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宇宙樹の生贄~少女がドラゴンと七聖樹を旅して世界を救う物語~  作者: 風雅ありす
【序章】生贄の少女

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1. 洞窟と不思議な卵

 ――――ぴちょん。


 どこかで水の落ちる音がする。


 真っ暗だった闇の中、どこからか黄色い光が灯ると、それは、独りでにゆらゆらと移動していく。


 光の中には、一人の少年の姿があった。


 雪のように白い髪が、顔の上半分を隠すように覆っている。


 前が見えているのかいないのか、華奢きゃしゃな手でゴツゴツとした岩肌に触れながら、足で地面を確認するように前へ前へと進んでいく。


 少年の前方には、真っ暗な闇があった。


 闇は、まるで少年を待ち構えて、大きな口を開けている魔物のようだ。


 少年が恐怖で身体をぶるりと震わせた。


 ここへは以前にも来たことがあるが、一人で来るのは初めてだ。


 いつもお日様のように明るい少女の笑顔が隣にいないことに、少年は、心細さを感じていた。


 それでも少年は、恐怖にすくむ足をなけなしの勇気で奮い立たせて、一歩一歩進んで行く。


 この先に待っているであろう光を目指して。



 少年の足が石につまづき、身体が前に倒れた。


 声もなく地に伏した少年の手から光がこぼれ、転がっていく。


 それは、小さな光る石だった。


 【魔鉱石まこうせき】という。


 少年は、ぐっと口を引き結んで、転んだ痛みに耐えながら立ち上がった。


 転んだ拍子に膝をりむいたのだろう。少年のズボンには穴が空き、そこからうっすらと血がにじんでいる。


 それでも少年は、足を引きずりながら、数歩先へ転がった魔鉱石へ駆け寄ると、それを拾った。


 手の中に光る暖かな石を見つめ、ほっと息をつく。


 魔鉱石は、高価なので、子供が手に入れられる代物ではない。


 こっそり拝殿から持ち出したことが知られれば、こっぴどく叱られるだろう。


 失くしたり、壊してしまったら、それこそ叱られるだけでは済まない。


『またお前か、ユースティス! 魔鉱石は、お前たちが玩具にして良いものではないのじゃぞ。一体、何度言ったら分かるのじゃ!』


 少年は、名を【ユースティス=ノウ】という。


 顔を真っ赤にして怒る樹官長の姿を想像して、ユースティスは、顔を青くした。


 慌てて歩みを速め、岩壁に囲まれた細長い道を進んで行く。


 しばらく歩いて行くと、前方に光が見えてきた。


 ユースティスは、自分の予想が当たっていたことにほっとし、光に向かって駆け出した。


 道の先には、大きな空洞があった。


 魔鉱石の小さな光では、届かない程高い位置に天井がある。


 空洞の半分は、黒い水で満たされ、もう半分の陸地の部分に光源がある。


 固い地面の上に赤い絨毯じゅうたんが敷かれ、その上に、うつ伏せで寝そべっている少女がいた。


 ピンク色のクセのある髪の毛が背中を覆っている。


 両足を曲げて動かしているのを見ると、眠ってはいないようだ。


 少女が足を動かす度に、後頭部で結わえた髪束が尻尾のようにぴょこぴょこと動く。


(アムル……やっぱり、ここに居た)


 ユースティスが背後から近づくと、少女が気付いて顔を上げた。


 丸くて大きな瞳がユースティスの姿を捉える。


 少女の名は、【アムル=リーベ】という。


「ゆーくん! しーっ! 今ね、卵がちょっと動いたんだよ。もうすぐ孵るのかも」


 しーっ、と言いながら自分が大きな声を出していることにアムルは気付いていない。


 ユースティスは、そんなアムルに向かって、はにかむような笑みを向ける。


(本当? 僕も見たい)


 アムルが身体を横にずらし、場所を空けてくれたので、ユースティスもアムルに並んで横になる。


 その時、見覚えのある絨毯の模様が目に入り、ユースティスは、眉をひそめた。


 以前ここへ来た時には、こんな絨毯はなかった筈だ。


(もしかして、これ……樹官長の寝室に敷いてあった絨毯じゃ……)


 ユースティスがちらと伺うように横を見ると、アムルの邪気の無い笑顔とぶつかった。


 それだけで、ユースティスの顔がぱっと赤くなる。


(…………まぁ、いいか)


 いつも叱ってばかりの樹官長だが、何だかんだと言って、アムルには甘い。


 樹官長がアムルの親代わりだから、というだけではない。


 アムルの笑顔には、見る者の心を温かくする不思議な力があるのだ。


 それは、幼馴染のユースティスにも同じことで、アムルの笑顔を見ると、何でも許してしまいたくなる。


 ユースティスは気を取り直すと、目の前に置かれた葉っぱの山を見つめた。


 山のいただきには、子供の頭くらいの大きさの卵が置かれている。


 卵は、ざらりとした表面に、触るとほんのり暖かい。


 そして、何より見たこともない色をしている。


 一見、白い普通の卵にも見えるが、近づいてよく見ると、薄っすらピンク色をしていて、角度を変えて見ると、虹色に光って見えるのだ。


 こんな卵をユースティスは、今まで一度も見たことがない。


 村の図書館にある図鑑を全て調べてみたけれど、どの図鑑にもこんな色の卵はっていなかった。


「何が生まれてくるのかなぁ。わくわくするね♪」


 アムルが瞳を輝かせながら言った。


(新種の鳥かもしれない。それか、大きなヘビ?

 もしかして……古代種のドラゴンの卵だったりして……)


 一体、何が生まれてくるのだろう、と期待する気持ちは、ユースティスもアムルと同じだ。


 読んだ図鑑の内容を全て覚えているユースティスにとって、自分の知らない生き物がいるということは、新鮮で、胸を熱くするような出来事だった。


 拝殿の掃除当番さえなければ、ユースティスもアムルと一緒にここへ来ていただろう。


 二、三日前、森で二人が遊んでいた時、アムルが見つけた卵をここへ持って来ると言った時には、どうなることかと思ったが、今のところ卵は順調に育っているように見えた。


 最初、ユースティスは、卵を自然のままにしておくべきだと思ったのだが、アムルが自分で卵を孵すのだと言って、ここへ持って来てしまったのだ。


『だって、トカゲやヘビに食べられちゃったら、どうするの。

 この卵には、親がいないんだもの。あたしたちが守ってあげなくちゃ』


(トカゲは、卵なんて食べないし。ヘビも……こんなに大きな卵を食べられる大きなヘビは、この辺りにはいないと思うけど……)


 そう思いつつも、ユースティスには、アムルを止めることが出来なかった。


 何故なら、ユースティスには、アムルの気持ちが自分のことのように感じられるからだ。

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