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宇宙樹の生贄~少女がドラゴンと七聖樹を旅して世界を救う物語~  作者: 風雅ありす
【第一章】白い使者と黒い竜

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12. 小さき力

 <エルムの里>のちょうど中心に、ハルニレの大樹はある。


 里に住む人々は、この木を神樹としてあがたてまつることで、自然の恩恵への感謝の気持ちを忘れることなく、慎み深く生きていくことが出来る。


 神樹は、里の人々にとって、心の拠り所であり、守り神でもある。神樹の恩恵があってこそ、里は成り立つ。里に生きる者たちにとって、神樹とは、何よりも守るべき存在なのだ。


 そのハルニレの神樹を、四方から赤い火の手が襲っている。


 里の大人たちは、必死に火の手から神樹を守ろうと手を尽くしていた。


 水魔法を使える者たちは、神樹の周りを水の被膜で覆った。


 だが、彼らに使えるのは、生活するのに必要なだけの小さな魔法でしかない。近くに川があるため、水には困らないのだ。


 他の者たちは、川から神樹まで一列に並び、水桶に入れた僅かな水を、手から手へと受け渡すことで、神樹まで運んだ。


 しかし、それだけでは、火の手を弱めることは出来そうにない。


 白い使者の一人も、水魔法を使って支援してはいるが、再びドラゴンが襲って来たら、抵抗する術はない。


「ベトゥラ様、いかがいたしましょう」


 白いローブを着た男が、掠れた声で、傍に居る白いローブを着た女に話し掛けた。


 里の者たちに、男の声を聞く余裕はない。


 ベトゥラは、彼らの様子を見ながら、ここが焼かれるのも時間の問題だ、と思った。


 それは、今ベトゥラに話し掛けて来た男も同じことを感じたに違いない。このままここに居ては、自分たちの身も危険にさらされることとなる。


「……シンは、まだ戻らぬ、か……」


 ベトゥラが呟く。


 里がドラゴンの襲撃を受けて、火の手が上がった際、ヒプティスの世話を任せていたシンがここへ駆けつけて来た。彼は、白い使者たちの護衛の役目も負っている。


 そして、何か大事の際には、ヒプティスよりも使者たちの命を優先するよう言いつけられているのだ。


 ベトゥラは、そんな役目に忠実であったシンに向かって、<クラヴィス>を探してくるよう新たな命を言いつけた。


 モリス樹官長が用意した代替えの生贄は、まだ幼く、自分の運命に怯え震える姿は、ベトゥラの目から見ても、とても己の役目を背負いきれそうにはない。


 それ故、未だ行方の知れない<クラヴィス>に賭けたのだ。逃げる筈がない、というモリス樹官長の言葉を信じて、この付近にいるだろう、と考えたのだが、シンがここを発ってから、しばらく経つ。どうやら期待外れだったようだ。


 里がこのような災難に襲われているというのに、一向に姿を見せない<クラヴィス>は、既にこの周辺にはいないと考えて良いだろう。


 要は、逃げたのだ。


 未だに彼女の帰りを待っているモリス樹官長には悪いが、そういうことだとベトゥラは受け取った。


 ベトゥラは、今自分が何を優先すべきかという考えを改めた。


 ドラゴンの襲来は、予想外であったが、白い使者の役目は、無事に<クラヴィス>を聖地<ハルディア>へ連れ帰ることだ。何よりも、<クラヴィス>の安全が優先される。そもそもドラゴンの目的が分からぬ以上、このままここに居ては、再び襲われる可能性もある。 


 ベトゥラの決断は、早かった。


「一旦、<クラヴィス>を連れて、ここを離れる。

 お前は、ここでシンの帰りを待て」


 傍で自分の返答を待っていた男にそう伝えると、ベトゥラは、拝殿の中へ入った。


 中には、里の子供たちが身を寄せ合って震えている。


 その中に居た、赤毛のニアという名の少女を見つけた。まだ十にも満たない幼女だが、この際、致し方ない。


「安全な場所へ行く。一緒について来なさい」


 ベトゥラは、なるべく少女を怖がらせないよう優しい口調を心掛けて、少女の腕を掴んだ。強く引っ張れば折れてしまいそうな程、か細い腕だ。


「いや……っ!」


 ニアは、自分の腕を掴まれた瞬間、恐怖に顔をひきつらせた。これから自分の身に起きることを予感したのだろう。身を捩って逃げようとするので、少女の腕を掴んでいたベトゥラの手に力が入る。


 その様子を傍で見ていた他の子供たちが、ベトゥラに掴みかかった。 


 ニア以外の子供たちに事情を知らせてはいない。それでも、仲間が目の前で見知らぬ者たちに連れ去れてゆくのを、彼らは許さなかった。


 一人一人は無力だが、何人もの体重がかかれば、さすがのベトゥラも怯んだ。


「逃げろっ、ニア……!」


 体格の良い赤毛の少年が叫んだ。


 ベトゥラは、子供の一人に腕を噛み付かれて、呻き声を上げた。思わず掴んでいた手を緩めてしまう。


 その隙を逃さず、ニアが外へ飛び出す。


「待てっ……!」


 もう一人の白い男がニアを捕まえようと手を伸ばしたが、他の子供たちによって行く手を阻まれ、動けなくなってしまう。


 ようやく二人が拝殿の外へ出た時には、既にニアの姿は見えなくなっていた。


 視界には、燃え盛る里の姿しかない。


 この中を逃げて行ったのだとしたら、ニアの命が危険に晒されることになる。


 最悪だ、とベトゥラは心の中で悪態をついた。



 §  §  §



(なんなんだ……この少女は…………)


 シンは、森の中を走りながら、心の中で幾度も自問自答した。


 突然、燃え盛る里から森へと飛び出して行った少女――アムルは、そのまま逃げるのかと思いきや、森の中を真っすぐ、どこかへ向かって一心に駆けてゆく。


 その小さな背中を追い掛けながら、シンは、理由の分からない胸のざわめきを感じていた。


 ベトゥラから<クラヴィス>である少女を探すよう命を受けた。本来であれば、今すぐにでも彼女を連れて、ベトゥラの元へ戻るべきだ。


 それでも、必死に何かを成そうとしているアムルを止めることが、どうしても出来ない。シンの脚力と腕力を持ってすれば、今すぐにでもアムルを捉えて、里へ戻ることなど造作もない。


 しかし、そうはさせない何かがアムルには、ある。


「ドラゴンに卵を返して、里のみんなを救う!」


 一体、何を根拠に……と、シンは、頭がくらくらした。


 後ろを振り返ると、白い髪の少年が自分と同じようにアムルを追い掛けている。


 アムルほど体力がないのか、息が荒い。時々、木の根っこに躓きながら、危うそうに駆けてくる。


(彼女は、さっき彼がドラゴンの気持ちがわかる、と言っていたが……本当にそんなことが出来るものなのか……)


 この世界には、様々な能力を使える者が存在する。それでも、ドラゴンと心を通わせられる能力など、シンは聞いたことがない。


 それだけドラゴンの存在は、特別なのだ。


 とにかく今は、ただアムルの姿を見失わないよう、走るしかない。


 そう自分を無理やり納得させて、シンは、アムルの背中を追い掛けた。


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