#0014 町への帰還 / RTB
相変わらず少し短い。
Perspective: Observer
ABSOLUTE TIME: +74996 188 07:30:00.000
──人も獣もめったなことでは立ち寄らない荒野。
そこで唐突に黒い影が空へと昇る。
地面の下から飛び出してきたかのように突然に現れたそれは、
まっすぐに上昇を続けたのちに水平飛行へ移り、
直後に迷いなくある方角を目指し向きを変えた。
そう、全身を覆う黒い飛行装具に身を包んだワイバーンの探検家、
セルンは探索を終え、その成果を持ってここより
東にある研究アーコロジー、ロカウルへの帰途に就いたのだった。
「はぁ……これだけの発見、みんなに報告するのが楽しみだね。
荷物は増えたけどそれに見合う価値はあるよ、間違いなくね」
金属でできた腕に見慣れない武器らしきものを抱え
飛び続ける彼の姿は、期待と自信に満ちているようにも見え、
おそらくは先ほどまで探索していた旧文明の遺構にて
なにか価値ある発見をしたのだろう。
独り言として口からこぼれたその言葉の通りに。
しかし、同時に彼の身に着ける飛行装具には2か所の損傷が見られ、
そのうち右翼の付け根にあるものは完全に装甲を貫通しているのか
隙間からは小さく灰色をしたセルンの生身の翼が姿をのぞかせている。
旧文明の痕跡を追う探索は非常に大きな危険を伴うものであり、
今回も彼は大きな収穫とともに傷を負ったということだろうか。
「ああ、違和感があると思ったら、そうだった、
装備に穴が開いているんだ。あとでケーリムに
修理してもらわないとね……はぁ、気持ち悪い」
町へと急ぎ速度を上げて飛ぶセルンは、右翼の違和感に顔をしかめる。
低速時にはそれほど気にならなかった貫通孔から吹き込む
気流も速度が上がればその影響は大きくなってゆくもの。
身体を傷つけるようなものではないにせよ、
ワイバーンである彼には極めて不快なものであるようだ。
それでもセルンは強い違和感をどうにかこらえつつ町への距離を縮め、
ロカウルの防壁の上、天蓋部分に設けられた発着場への
最終アプローチへと移り、普段の彼とは異なる魔工噴進機関の
逆推力を利用した制動でそこへ降り立った。
「おお、セルン、帰ってきたんだな。……?
おい、それ、翼の部分穴が開いてるじゃないか! 大丈夫なのか?」
セルンが着地した直後、彼に駆け寄る人影が一つ。
発着場を見張る衛兵の一人だ。
「この装備のおかげで何とかね。
心配はいらないよ、僕の翼自体は無事だから」
穴の開いた装備を見て彼を心配するそんな衛兵にセルンは
翼を大きく広げてみせ、体に怪我はないことを示して
また町への扉へと歩き出した。
「……そうか、それならいいんだけどな。
まあ、つまりはきつい仕事をしてきたってことか。大変だったな、
町でゆっくりしていってくれ、うちならそれを
修理できる技師の一人や二人はいるかもしれないし」
その言葉で怪我はないことを知って衛兵も安心したのか、
衛兵は胸をなでおろし、持ち場へと戻る。
「うん。そうだね、とにかくこれを修理するまでは次の探索には
出られないから、君の言う通りしばらくは
ゆっくりしようと思う。まあ、ありがとう」
そして、セルンは彼を見送る衛兵に礼を言い、
扉をくぐって町の税関へと進んだ。
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Perspective: Cernn
はぁ、やっぱり穴が開いていると目立つよね……。
いきなり心配をかけてしまったよ。
早いところケーリムに連絡を取って修理を頼まないといけないけど……
まあすぐというわけにはいかないからなぁ。
とりあえずは傭兵ギルドに寄って言伝を頼まないと。
さて、扉を抜けて税関に入ると昨日と同じように
職員のみんなはとても暇そうにしている。
……ここ、もしかして僕以外使ってない?
考えてみると発着場はほかの方角にもあるし、
町の西側にはそもそも都市や集落もない、か。
それは確かに暇でも無理はない気がする。
「やあ、まただね。検査の方をお願いするよ」
相も変わらずうとうとしている職員に
少し大きめの声で話して検査を頼む。
「──ふぁっ、ああ、すいません、検査ね、はいはい……」
その職員は突然声を掛けられて一瞬何の話か理解していなかった
ようにも見えたけど、さすがにすぐに正常に戻ってくれた。
「え……その武器……? なんなんです? えーと、セルンさんなので、
もしかして新しい遺物か何かで?」
そして、当然といえば当然だけど僕が手に持っているこの
レーザーライフルは見落とさない方が難しいから、
当然税関の職員なら驚くよね。
彼は目を見開いて、"何かの見間違いじゃないよな"
というように大げさな反応をしてくれた。
起きたばかりだし寝起きのノリというやつなのかもね、ははは。
「うん、そうだよ。スリングがないから
ずっと手で持っているしかなくて」
「ま、まあ検査の方を始めますので、そこでお待ちを」
それからは前回と同じように禁制品のチェックと、
武器所持許可証の提示をして、特に問題なく税関を抜けることができた。
変な話かもしれないけどね、別に抜き身で武器を持っていること自体は
そこまでおかしくはないんだよ。特に旅行者とかなら。
許可証さえ持っているなら問題ないんだ。
よし、じゃあアークタワーまで飛ぼうか。まずは報告が最優先だから。
昨日と同じように防壁の上に建てられた柵の上から
この町の静かで柔らかい空気へ身を投げ出して、
僕は一直線にアークタワーを目指す。
装備の修理が必要な以上はしばらくの間探索はお預けだ。
合流場所と日時だけ決めておいて、ケーリムの予定が付くまでは
遺跡漁りではなく観光を楽しむのもいいかもしれない。
……そもそも彼、今どこにいるんだろう? 技師なのに
傭兵やってるからどこかに定住はしていないんだよね、確か。
まあいいや、アークタワーももう目の前だ。えー、発着場から入って、昇降機で……あっ。
ふと思い出してヘルメットの中の時計を見てみると、
今の時刻は9時30分。
それほど速度を出さずに飛んできたせいで
随分と遅くなってしまっていたみたい。
この時間はみんな仕事を始めたばかりで忙しそうだし、
なんか申し訳ないな。
よし、カリアたちに報告するのは昼からにして、
先に朝食を食べてギルドの支部に寄ろう。
あまりに間が悪くてうんざりするけど、僕は一度アークタワーを出て
中心街の外縁部、東門から続く大きな道路を
まっすぐ進んだところにある商業区を目指す。
再びタワーの発着場から飛び立ち、
高層建築群の合間を滑空して傭兵ギルドのロカウル支部へ。
確か場所は商人ギルドの建物の向かい側だったかな?
まあ、わかりやすくていいよね。
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緩やかに高度を落としながら商業区で一番大きな通りに降り立って、
徒歩に切り替えて傭兵ギルドの建物まで歩く。
今更だけど、僕はフリーランサーなのに
あまりギルドに立ち寄ることが無くてね。
支部がどこにあるかを知らない街も結構あるんだ。
大抵は他の職種のギルド支部とだいたい同じ場所にあるから
困ることは少ないとはいえ、たまに例外があって厄介だよ。
さて、周囲の他の建物と同じように石材と金属でできた3階建ての施設──
このすこしこぢんまりしたところがこの町の傭兵ギルド支部だね。
看板に"Mercenary's Guild Lohkaur Branch" とあるんだから間違いない。
この町でさんざん見た重たい金属の扉を開けて
実際に中に入ってみると……内装は
ほかの町のそれと特に変わらないかな。
入って右に窓口があって、左は待合室。
入口のすぐそばには従業員用の通路と階段で、
奥には公開依頼の掲示板が。
軽く見たところだとこの町にはそこまで傭兵の
需要はないみたいだけど……というよりは公開依頼で
出せるようなものが少ないだけかな。
研究チームの護衛なんて常に需要があるけど、任務の性質上誰でも
気が向いたら手伝ってくれというわけにはいかないから。
「やあ、ちょっといいかな?
とあるランク5の傭兵兼魔工技師に伝えてほしいことがあってね」
特に他の用事もないし、僕は一直線にクライアント向けの
窓口の前へ行き、ギルドの職員に声をかける。
「え、えぇと……ああ、あの猫のことですか。
セルンさんのことなんでまあ用件はわかりますんで、
他の支部向けにも共有しておきますね」
「うん。助かるよ、じゃあ僕はこれで」
すると、その職員は一瞬口元に拳を当てて考え込んだ後、
すべてを察したのかすぐに話を通してくれた。
はぁ……助かるけど、名が知れるというのも正直鬱陶しいと感じるよ。
それにしてもあの職員、珍しくゴブリンだったね。
窓口の高さが合わないから踏み台を使っていた。
ロカウルは連合領では割と人間以外の人型種族が多いとは聞いているけど、
やっぱり研究アーコロジーというのがみんなを惹きつけるのかな?
まあ、返事が来るのは下手したら1週間後とかになるし、
朝食を済ませてカリアたちに報告をしたらしばらくはのんびりしよう。
それから僕はギルドの支部を出て
昨日に引き続いてこの町で飲食店を探すことにした。
またカーサーの店でもいいけど、
今度は変なのじゃなくて普通のものを食べたいな。
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おまけ: Ls.122 重レーザーライフルはこんな感じです
[組織: 傭兵 / 商人 / 探検家ギルド]
ギルド、または組合とは個人や小規模グループで活動する自由労働者と、それらを必要とする企業や公的機関などのクライアントの間を繋ぐ仲介組織である。ギルドはこの仲介業務の手数料により主な活動資金を得ているが、地域によっては現地の行政機関からの援助を受けている場合もある。
現在、王国と連合では傭兵、商人、探検家という3つの職業に対応するギルドが存在し、労働者の権利を守ると同時に労働力としての質を保証する役目を担っており、自由労働者はギルドを介して様々な職務の紹介を受けることができ、また雇用主はギルドを介することで信頼のおける労働力を利用することができるという点がこの組織の存在意義である。
3つのギルドの中では商人ギルドが最も歴史が古く、続いて傭兵、探検家の順で設立されている。
コメント:
探検家ギルドはどちらかというと探査、測量や実地調査情報の共有や社会全体での活用、科学への貢献を目的としているという点で少し異なります。
この世界には主に二つの大陸がありますが、それ以外にも小さな陸地は無数に存在しており、船や飛行機械が存在している現在であっても様々な事情により惑星全体の完全な地図は作られていません。
惑星探査が進まない主な理由は遠征部隊の派遣コストや外交上のリスクであり、あまり大陸の外へ興味を示す者が多くないことも理由に含まれます。しかし、旧文明に関する研究においてはグラジス大陸(王国、連合ともう1勢力の領土がある大陸)内ではなく遠く離れた辺境地域に重要な手掛かりが存在する可能性が近年の調査で示されていることもあり、辺境への調査遠征計画は裏で進行していたりします。
ギルド全般の話に戻ると、傭兵ギルドの提供するサービスは最も分かりやすい部類で、会員である傭兵の評価や適性に応じて仕事を紹介したり、場合によっては依頼側からの指名で特定個人の傭兵、または傭兵団との連絡や調整を受け持つこともあります。
ギルドが保持している依頼の種類は主に3つあり、それぞれ公開依頼、通常依頼、指名依頼と呼ばれ、ちょうど低重要度、中重要度、高重要度に対応するとも言えます。
公開依頼は秘匿性が無い雑多な依頼であり、害獣駆除や中枢から離れた地域での警備任務のほか、都市の守備隊の人手が足りない際の鉄砲玉などが該当。田舎の方では監視の目が行き届かない場所も多く、意外と治安が悪いため賊が人目に付かない場所に野営地を構えたりすることもしばしば。
そういったところに殴りこむのも傭兵の仕事です。
通常依頼は傭兵自身がギルドの窓口で問い合わせることで紹介を受けられる依頼で、ここからは通常守秘義務が発生し、依頼主との直接の交渉が必要な場合も。
指名依頼は通常評判のいい傭兵にだけギルド側から通達される依頼で、どれも重要かつ危険な任務になります。
そのほか、会員になったばかりの傭兵はまずランク無しと分類され、何かしらの依頼を問題を起こさず遂行することでランク1に認定され、それ以降は雇用主とギルド側両方の評価に基づいて格付けがされ、最大でランク5の評価が与えられます。問題行動 (交戦規定や守秘義務違反など)や契約不履行で評価は下げられるというか、まあ場合によっては一発で除名処分に。
傭兵という性質上かなり厳しめ。




