11. 探しもの
ユースティスの目の前で、燃え盛る木が、どうと地面に伏し、火の粉をまき散らした。
下敷きになると思われたアムルだったが、寸前のところで、突如現れた白い人影に救われて、無事であった。
「大丈夫か?」
アムルを助けた人物が言った。低い男の声だった。
男は、白いローブを身に纏い、顔に白い仮面をつけている。
男の腕に抱かれるままになっていたアムルは、びっくりして、大きな蜂蜜色の瞳をぱちくりさせている。
「……おじさん、だれ?」
ぴくっと、白い男が反応したように見えた。
「《《おじさん》》…………私は……」
(アムルっ!)
ユースティスが、アムルに駆け寄って来たので、男は、それ以上言葉を紡げなくなった。
(助けてもらったんだよ、まずは、御礼を言わなきゃ)
ユースティスに指摘されて、ようやくアムルは、自分の身に起きたことを自覚したようだった。
つい先程までアムルが居た場所には、燃える木が倒れて、黒いシルエットを作っていた。
男に助けられていなければ、今頃、アムルは、あの木の下敷きになっていただろう。
「……あ、そっか。ありがとう、おじさん!」
満面の笑みを向けるアムルに、男は、言葉を詰まらせながら言った。
「いや……それよりも、ここに居ては、危ない。ハルニレの神樹のある場所は、まだ火の手が回っていない。そこに避難するんだ」
「はっ、そうだ! 里のみんなは?!」
アムルが思い出したように、男に尋ねた。
「大丈夫、みんなそこに居るよ。さあ、早く」
白い男は、アムルを促すように背を押した。
アムルが男を振り返って、首を傾げる。
「おじさんは?」
一緒に行かないのか、と思って尋ねたようだった。
しかし、男は、アムルの問いに、首を横に振って答えた。
「……私は、子供を探しているんだ。アムルという、この里の女の子なんだが……」
「アムルは、あたしだよ?」
アムルが目を丸くして、自分を指さした。
「君が?」
男も意外だったのか、改めてアムルに向き直る。
(この男……どうして、アムルを……まさか……)
ユースティスは、改めて見たことのない男の恰好を見て、何かを悟ったようだった。
向かい合っていた二人の間に割って入ると、アムルを自分の背に庇うように、男から少し距離をとる。
「ゆーくん、どうしたの?」
アムルは、何も気が付いていない。
けれど、男の方は、ユースティスの態度から何かを感じ取ったようだった。
男とユースティスの間に、緊迫した空気が漂う。
そこへ、緊迫した空気を切り裂くように、空から獣の鳴き叫ぶ声が響いた。
三人が頭上を仰ぎ見る。青い空を背景に、黒い竜が翼を広げて、視界を横切ってゆく姿が目に入った。
「ドラゴン?!」
アムルが素っ頓狂な声を上げた。
すると突然、ユースティスが、その場に蹲る。
「ゆーくんっ?!」
アムルが心配して声を掛けるが、ユースティスは、身体を抱きしめたまま、動かない。
(痛い……苦しいって、言ってる……)
「彼は一体、どうしたんだ? どこか怪我でもしているのか?」
突然、自分の身体を抱きしめて蹲るユースティスを見て、白い男は、焦った口調でアムルに訊ねた。
「ゆーくんはね、あのドラゴンの気持ちが分かるの!」
「そんな馬鹿な……」
(……返せって……何か、大事なもの……奪われた……)
ユースティスの心を声を聴いたアムルは、はっと何かに思い当たる顔をした。
「ゆーくん。もしかして、あのドラゴン……卵を探してるんじゃないかな?」
「卵? 一体、なんの事だ?」
男には、ユースティスの心の声が聞こえない。訳がわからないまま、アムルの動向を見守るしかない。
「あたし、卵を取ってくる!」
アムルは、踵を返すと、来た道を駆け戻って行った。
(アムル……待って!)
ユースティスも、何とか立ち上がり、アムルの後を追う。
「一体、何がどうなってるんだ……」
男には、さっぱり訳が分からない。それでも、自分の探していた少女を放っておくことは出来ず、渋々アムルを追い掛けた。




