がした方にビームを発射した。それはサリーの腹部に命中する。
「ぐはあっ!」
サリーは、さらに激しい痛みに襲われ、その場で悶え苦しむ。透明になっていた状態も解除された。
「君のような人間は、他人の痛みを理解していないし、しようともしない。ならば、直接体験してもらわないとね。君よりも上位の存在である、この私によって。」
有賀の発言を聞いて、サリーは怒りに震える。だが、一息ついて自分を落ち着かせた。
「私も怒りを管理する方法があるのを忘れていました。」
「ほう。せっかくだ。聞かせておくれよ。」
サリーはほくそ笑んだ。
「チャイコフスキーの『白鳥の湖』を頭の中に流します。」
「!…てめえええええええ!チャイコフスキーの名を出すなっつってんだろうがよおおおおお!」
有賀は酷く取り乱し、手あたり次第にビームを乱射し始めた。サリーは、透明になる魔法を唱えつつ、有賀に接近する。
(この方は、怒っていると動きが乱雑になります。よって、攻撃がかわしやすくなるんですね。チャイコフスキーの名を出すだけで怒らせることができるなんて、単純ですよ!)
有賀は、少し冷静になった。光の剣を出現させ、近づいてきたサリーに斬りかかる。
(透明なのに!)
サリーはそれを避けた。
「殺気で見え見えなんだよぉ!ボケナスがぁ!」
有賀はキックをし、サリーを吹き飛ばした。サリーは受け身をし、再び有賀に接近する。今度は背後に回り込もうとするが、有賀はサリーを見逃さない。
(殺気だけで追えるものなんですか!?)
有賀は、光の剣を素早く突き刺した。確かに手応えがあった。
「もらったぁ!」
しかし、サリーは有賀の背後で姿を現した。有賀ははっとして振り返るが、サリーは魔法を発動していた。サリーの手が爆発し、有賀を吹き飛ばす。
「ああう!」
(なぜだ!確かに剣を刺した…はっ!)
有賀の目にある物が映った。オーラを纏った仕込み杖だ。それは一人でに浮いていた。有賀は、それをサリーだと誤認し、光の剣を刺したのであった。
(あのクソカス女!杖にオーラを纏わせて、俺を惑わせやがった!)
吹き飛ばされた有賀は、ふらふらになりながらも立ち上がった。有賀の目が泳いでいて、あっちを見たり、こっちを見たりしている。
「おかしいなぁ!?ショスタコーヴィチの『革命』を頭に流したいのに、さっきから流れているのはチャイコフスキーの曲だぁ!?どうなっているんだよぉぉぉ!?」
有賀は、頭を強く押さえながら、光の剣をただただ振り回していた。その姿は、サリーさえも戦慄させた。
(なんなんですか…この人…怖い…)
サリーは、喚いている有賀に手をかざす。そして、魔法を放とうとするが、あることに気がつく。
(あれは!?)
有賀の体を光のリングが囲っていたのである。有賀が光の剣を振り回す度に、それは大きくなる。
「これで体が真っ二つだぁああ!」
『光輪』
光のリングは、放射状に広がっていく。サリーは、炎の弾を手から放つが、それはリングによって消し去られた。すかさずサリーは、透明になりながら、しゃがみ込む。
(相殺できないなら、こうすればいいだけですよ。)
サリーが立ち上がろうとしたとき、頭上に何者かがいるのを感じた。見上げると、有賀が足にオーラを纏わせて飛びかかってきていた。
「そんな馬鹿な!」
有賀の飛び蹴りがサリーの顔面に炸裂する。サリーは吹き飛ばされ、そのまま倒れた。ついに起き上がることはなかった。
「光輪は、あらゆるものを照らし出す。透明になった者の姿もな。」
有賀はため息をついた。そして、頭を掻きむしり始めた。
「ああ!まだチャイコフスキーが流れている!しつこい!こうなったら、お気に入りのカフェで、コーヒーでも飲みながら『白鳥の湖』を…じゃない!サティの『ジムノペディ』でも聴こう!そうだ!読書もいい!何を読もうか!?デフォーの『ロビンソン・クルーソー』がいいかな!?子ども向けだが、わくわくするんだよなぁ!」
有賀がその場を立ち去ろうとしたとき、後ろから声が聞こえた。そんなはずはない、と有賀は振り返る。敵は全員倒したはずだと。だが、確かに一人の男が立っていた。
「どこ行くんだよ…まだ終わってねえよ…!」
善永だ。腹部と両胸を撃ち抜かれた善永が確かに立っていた。有賀は口をぱくぱくさせる。
「お前…なんで立って…いや、それよりも…なんだよ!?そのオーラの色は!?」
善永は、目をつむっていた。紫色のオーラを発しながら。
善永の挑戦状:出会った曜日が名前の由来である、『ロビンソン・クルーソー』に登場する、主人公の召使となる人物は誰?
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