55話:泥の壁
「君は!」
「斎藤さん!なぜここに!?やけどは…」
有賀や善永が驚いている中、一太が口を開いた。
「善永さん。現代の医療兆能力をなめたらいけませんよ。あれぐらいのやけどなら数日で治ります。そんなことより…」
一太は屋上一面に泥の壁を出現させた。泥の壁によって、屋上は迷路のように入り組んだ構造になった。
「善永さん!生徒会長の兆能力は、光を武器に戦う『フラッシュ』です!泥の壁に隠れるんです!」
どこからか一太の声が聞こえてくる。善永は言われた通り、泥の壁によってできた壁に隠れる。有賀は動揺することなく、落ち着いた様子で辺りを見回す。
「ふふふ…はははははは!面白いじゃないか!今流れているのは『冬』だ!冬が来れば、春がやって来る!そう、私の勝利がな!」
有賀は両手を広げ、光の弾を発射した。
『光電弾』
光の弾が壁を反射しながら、飛び回る。そして、フェンスにぶつかったとき小さい弾に分裂した。それは泥の迷路を大暴れし、派手に飛び回っていった。影の上さえも飛び回っている。
「なんだありゃあ!」
無数の光の弾が善永と側にいたなぎさの方に飛んできた。危機一髪のところで、泥の壁が出現し、2人の身を守る。どこかから一太の声が聞こえる。
「善永さん!大丈夫ですか!」
「おかげさまで!」
善永は泥の壁に身を隠す。
(フェンスに当たった瞬間に光の弾がばらばらになった…光電効果ってわけか…)
光電効果とは、金属に光を当てると、電子を放出する現象のことである。有賀が用いる技・光電弾は、光の弾を金属に当てることで、電子のように散らばらせることができるのである。
善永は先ほど受けた傷を押さえていた。
(それにしても、あの野郎…なめやがって…オーラを発さずに戦っていやがる!無色オーラはオーラを隠せる代わりに、技の威力が下がるってのに!)
善永の傷を、なぎさが心配している。
「えいちゃん…」
「なぎさ。お前はじっとしていろ。俺が…俺があいつをなんとかする!」
善永は目をつむり、屋上を俯瞰できる位置に視界を設置した。
(斎藤さんは、屋上に繋がる扉付近にいる。俺となぎさはもう片方の扉に近い。そして、有賀。あいつは中心部にいる…アイビームで…)
「殺してやる…」
「えいちゃん!そんなことしちゃダメ!」
「なぎさ!黙っていろ!やらなきゃ、こっちがやられるんだ!」
有賀が耳をすましている。
「こらこら。痴話げんかかい?仲がよろしいねぇ。メンデルスゾーンの『結婚行進曲』が流れていそうだ。少なくとも、私の頭の中で流れている。」
(気が早ぇよ!…って、そうじゃねえ!さっさと…早く!)
善永は、有賀に狙いを定めるが、そう簡単にアイビームを放つことができない。そうしている間にも、有賀がビームを放った。それはフェンスに命中する。
(まずい!)
善永となぎさ、一太が、ビームが命中した地点に引き寄せられていく。
(あのビーム、金属に当てることで磁気を発生させることができるんだ…!それも、人間だけを引き寄せる特殊な!)
善永は体が引き寄せられていることによって、狙いがぶれていた。それを嘲笑しながら、有賀が再び光電弾を放つ。それは、フェンス―ビームが命中した位置と全く同じ―にぶつかる。飛び散っている光の弾に、善永たちが近づく形となった。
「斎藤さん!泥の壁をお願いします!」
「はい!」
一太が泥の壁を増加させる。それによって、飛び散っている光の弾から身を守ることができた。だが、例のフェンスには引き寄せられているままだ。泥の壁があっても、それを回り込むように引き寄せられていく。
(何度もこの防御手段は使えない…となると!)
善永はアイビームの狙いを定め、躊躇わずに発射した。しかし、それは有賀に命中しなかった。
「おおっと。下手くそだね。ウェーバーの『魔弾の射手』を聞きなさい。私は、この曲を聞いて狙いが正確になったんだ。こういう風にね!」
有賀は、紫色のオーラを発しながらも、光電弾を上向きに発射した。放物線を描きながら、それはフェンスに命中する。光の弾が、花火のように破裂し、飛び散り始めた。
善永の挑戦状:これを発見した功績によりアインシュタインがノーベル物理学賞を受賞した、物質に光を照射した際に電子が放出される現象のことを何という?
前回の『善永の挑戦状』答え:合谷




