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75、廃屋で遊ぶ孤児達1

ここからまた別の話になっていきます。

よろしくお願い致します♪

 バーダフェーダの南の地区は旧市街と呼ばれている。

 孤児の子供たちはその地区に唯一ある教会にて暮らしていた。


 さて、子供たちの中には悪ガキもいる。孤児なのだからどいつもこいつも擦れていると言われればそこまでなのだが、意外と性格の良い子どもたちも多いのだ。

 ただし、今回登場する子供たちは良い意味でも悪い意味でもフットワークの軽いやんちゃ坊主達である。


「イアン、マジでこの屋敷に幽霊が出るのかよ!?」

「マジのマジ!これは泣き虫マリナと冷血雪女のマルギットが見たと言ったんだから、確率は高いっ」

 イアンと友達のシルヴィオは教会孤児仲間の少女二人を思い浮かべながら、打ち棄てられた屋敷の門をかいくぐって歩いていた。


 この屋敷はドングルス邸と言われ、ルバニア帝国貴族の中でも指折りの上位貴族の所有であった。

 だが、このバーダフェーダ南地区を巡る魔障騒ぎで、主も屋敷を手放したというわけである。


 ここ周辺は、昔は貴族街と言われるほど、豪奢な家が建ち並ぶ界隈だったが、今は人影も無く空き家が無常に続く場となっていた。

 手入れされていない邸宅も多く、どこの家の庭も草が伸び放題、家屋自体も荒れているように見受けられた。


 イアンとシルヴィオは大人に安全な教会で遊べと言われていたが、それだけじゃ楽しくない。

 南地区以外でギリギリの悪さもしていたし、時にはちょっとした冒険心と金持ちをせせら笑うために、貴族達が夢が後の地で探検もしていた。――例えばこの周辺のような場所で。



 ドングルス邸は無人のはずなのに、幽霊が出るという。


 ――これは確かめなければならない。


 少年たちの好奇心を突くにはもってこいの状況である。


 ドングルス邸の立派な門扉の鍵は錆びて朽ちており、そっと手を当てて押すだけで簡単に開いた。


「なんだよ、侵入しがいがないな」

「いいじゃん、俺たちの目的は中の幽霊なんだから。こんなところで足止めされるよりラッキーじゃん」

「ま、そだな」

「とりあえず、行ってみよーぜ!」


 廃屋となったドングルス邸の中には、玄関の鍵が壊れていたため、意外にも侵入が容易であった。

 辺りを見回してみたが、基本的な家財はそのままにされているようだ。


「埃くせーな」

「仕方ないさ。誰も手入れをしていないんだ」

「せっかく高い家財も放ったらかしじゃ、もったいねーよな」

「貴族なんだから、きっと新しい家でまた新しい物を買うんだよ」

「俺らみたいに、小遣い稼ぎで金をくすねる必要なんてねーもんな」

「うん、そうだな……。この間はそれで痛い目にあったしな」

「……あれは運が悪かったんだよ」

「だな。はあ~っ。全ては金が無いのが悪いんだよなぁ」


 以前、とあるカフェ周辺で金をスろうとして、逆に捕まりかけたことを思い出す。

 結局、とある少女が助けてくれて、助かったが。


 シルヴィオはおおげさなため息を吐きながら、この広い邸宅の中を進んでいく。

 その横をイアンは鼻で笑いながら歩いていった。


 教会から孤児への施しは、生活に必要な最低限は保証してくれている。

 このご時世にありがたいことだ。


 教会は魔族の孤児に関しても寛容で、その慈悲は分け隔てなく与えてくれる。

 この街でイアン達子どもの魔族が生きていけているのも、そのおかげだ。


 しかし、差別は人間庶民には根強くあり、どうしても立場が低い彼らは、

 棄てられた南地区の教会でしか、生活しにくい。

 バーダフェーダの政策のおかげで、魔族に対する風向きは大分マシになった方だ。

 少なくとも、罪を犯さなければ、殺されることは無い。

 街を歩いているだけで、殺されることも無い。

 ただ冷たい目や、酷い仕打ちは普通にある。

 魔族の彼らを取り巻く世界はそのようなものであった。


 そういうわけで、この間のカフェの騒ぎは正直、イアン達にとってはマズかった。

 普通にスリは犯罪である。

 犯罪を犯した名目と差別感情を足し合わせれば、

 罰として一般的価値観以上に厳しい仕打ちを受ける可能性があった。


「今後はもう少し頭を使って、行動しねーとな」

「分かってる。アレは俺らが軽率だったよ」


 子どもだから、見逃された可能性もある。

 やはり、ある意味運が良かったのだろう。


「大人達は"前の事件"で大半がいなくなっちまったしな」

「……そうだな」

「教会に残っている大人の魔族は少ないし、気持ちが折れてる奴らが大半だ」


 あんな諦観の目で、ここで生きていきたいくはない。

 イアンもシルヴィオもそう思った。


「けれど、俺たちは"この都市"から出られない」

「……大金がいるんだよなぁ。面倒くさいよなぁ~」


 この地が嫌なら出て行けば良い。

 普通の人ならそう考えるだろう。

 

 しかし、彼ら魔族は出ることが出来ない。


 それは歴史の中で敗北した民が受けた、呪いとも言える術のせいだった。

 初代バーダフェーダの市長が"先住民"に施した束縛の術が、代に引き継がれ、子孫をも苦しめている。


「とにかく幽霊見付けようぜ!」

「そうそう、楽しまないとね!!」



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