54話:万能ツボ
黒部は、手に突き刺さった針を一本一本抜いていた。
「黒部…お前、よくここまで…」
「ええ。すけコンビや宮ケ瀬のおかげで。ぐっすり寝たんで、頭もより冴えてます。」
うずくまった新見が立ち上がる。
「本田!そいつも捕まえろ!そして、ヤキモチでやけどを!」
だが、本田は黒部を捉えようとしない。
「本田さん、わかってますよね?俺の兆能力。」
新見が本田を怒鳴る。
「てめえ!相撲部が結果を残していないのを見逃してほしかったら、自分の痛みも覚悟でやりやがれええ!」
本田は言われた通りに黒部を捉えた。しかし、赤くしていた手を元に戻す。新見は鬼のような形相で本田を見ていたが、何かを閃いたようだ。
「本田!手をそいつの口に突っ込め!窒息させるんだ!」
「そんなむごいことは!」
「いいからやれえええ!」
「でも…」
本田が戸惑っている。新見はその様子を見ていらいらしていた。それが、視野を狭くした。
「お前、俺が近づいてきていたのを忘れたのか?」
「しまった!」
篠原が新見の目前にまで迫っていたのだ。篠原は右ストレートを新見の腹部に命中させる。
「ごぐ!」
新見はその場でうずくまる。篠原はそこにラビットパンチをぶつけようとする。
「篠原さん!落ち着いて!やりすぎです!」
「はっ!」
黒部の声にはっとした篠原は、拳を止める。新見はうずくまって、下を向いたままだ。篠原は、そんな新見を見下していた。
「本田、これでわかったろう?生徒会は、クイズ研究会よりもよっぽど汚い。人の命を容易に奪おうとする。」
篠原が本田に語りかける。本田は下を向いたまま一言も発しない。そのとき、数本の針が本田の腹部に刺さった。
「ぐぬ!」
本田は、捉えていた黒部を放し、その場でしゃがみ込む。
「本田!…てめえ!」
篠原が新見を見たとき、驚愕した。新見が、自身の手に針を刺していたのである。
「お前ら、人間の潜在能力を引き出すツボって知ってるか?」
新見は、親指と人差し指の骨が交わる場所、合谷に針を刺していた。数あるツボの中でも、万能といわれているツボだ。しばらくすると、新見の姿が消えた。
「どこに!」
篠原が辺りを見回していると、目の前に新見がいた。
「こっちだよ。のろまが。」
新見の拳が篠原の腹部に命中する。
「!!」
篠原は腹を押さえてうずくまる。彼はボクサーだ。腹部へのパンチなど打たれ慣れているはずだ。そんな篠原が、うずくまっているのだ。
「篠原さん!」
黒部が篠原を気にかけていたときには、新見の姿が消えていた。黒部は後ろに殺気を感じた。そう、新見は黒部の背後に回り込んでいたのだ。新見の針が、黒部の首に針を刺そうとしていた。
しかし、針は黒部に届かない。新見が腕を伸ばそうとするも、なぜか届かない。黒部がそっと口を開く。
「そうするだろうと思っていたよ。」
「!」
「原理はわからんが、自分のツボを刺激することにより、身体能力を強化したんだな?」
「なぜだ!なぜ届かない!」
新見は焦っている。それと対照的に、黒部は落ち着き払っていた。
「俺のアンチ・スケープゴートの弱点、それは、死に直結する痛みは押しつけられないというもの。針を使うお前なら、首の後ろ、頸椎を狙うだろうな。死に直結する痛みを与えるために!」
黒部は振り返り、新見の腕に触れる。
「それを見据えて、ここに立っていたんだ。馬鹿なお前にはわからなかったろうがな。」
新見の制服には釣り針が引っかかっていた。
「これは!」
新見が振り返ると、八ッ場が青いオーラを発しながら釣り竿に力を込めていた。
「そうだ。僕がお前を釣ることで、動きを止めているのさ。黒部がいいところに立ったおかげで、釣りやすかったよ。」
八ッ場が意識を取り戻していたのだ。釣られた状態の新見は思うように腕を動かせない。黒部が足をストレッチさせていた。
「篠原さん、先に一蹴り入れても?」
「ああ。その後に右ストレートをぶつけてやる。」
体勢を立て直した篠原が新見のもとに近寄っていた。新見はじたばたしている。
「やめろおお!僕が悪かった!」
そんな新見に黒部が蹴りを入れようとしたとき、手が餅のように伸びてきて、新見の顔面にぶつかった。
「ぐぐい!」
新見はそのまま気絶した。黒部と篠原が振り返る。腹部を押さえながら、本田がやりきれない顔で立っていた。
「本田…お前…」
「…」
生徒会本部は、しばらく沈黙に包まれた。最初に沈黙を破ったのは黒部だ。
「向こうで宮ケ瀬や荘介、早明浦さんが倒れてました。あの人たちも担いで、いったん保健室に行きましょう。本田さん、あなたもです。」
「!…ああ、すまない…皆…」
生徒会本部に集まった部員たちは、保健室に向かうため、生徒会本部を後にするのであった。
屋上の善永となぎさは危機に瀕しているままだ。
腹部に傷を負いながらも、善永は立ち上がっていた。そんな善永に指を差していた有賀が感心していた。
「流石だねぇ。彼女を守るために、影を作っているのだね?素晴らしいなあ。愛の力は!」
有賀は指を光らせる。
「その覚悟を認め、まずは君を倒そう。」
有賀が光のビームを発射する。もはや、これまで…と思ったそのとき、善永の目の前に泥の壁が出現した。
「善永さん。あなたらしくない。あなたの力はこんなもんじゃないでしょう。」
青色のオーラを発している一太が、そこにはいた。
善永の挑戦状:親指と人差し指の間に位置する、押すと非常に多くの効果が期待できるツボは何?
前回の『善永の挑戦状』答え:太陽




