恋する乙女みたいだと馬鹿にされていた僕ですが、婚約破棄された後、ついに素晴らしい人に出会えましたよ!
僕は昔から男にしては惚れやすく恋愛というもの自体にも憧れを持っていた。
でも運は良くなくて。
気になった人に声をかけると、大体、もう相手がいる人だったりして。
そんなことを続けているうちにある程度の年齢になってしまい、気づけば、親が紹介してくれた二つ年下の女性と婚約することになってしまった。
けれどもそれも上手くいかなくて。
「アンタみたいな恋する乙女っぽい男は無理! 婚約は破棄するわ!」
婚約者の女性リリアンネルからそう言われてしまった。
思えば僕はいつも馬鹿にされてきた。
周囲からはよく「恋する乙女みたいだな、男なのに」などと言われた。
リリアンネルもそういうところが嫌だったのだろう……想像はできる。
でも、こればかりはどうしようもないのだ。
僕は気づけばこうなっていた、人間の基本的なところを変えるというのは難しい。そんな大きな変化をもたらそうとすればかなり大きな衝撃がいる。ちまちまやっていては、変わった頃にはおじいさんだろう。
「そっか。ごめんね、リリアンネルさん。今までありがとう」
だから僕はこれでいい。
僕というものを変えることはしなくていい。
でも……もしかしたら、恋愛は難しいのかな。
その日、自宅へ帰ろうとしていると、突如出現した魔物の一種に襲われた。
「え……う、嘘だろ、魔物……?」
うさぎを大きくしたような魔物。
こちらを睨んでいる。
その視線は間違いなくこちらへ注がれている。
「そんな、う……うう……ど、どうし……」
前歯は長い。
「うわあああああ!!」
迫る魔物を見て、恐怖のあまり叫んでしまった。
◆
「大丈夫? 気がついた?」
意識を取り戻した時、僕は、知らないところにいた。
どうやら横になっているらしい。
真上から覗き込んでくるのは金髪をポニーテールにした凛々しい雰囲気の女性だ。
「あ……あの、僕は……」
「魔物に襲われたんでしょ?」
「は、はい」
僕は上半身を起こしてから何度も頷く。
「危なかったね、あの魔物は気が強いから」
「え」
「あと少し遅れてたら身体を歯で貫かれていたよ」
ううっ……話を聞くだけでも寒気がしてきそう……。
「間に合って良かったよ」
「ありがとうございました……」
その後、僕は彼女の名を知ることとなる。
「あたしはシェルテ、よろしくね」
凛々しくも美しい彼女は魔物ハンターだった。
◆
あれから五年、自分でも驚くが、僕は今もシェルテと一緒に暮らしている。
普通に生きて好きでもない人と生きて普通に死んでいく、そんな人生は嫌だ。その想いが僕をここに留まらせた。どうせなら特別な経験をしたい、そう強く思った時、僕は心を決めた。
で、シェルテに弟子入りした。
とはいえ僕には運動の才能はない。
なので基本彼女の支援だ。
でも僕らは夫婦のように仲が良い。
きっとこれからも一緒に生きていくと思う。
「そういえばさ、リリアンネルさんの情報あったよ」
「本当ですか!」
シェルテはリリアンネルとのことも知っているが、それでも僕を受け入れてくれている。
「でも……残念だけど、もう会えそうにないね」
「そうなんですか!?」
「リリアンネルさんは五年前の冬に亡くなったみたい」
「婚約破棄された年……?」
「そうなるね」
シェルテが得た情報によれば、リリアンネルは僕と別れた数日後に例のうさぎのような魔物に群れで襲撃され亡くなったそうだ。
ある日の夕暮れ、魔物の群れは彼女の家へ押し入り、一家を殺した後に食料を奪っていったそうである。
飢えていたのかな……。
もしかしたら僕の時もそれで……。
考えると恐ろしいので、考えないことにしよう。
◆終わり◆