おっちょこちょいな私ですが、のんびりほのぼの生きていきます。~婚約破棄されてからが人生の本番です~
自分でも思う。
私はおっちょこちょいなところがある人間だと。
でも。
「君との婚約は破棄するよ」
婚約者である彼フォムリンにそう告げられた時は、さすがに驚いた。
「君みたいなドジ女とはやっていけないよ」
確かに私は優秀ではない。が、婚約はそれでも成立した。そのため、彼はこんな私でもいいと思ってくれているのだと理解していたのだ。彼が私を嫌っているとは夢にも思わなかった。
「そうですか、残念です」
「は? 喧嘩売ってる?」
「いえ、純粋に。貴方といられなくなって悲しく思います」
これは本心だ。
できるなら彼といたかった。
とはいえ仕方ないことだ。
彼がそう決めてしまったのだ、私にできることはない。
「そうか。……まぁいい、これで終わりだよ」
「はい」
「いつまでそこに立っている気だい? 早く出ていってよ」
「あ、はい、そうですね」
そうして私は部屋から出ていく。
だが、早速、階段でつまづき落ちそうになった。
「……う」
「大丈夫ですか!?」
危うく階段の一番下まで転落するところだったが、一人の男性に助けられた。
「あ……す、すみません。ありがとうございます」
「お怪我は?」
「ありません」
「それは良かった」
男性はそう言って微笑む。
あぁどうしてだろう。
私は彼に惚れてしまいそうだ。
「ではこれで……」
「あの!」
「え? 何でしょうか」
「実は……」
私を助けてくれた彼ブロームスは、前にとある茶会で私を見てから気になっていたのだと言う。
でもなかなか声をかける機会がなかったらしくて。
私が婚約破棄されたのを聞いて、それで、声をかけようと廊下に待機していたそうだ。
「よければ友人になってもらえませんか!?」
「私かなりおっちょこちょいですけど」
「いいんです! むしろそこが良いところなんですよ!」
「そうですか、分かりました」
こうして私はブロームスと友人になった。
◆
それからは実家で暮らすようになった。
友人となったブロームスは定期的に遊びに来てくれる。
「そうそう! それで! うっかり転んでしまってですねー」
「それは大変ですね」
「転んだ経験とかありますー?」
「もちろん。ありますよ」
「聞かせてくださいよ!」
明るくいつも楽しそうな彼は一緒に遊ぶには良い相手だ。
一人で空をぼんやり眺めたり庭の植物に水をやったり手芸をしたりというのも楽しいが、彼と喋りながら過ごす時間も楽しい。
誰かと過ごす時間を楽しいと感じる。
そのこと自体がかなり新鮮だ。
◆
あれから数年、私は、なんだかんだでブロームスと結婚した。
フォムリンの一件で結婚は諦めた私だったが、彼とならのんびりほのぼの暮らすのでも許してもらえるのではないかと思い、彼と生きることを決めた。
プロポーズされた数秒後にうっかり落とし穴に落ちてしまって大騒ぎになったのも良い思い出だ。
今は私たちは夫婦。
彼と過ごす日々はとても穏やか。
私にぴったりと言えるだろう。
そういえば先日フォムリンについて聞く機会があったのだけれど。
彼は職場でのある失敗によって周りから露骨に仲間はずれにされてしまうようになり、虐められ、心の健康を保てなくなったため退職したそうだ。
今は親と同じ屋根の下で生活しているとのこと。
しかし、非常に感情的になりやすく、少しでも気に入らないことがあるとすぐに暴れるような状態だそうだ。
母親はほぼ毎日、父親もこれまでに何度か、フォムリンにしばきまわされたそうだ。
とても健康な心の持ち主とは言えない。
◆終わり◆