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古文書 と 勝算


 グインズの村長、を名乗る老人に招かれた。

 小さな一室。というよりも小さな空洞と言った方がいいかもしれない。


「狭い所ですが、どうぞこちらに」


 わざわざ座布団を敷いてくれた。

 ここまで丁重に扱われると歯痒いな。


「まさかご先祖からの言い伝え通りとは、長生きする物ですな」


「言い伝え?」


 年寄りは身の上話を好むというが、早速だった。

 ここまで勝手に話してくれるならこれだけありがたいことはない。


「我が先祖より受け継がれた物です。グインズに大きな災い起きる時、姿を現す。あらゆる困難を民と共に乗り越えてくれる。『人々を救う救世主』様」


 救世主とはまた、大きく出たな。

 人々を救うか。確かに普通の人間からしたら奴隷は自分達の思うように使える道具。

 間違いなく救世主だな。


「その救世主が、レーグ様だと?」


「はい、まさしく神の災いを凌いだ。言い伝えに倣えば救世主の他ありません」


 うわぁ、何か嫌だな。

 この人達がそう信じてる救世主様は実は奴隷ですってわかったらどんな顔をするのか。

 意外にも受け入れたりして。


 自分達もこんな暗がりにずっといるんだから、ある意味では似た者同士なのか。

 当然正体を明かすつもりは無いけど。


「ちなみ村長さん、その困難を乗り越えるどうこうってなんだ?」


「申し訳ありません、そこまでは私目も存じ上げません。グインズをも救ってくれるのは。ということくらいしか」


 その言い伝えとやらを信じるつもりは無いけど、興味はある。

 困難。つまりは神災はきっかけで他にまだ何かある。


 そんな疑問が出ていた。


 困難・・・ん~~、今グインズの困難と言えば騎士団がなんか企んでる。商業組合と喧嘩してしまってるからここにいるような人達に物資が行き届かない。

 グインズからしたら騎士団はその困難に当てはまる・・・のか?


「とは言え大昔からの言い伝えです、現代のグインズはインシス王国の支援の下大きな発展を遂げました。なのでこういった古い言い伝えを信じる者はもう少ないですがね」


「それでも実際に神災が起きてこんな状況にでもなれば、言い伝えを信じたくもなる・・・か」


 藁にも縋る思いって奴か。

 それにしても聞いてる限りではグインズって古いだの、大昔だの、かなり歴史ある場所なのか。ここまで賑わってると都心ほどでは無いにしろかなり都会なイメージがあったんだけど。


「グインズをここまで大きく発展して頂いた王国には頭が上がりません」


 現在進行形でグインズを苦しめているだろうのも王国の騎士団様だとおもうんだけど、言わないでおくのが吉だな。


 変な話しだな。昔は救う為か知らないけど、小さい村をわざわざ発展させた。

 それで今度は摂取作業だ。人から金を巻き上げている困らせる。


 牧場?家畜?信仰を高めた奴隷?


 なんだか釈然としないな。本当にわざわざ・・・。


「・・・わざわざ・・・救う・・・」


「何かありましたか?」


 そうだよな。

 わざわざ手間暇かけて信仰させて発展させるなんて。おかしいよな、俺はおかしいと思う。

 何か理由、目的。グインズじゃないとダメな。


「あの・・・」


 俺が知る限りの情報、それが情報なのかも定かではない情報。


「村長、『氷凛玉座』って知ってますか? もしくはそれっぽい言い伝えでもいいですけど」


「んーー・・・」


 悩んでる。

 という事は俺の勘ぐり過ぎか。まさかそう都合良いわけないよな。


「グインズの隠された財宝」


「え?」


 振り返ると若い男が村長の部屋に入ってきた。

 腰に一本の剣を下げあまり飾らずの地味な格好。

 だけど短髪の茶髪で見るからに好青年ですという力が強い、俺には眩し過ぎるくらいだ。あぁ目が痛い。


「お初にお目に掛かります、僕はロイ。村長の孫です」


「お孫・・・」


 おぉーここでまた新しい人間に自己紹介された。


「お初にお目に掛かります私は・・・」


「存じております、ミミナさん、そして・・・」


「レーグ」


 ありがとうございますと律儀に頭を下げられた。

 本当に行儀がいいとはこの事だろうな。

 それよりも。


「ロイ・・・さん、財宝ってのは?」


「ロイで構いませんよ、レーグさん。財宝というのはこのグインズに眠ると言われてる言い伝えです」


 自分は呼び捨て希望で俺にはさん付けか、何だか気が狂うな。

 そしてまた新たな言い伝えか、湧いて出てくるな言い伝え。


 とは言え彼に詳しく聞くことが一番なのは間違いないな。


「その財宝話、何かあったんですか?」


 真剣な眼差し、何かを察してるのか。

 話してみる価値はあるか。話さないと前に進まない気がするし。


「ミミナ」


「はい、喜んで」


 俺が話すなんて誰が言った。



 ミミナが懇切丁寧に説明してくれた。もちろん俺が思った通りに。

 ロイというお孫も思った通り真剣に話を聞いていた。


 騎士の話しには物凄く食いついているようにも思える。

 お孫も騎士団の行動は耳に入ってる様子。そしてそれはあまり喜ばしい物ではないという様子だった。


「そうでしたか、改めて神災からこの街をお救い頂きありがとうございました」


「いえ、こいつの言い過ぎです」


 また無駄に余計なこと言ってる。

 だけどお孫には一先ずこちらの事情がある程度わかってもらえた。


「このグインズを手中に収めた理由・・・それがその氷凛玉座、グインズの財宝。ということですか」


 可能性の話、そして俺はそれを知りたい。

 その情報を上手く使えれば前進する・・・気がする。

 グインズをわざわざ傘下に置いた本当の理由。


「僕なりに色々昔の文献を調べていたので、少し待っていて下さい! すぐにお持ちしますので」


「いや、俺達が行く。時間が惜しいから」


 村長に一礼だけしてお孫に家の前まで案内される。

 お孫の家? はかなり近くだった。

 家、というよりも村長と同じような空洞の一角だ。玄関は布一枚で仕切られているだけ。


「それにしても、ここがあんたの家って。もしかしてずっとここで暮らしてるのか?」


「え・・・。ああ、はいそうですね。僕は物心が付いた時からこの地下がグインズです」


 ああ、その反応からするとこの事はグインズにとって普通の事。もしくは世界的に見ても暗黙の了解という感じなのか。

 ミミナも何も言わなかった所を見ると、グインズの原住民はここにほぼ居るというところだろうか。


 そして避難用にも使われていると。


 お孫の家に入る前に一度後ろを振り向く。

 この場にいる者達、俺達を救世主なんて煽てた人達。普通に笑顔で接してきた、中には地上から避難してきた者も居ただろう。

 だがほとんどの人間は原住民と考えると色々考えさせられる。


 地上に比べると少なくても裕福とは言えないだろうし、必ず格差というのが生まれるはずなのに。


「笑えますよね」


「どうだろうな、何がそいつにとっていいのかなんて知らない」


「・・・・・・」


 

 それがいいなんて言う変な奴も居てもおかしくはない・・・か。

 いい物が本当にいい物なのかも、わからないんだからな。


「すまん。さっさと用事を済ませるが吉だな」


 勝手に感慨に耽って申し訳なかった。

 どうしても奴隷としての目線だと、善悪の区別というのが曖昧になる。

 だからこそ、自分の感性というのは大事にしたいものだ・・・。






・   ・   ・






「全然わかんね」


 文字が読めない。

 中にある通常の文字は読めるけど、それ以外の良くわからん文字は全く読めない。

 ミミナは頑張ってお孫からそのよくわからん文字を教わりながら読もうと奮闘している。

 が、元々お孫自身もその文字の解明に手間取っていてあまり良い成果は得られそうにない。


「読めるようにねぇ・・・」


 一つの薄い書物を手に取り眺める。

 これにその財宝だか言い伝えだかが書いてるってのはわかる。けど読めなきゃ意味ない。

 お孫が持っているその書物は多くはないけど、これ一つにどれだけ時間がかかるのやら。


「はぁ~あ」


 あまりに暇でつい宙に投げ遊んでしまう。

 投げて奴隷紋のストレージに入れ、また取り出してを繰り返す。

 特に意味なんて無い、本当にただの暇つぶしお手玉みたいなモノ・・・。


「あれ?」


 また取り出して投げようとした時ふと気が付いた。



- 古文書  詳細 -



 詳細・・・。

 軽くそれを見てみた。


「あっ・・・」


「どうかしましたか?」


 俺の呟きに二人が反応した。

 不思議そうに俺を見るが構わず詳細を見た。


 小難しい言葉が多く並んでるが、読めないわけじゃない。

 俺が収納したこの古文書と呼ばれる物はグインズの歴史を綴られた物だった。

 大昔のグインズ、というよりこの近辺は凍土地帯だった。今俺達が居る場所は自然に出来た訳ではなく元々グインズの先祖達が寒さから凌ぐ為に作られた物らしい。


 何故か物語チックに書かれてるから読むのが面倒になってくる。

 とりあえずこれにはこの地下を作るが大変だったが何とか作り終えた。その大変さやドラマが多くありましたとさ。


「ん」


「はい?」


「それ寄こせ、俺が見るから」


 呆気に取られた顔のミミナに手を出し他の文書を奴隷紋に取り込み詳細を確認する。

 二冊目も同じように理解できる。ここまで簡単に解る逆に面白いな。二人が眉間に皺を寄せて頑張って解読しているのに俺一人小説を読むような優越感に浸れる。

 奴隷紋に感謝しかないな。


 それから俺は一人で古文書を全て読み尽した。

 この古文書は本当にただの小説のような物語風に書いてあった。

 だけど肝心な巻数が何巻か抜けていた。

 それでも・・・。



「よし、わかった。財宝の場所が」


「え!? 本当ですか!?」


「流石レーグ様です!」


 絶賛の声が浴びせられる。

 今日は何だか悪い気がしない。


 だが、そんな余韻に浸っている場合ではない。

 さっさと行動に移さなくてはならない。

 俺はすぐにお孫に知り得た情報を説明した。


「財宝は、ここにある。この地下の奥だ」


「ここに・・・ですか!!?」


 そりゃあ驚くだろうな。

 先代のグインズ住民もとんでもなく驚いていたようだし。

 

 運命、必然。なんだかそんな感じで書いてあったな。

 この地下を作っていく中、ほぼ完成に近付いた時初代村長がそれを見つけたようだった。


 だがその道を固く閉ざした。

 誰もが思ったようだ「ここは立ち入ってはいけない。私達がここに住まわせてもらう以上触れてはいけない領域だ」と。


 それが十中八九、騎士団連中が探していた物。


「早速向かう準備に入りたいんだが」


「で、でしたら。僕同じ冒険者達も一緒に同行させた方が良いと思います! 人手は多い方がいいと思いますので。す、すぐに呼んできますね!」


 突然の事で慌ただしく家を出ていった。

 お孫が冒険者・・・って初めて聞いたんだが、まあ何かしらに所属はしているとは思っていたからあまり驚きはしない。

 ただその慌て様には驚いたは驚いた。


「よろしいのですか?」


 ん? 何でだ。

 俺の顔を見て首を傾げる。人との接触の事を言っているのか、それともその情報を何の見返りも無く教えた事か。


「囮くらいにはなるんじゃないのか」


「そ、そうですね」


 適当に言った事を苦笑いで返された。

 まあいいさ、ここは一つ経験ということで。善人的に言えば好意を無碍には出来ないってヤツだ。


「そういう事にしよう・・・」



 自分に言い聞かせるように口にする。


 本音が見え隠れするかのように、自分さえ解らない本音を・・・。










・   ・   ・




「失礼します、オルランド様」


 騎士の男が一人頭を下げ呼び掛けた。


「フーダイ伯爵ですね、入りなさい」


 長髪のオルランドという男はすぐに入室を許可した。

 眼鏡を掛けたフーダイという伯爵騎士が再び頭を下げた。部屋は二人のみ。

 オルランドの部屋は書斎、騎士団関係の書類が多く整理され置いてある。 


「ご報告致します。月光騎士団のコンザーより連絡です、グインズの一件上手くいきそうだと」


「ほう、それは朗報ですね。フーダイ伯爵の部下、教育が行き届いている証拠ですね」


 オルランドは紅茶を入れたカップを手渡す。御祝い事のように笑みを浮かべながら。

 当然フーダイは丁重に受け取り共にティータイムと洒落こんだ。


「そういえば、巷で噂の『災刈』というのは?」


 唐突に思い出したかのようにカップを置きフーダイに尋ねた。


「こちらもコンザーに同時に調べさせております。こちらは思った以上に手こずっている様子でして進捗はよろしくないようで」


「そうですか・・・」


 再びカップに手を伸ばし紅茶を楽しむ。

 災いを刈る者。

 それは最近噂とされるモノ。神災に現れるディザスターを悉く排除していると言われる人間の話。

 騎士団の中でもその噂を耳にする事があるようだ。そこでその目撃情報のあるグインズで調査をしている。


「神災の時、多くの騎士団が居たのに・・・ですか」


 苦い顔をするフーダイ。

 確かに騎士団も神災時に尽力した。だが世間の評価は思った物とは違う。

 災刈が全て持っていた形になってしまっている。実際にグインズに住む者はみな神災から助けたのは災刈だと言われている。


「すぐに調査を進め、早急に対処するよう言い伝えます」


「いえいえいえ、私は喜んでいるんですよ。人々の希望の象徴、皆が拍手喝采の存在。素晴らしい限りではないですか。確かに我々騎士団からその様な者が出たら更に感極まったのですがね」


 ニッコリと笑みを浮かべながら紅茶を口にする。

 フーダイはその表情を見て汗を垂らしていた。とにかく早く災刈の詳細を調べなくてはいけない。


 頭の中はそれだけだった・・・。

 

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