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一夫多妻

「お嬢様、私、治療のスキルが付きました。」

「治療だと、本当か。それは凄い。貴族クラスのスキルだな。わらわも闇魔法を手に入れた。」

「おめでとうございます。これで胸を張って迷宮に行けますね。」

Aカップだけどな。人型だとBカッブか。

「ショウのおかげで、凄いことになった。おまえも覚醒して強くなったんだろう。」

「いえ、俺はそのままです。覚醒は自分には効果ないようです。」

俺の答えに、お姫様は残念なかんじで俺を見つめた。Aカップのくせに。

「闇魔法というのはどんなものなんですか?」

「闇と光には魔物は耐性がないから使いやすい。それと威力も高い。そのうえMP吸収を特技で獲得したからMP切れも起こしにくくなる。」

俺はここの迷宮の経験は少ないが、ふたりのスキルと特技が戦いを質的に変えることはゲーマーとして理解できる。両手が塞がってる前衛は回復薬を飲むのが難しい。俺は回復薬を瓶からチューブに入れ替えて手を使わずに飲めるようなのを作ろうかとも思っていたが、回復魔法が使えるとそんなもの必要なくなる。それに魔法の威力が上がると前衛の負担も小さくなる。

「それならば、また迷宮の深層を目指して行けますね。」

少し考えてお姫様は首を振った。

「そうかもしれないが、父上に無理を言って畑の民や物資を準備してもらったのじゃ。直ぐに手のひらを返すようなことはできんな。まずは荘園をしっかり作らないとな。」

思った以上にこのお姫様はしっかりしてた。

「お嬢様、それは素晴らしいお考えだと思います。私も運搬を獲得できたので、一度に二台運搬車を曳くことができます。なんでもお言いつけください。」

運搬車二台!それは凄い。

「ところで、ショウ。」

「はい、なんでしょう。」

「もう日も昇った。隣部屋の畑の民も起きてくるだろう。この姿も悪くないが、元に戻してくれんか?」

忘れてた。俺はずっとこれも良いと思うけど。


何事もなかったかのように俺たち三人は廊下を通ってダイニングへ向かった。ちょうど大部屋の扉が開いてシュレンジュと出くわした。

「皆さま、おはようございます。」

「お、おう、おはよう。」

俺はシュレンジュの顔をまっすぐ見れなかった。こいつステータス高いからお見通しかもしれない。


まずは、オークが住む宿舎が必要だ。オークたちはみんなで木を伐りだしたり、削ったりしている。俺は指図しながら実験をしてみた。まず、シュレンジュの一番下の子に覚醒を使った。鑑定すると、ステータスは上がって、母と同じようにほぼ倍になっている。次にファロンビスの一番下の子に覚醒を使った。今度はステータスに変わりはなかった。シュレンジュとは家族になったから、その子でも義理の娘みたいなものだから、家族に準じるものにあたるんだな。


簡単な昼食をみんなで採ったあと、オークたちは作業に戻った。俺はお姫様とエリーンを外のテーブルに誘った。

「ちょっとよろしいでしょうか?」

お姫様はテーブルの上にとまり、エリーンはテーブルの前に立った。威圧感が高い。

「お姫様は、まず荘園建設を進めたい、という思いですよね。」

「それはそうじゃが。それがどうかしたのか?」

「実はさきほど、すこし試したことが、あります。」

「何をためしたのじゃ。」

「シュレンジュとファロンビスの下の子供に覚醒を使いました。シュレンジュの子供には覚醒が発動して、ステータスがあがり、ファロンビスの子供には効きませんでした。」

「つまり、覚醒は家族だけではなく、その者の子供にも効果があるということですか?」

エリーンはすぐに要点を理解した。

「そのとおりです。見てわかるように、ステータスアップしたシュレンジュは何をしても、考えても他の者より有能です。もしこれを増やせば荘園建設は想定の何倍もの速さで進むと思います。」

頷いて聞いていたお姫様だったが、ハッとして、魔力が増大してきた。

「まさか、ショウよ、他の二人にもそのようなことを考えておるのか!」

闇魔法喰らったら、即死だろうな。しかしエリーンの反応は想定外だった。

「ショウさん、それは良い考えですね。ぜひ今晩にも。」

「エリーン、な、何を言っておる。そんなことは許せん。」

「お嬢様、よくお考え下さい。この荘園を作るのは私たち家族の願いです。その思いを同じくする者が増えるのことになんの問題があるのでしょうか?」

「い、いや、そうは言うが、そんなことしたらショウが、・・・」

最後のほうはごにょごにょ言ってたので聞き取れない。

「だれも畑の民20人ではりっぱな荘園ができるとは期待していません。そんな世間の評価をひっくり返しましょう。」

エリーンは拳を握って突き上げた。俺とお姫様はあっけにとられてそれを見つめた。少し間をおいてお姫様が訊いた。

「ショウよ、お前にとって一番大事なのはだれじゃ?」

「それはお姫様に決まっています。」

俺は即座に返答した。

「そうか、それならば、おまえにわらわの真名を教える。」

「お嬢様、そ、それはよろしいのですか?」

今度はエリーンが慌てた。

「わらわは、決めた。我が真名はリム。ショウ、よろしく頼む。」

「は、はい。ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。」

俺はお姫様の気迫に押されて答えた。横ではエリーンが呆然としている。なんで?

「私はお嬢様の従者として、役目を果たすことができませんでした。ここで自害させて下さい。」

なんでそうなるの!

「エリーンよ。冷静になってくれ。そちの言う通り、わらわの使命はこの荘園をりっぱに建設することじゃ。そのためには家族の絆が大事なこともわかっておる。そのためにわらわとショウは永遠の絆を結ぶのじゃ。」

「お嬢様。」

そういうと、エリーンは泣き崩れた。俺にも説明してよ。

「えーと、どういうことなんですか?」

「空の民であるお嬢様が、下級種である人間と家族になることだけでもとんでもないことです。そのうえ、真名を与えて永遠の絆を結ぶということは、前代未聞のことです。私は従者として、その責任を取らねばなりません。」

「俺がお姫様、いやリムもエリーンも絶対に幸せにするから、安心してくれ。家族じゃないか。」

そう言って背伸びしてエリーンの頭を撫ぜた。遠くのほうでオークの子供がこっちを興味深そうに盗み見ている。見せもんじゃないぞ。なんとかエリーンもなだめてその場は収まった。真名を与えるというのがそれほど重いことだとは思わなかった俺は、リムの思いに答えようと、改めて腹を括った。


その日の夜、ファロンビスとメイガリアンを奥の部屋に呼んだ。使うスキルはどれもMPを大量に消費するので、計算すると何とか間に合うだけの量の薬は残っていた。リムとエリーンはダイニングで寝た。リムが来たがった、エリーンに説教されて思いとどまったようだ。


翌朝、ステータスを確認すると二人はシュレンジュと同じように倍にあがっており、ファロンビスは農業、メイガリアンは商売を特技として獲得していた。


考えてみると、リムとエリーンの種族がそれぞれの考えに反映しているんだな。妖精族は一夫一妻、ケンタウロスは一夫多妻だ。妖精族は相手を独占したくなるし、嫉妬もする。一方ケンタウロスは家族で一体になることを優先する。だから自分が愛されていれば、他の雌がいてもそれほど気にしないようだ。いろんな考えがあってむづかしい。


その日の夕方、リムがオークの三人とエリーン、俺を呼んだ。

「シュレンジュ、ファロンビス、メイガリアン、そなたたちは今日から我が家族の一員だ。みんなで力をあわせてここを楽園にしよう。お前たちもシュウのスキルは知ったことと思うが、ここで見たり、聞いたりしたことは、絶対に外に出してはいけない。このことは肝に命じてほしい。すでにそなたたちは普通の畑の民ではなくなったことは理解しているとおもうが、これからそなたの子供たちも同じような力を得ることになるだろう。今までなかったような素晴らしい荘園を、この素晴らしい家族で作っていこう。」

シュレンジュがこれに答えた。

「お姫様、私たちは夫が亡くなり途方に暮れていたところに手を差し伸べていただき、それだけでも命をかけてお役に立ちたいと、みんなで話しておりました。その上この北の盆地ではショウ様によって、新たな人生の希望も見せていただきました。お礼のしようもございません。全身全霊でお仕えいたします。」

「そうか、これからもよろしく頼む。」

リムはなぜか、青筋を立てながら笑顔を作ろうと努めている。押さえてね。エリーンは横ではらはらしながら見ている。オークたちが去っていったので、リムに声をかけた。

「リム、よく我慢したね。いい子だ。」

「わらわは、ここの領主じゃ、当然のことをしたまでじゃ。」

頭を撫ぜると、抱き着いてきた。かわいいな。


翌朝、エリーンは買い出しに町に向かおうとした。特にMP薬が足らん。

「ひとりで大丈夫か?わらわも行こうか?」

「お嬢様、私も今は回復持ちのスーパー草原の民ですよ。狼の群れでも問題ありません。」

リムは心配したが、エリーンは気にしなかった。エリーンが出発するとリムは俺の肩に止まった。

「これからみんなシュウと一緒に寝る訳にはいかんじゃろ。順番を決めんとな。」

「確かにそうですね、まずリムが最初で、」

リムは一枚の紙を取り出した。俺は字が読めないんだけど。

「これで良いな。」

なんとそれは似顔絵でかかれていた。解読すると 一日目 リム、二日目 エリーン

三日目 オーク3人 四日目 リム

「えーっと。」

俺は意見を言おうとしたが、リムの見ると涙目だったので、言葉を飲み込んだ。

「そうですね。そうしましょう。」


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