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宇宙樹の生贄~少女がドラゴンと七聖樹を旅して世界を救う物語~  作者: 風雅ありす
【序章】生贄の少女

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4. イケニエ

 モリスは、おほん、と咳払いをすると、話を元に戻した。


「<七聖樹>には、それらを束ねておる聖樹がある。

 <宇宙樹>と呼ばれる、世界で一番大きな聖樹じゃ。

 ……この話も前に何度も説明したと思うのじゃが……やはり聞いておらんかったな。

 その<宇宙樹>には、世界を浄化し、<七聖樹>の力を取り戻す力がある……と言われておる」


「なぁ~んだ。<宇宙樹>が世界を助けてくれるんだ。それじゃあ、安心だね。

 あ~あ、安心したらあたし……お腹がすいてきちゃった。

 家に帰って、パイでも食べてくるね!」


 そう言って、アムルは、満面の笑みで手を振り上げながら踵を返す。


 すると今度は、モリスが手にしていた杖を伸ばして、アムルの首根っこを掴んだ。


 首を引っ張られて、アムルが、ぐえっとカエルがつぶれたような声を上げる。


「えぇ~い、待てというのにっ!

 わしの話は、まだ終わっておらん!」


「うう……ひどい……首が絞まるところだったよ……」


「わしの話を最後まで聞かん、お前が悪いっ!」


「え~、まだ終わらないの~?

 だってモリスの話って、いっつも長いんだもん。

 早くしてよぉ。あたし、お腹ぺこぺこ~……」


 口を尖らせて自分のお腹をさすって見せるアムルに、モリスは、怒りを抑えながら身体を震わせた。


「くっ……深刻な話をしておるというのに……よいか、ここからが本題じゃ。

 <宇宙樹>の浄化の力には、発動させるための鍵が必要なのじゃ」


「カギ? それって、木になる甘い実のこと?」


「違うわいっ! そりゃ、カキの実じゃ。

 ……まぁ、この村では、鍵など使わんからな。アムルが知らんのも無理はない。

 鍵というのは、何か大事なものを箱に入れて、他の誰にも触らせないよう、箱を開かなくさせるためのものじゃ。鍵を持つ者だけが、その箱を開けられるのじゃ」


「ほうほう。つまり、あたしだけのパイをモリスに食べられちゃわないよう、箱に鍵をかけておけて、いつでも私の好きな時に、パイが食べられるっていう意味だね!」


「…………まぁ、そういう理解でも、概ね間違ってはおらんかの」


「で、その鍵ってのは、どこにあるの?」


 アムルが小首を傾げながら訊ねた。


 するとモリスは、その質問を待っていましたとばかりに眼を光らせて、びしっと杖の先でアムルを指す。


「…………へ? あたし?」


 予想外の展開に、アムルが自分を指さしながら、ぽかんと口を開ける。


 モリスは、アムルに杖を突き付けたまま続けた。


「そうじゃ、アムル。これは、お前にしか出来んことなのじゃ」


 アムルが戸惑った様子でモリスの杖をじっと見つめる。


 自分にしか出来ないこと、というのは、一体どういうことなのだろう。


 すると、それまで黙って聞いているだけだったユースティスが突然、アムルの前に立ち塞がった。


 モリスに対峙する形で両手を広げる。


 その顔は、長い前髪に隠れていて見えないが、広げた腕が震えている。


「ゆーくん……?」


(……ダメだよ。アムルは、行かせない。

 〝生贄〟になんて、絶対にさせない)


 アムルが不思議そうな顔で首を傾げる。


「……〝イケニエ〟って、なに?」


 アムルの口から出た言葉に、モリスの表情がさっと暗いものに変わる。


 ユースティスを見下ろすモリスの暗い瞳に、怒りと責めるような感情が浮かんだ。


 びくりと怯えたように肩を縮めたユースティスだったが、それでもアムルの前から動こうとはしない。


 二人の異様な様子を肌で感じ取ったアムルが不安そうな表情でモリスを見上げた。


 その視線に気付いたモリスは、ふっと表情を和らげると、瞳を伏せ、自分を落ち着かせるように息を吐く。


 次に目を開けた時には、いつものモリスの表情に戻っていた。


「……そうだったのぉ。ユースティスには、わしの心の中が見えてしまうんじゃった。

 誤魔化すことはできんか……」


「どういうこと?」


 アムルの大きな丸い瞳に見つめられて、モリスが観念したように溜め息を吐きながら肩を落とす。


「……アムル。世界を救うためには、一つの純粋な心が必要なんじゃ。

 それは、つまり……」


 モリスが言葉を詰まらせる。


 次の言葉を口にするのも辛いという顔で言った。


「……つまり、お前のハートを<宇宙樹>に捧げることとなる」


 ユースティスには、はじめから分かっていたのだろう。


 驚く様子はなく、むしろアムルを守るように広げた両腕により力を込めて広げるだけだ。


 しかし、当の本人であるアムルは、何を言われているのか理解できていないのか、相変わらず、きょとんとした顔のままだ。


ハートって……あげられるの? どうやって?」


「具体的な方法は、わしにも分からん。ただ、古より伝わる儀式を行うことで、その者の心を<鍵>とし、<宇宙樹>の浄化の力を解放することが出来る――とだけ」


「ふーん……よくわかんないけど……それで、世界が救われるの?」


「そうじゃ」


「いいよ。あたし、<鍵>になる」


 アムルが笑顔で答えた。


 すると、ユースティスが弾かれたように振り返る。


(……アムル?! 何言ってるの?

 アムルが世界のために犠牲になる必要なんて、ないっ)


「〝ギセイ〟?」


(樹官長は、大事な部分を話していないっ。

 心を失った者がどうなるのか……アムルに正しく伝えるべきだっ)


ハートを失うと、どうなるの?」


 アムルの質問に、モリスは困ったような顔で眉をしかめた。


「わしも実際に見たことがあるわけじゃないんじゃ。

 これは、全て先代の樹官長から伝えられてきた話じゃが……

 ハートを失った者は、人としての生を失うことになる、と……」


(そんなの……アムルに死ねって言ってるようなものじゃないか!

 僕は、そんなこと絶対に許さないっ!!)


 アムルは、ふるふると首を横に振る。


 そして、憂い一つない無垢な笑顔を二人に向けた。


「いいよ。あたしの心で世界が救えるなら。

 みんなが幸せになるなら。あたしのハートを世界にあげる」


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