不服 と 思惑
「さてさて・・・」
ぱっつんとの約束通り俺とビッチは再び屋敷の前へ足を運んだ。
「ローズさんやはり良い趣味ですね、このローブ」
ビッチがローズに今回の件を自慢するように話してしまった。あのぱっつんを脅迫する様がお気に召したようだった、あんなのの何がいいんだか。
だが、意外にもローズは俺達に是非協力させてくれと思っても無いことを言い二人分のローブを手渡してきた。
俺は灰色、ビッチは紺色と色以外は同じデザインと性能らしい。デザインとは言っても今まで付けていたマントとほぼ同じでポケットが腰に付いてるくらいしかない無い様な悪く言えば地味、よく言えばシンプルな物。
でもただのマントよりは格好が付く。脛近くまで伸びてマントよりも自分の姿を隠せているし身軽で思った以上に快適だ。
「お待たせしました、早速行きましょう」
何の前触れもなくぱっつんが姿を現した、昼間のドレスとは打って変わって先日の姿と同じ姿だ。地味で目立たない格好、ぱっと見では男装をしているようにも見える。
今さら思ったがこいつ思ったよりも身長低いな。いやまあ高くはないってくらいだけど。日頃スタイルが良い方ではあるビッチとローズを見ているとどうも感覚が狂っていたことに気が付いた。
「変な視線を感じるのですが。何ですか」
「いや、別に」
色々と貧相だなって・・・髪を短くしたら少年になれるんじゃないか。
そんなくだらない事を考えてると、早速時間が惜しいということで移動を始めた。
「あなた方の目的が全くわからない以上、私の監視下という形で作戦に参加して頂きます。もう拒否権はないと思って下さい」
最初からそのつもりだ。下手に役割なんて振られたら面倒この上ない。
目的なんてほどの物じゃない、ただの下調べ。情報収集が目的だ。これはビッチにもここへ合流する前に伝えてある。
と言っても、俺の目的は神災を調べる事だってことだけだけど。
「で、今から向かう所は何処ですか」
「神災対策研究所よ」
これはまた、予想以上な答えが返ってきた。もしかしたら着いてからのお楽しみなんて言われるかと思った。
「参加するということなら話す、そう伝えたした通り説明致します。 私達の目的は奴隷を使っての神災研究資料です」
研究資料。つまりは情報ってわけか、思ったよりもまともで少し驚く。もっと破壊的行動を取るのかと思ってた。
その情報は俺達にも教えてくれ・・・ないだろうな恐らく。
「では、あなた達は何故私に用があったのですか?」
「それは、もう一つの目的。第2優先事項の奴隷です。どちらかというと作戦終了後に仕事があると思って頂ければと思います」
奴隷が目的か。
なんだろう、その言葉を聞いて難しい顔をしてしまった。
それはぱっつんが業務的に第2優先事項を口にしたこともあるが、一番はそう・・・。
「まさかだと思うが、コイツの事を希望とか言ってたのって尻拭いの為か? 第2優先事項とやらが名目で、本命はその資料の情報の奪取ってか?」
「お答し兼ねます。第1優先事項は限られた者にしか伝えてない事、それをあなた方にはお伝えしたその意味を理解して頂ければ幸いです」
何となく色々と見えてきた気がする。
このビッチが必要なのは奴隷を解放し、その後のケアの為。文言はそうだな、ビッチに台本でも読ませて「奴隷でも生きていけます、私のように頑張れば辛い困難も立ち向かえます」でどうだろうか。
それを聞いた研究材料とされ奴隷達は涙を流してビッチに付き従う。
完璧な作戦だ。ってか?最高に面白いなこの作戦、反吐が出るくらいに。
何処までいってもその格差は埋めることが出来ない・・・か。
正義者なんて口にしても結局は人間だってことか。もちろん期待なんて微塵もしていなかったが、その現実を突き付けられると昔の自分みたいに口角を上げることなんて出来ないな。
「よって、あなた達には、私に同行して頂き奴隷救出の手伝いをお願い出来ればと思います。よろしいでしょうか」
「拒否権ないんだろ、そう言っておいて聞くな」
やっぱりこのぱっつんもムカつく。
なんだろうか、この自分の正義は間違ってないっていう物を具現化したかのような存在がまたなんとも。
確信犯って奴か、正義者じゃなくて確信犯って名乗った方がみんな納得するだろうに。
「レーグ様」
「あぁ、別にいい。好きにすれば」
あまりの呆れさに適当に返事をしてしまった。
このビッチはどうゆう心境で今俺の名前を言ったんだ? この作戦の後の事だよな?
まぁコイツがどうなろうと俺には全く関係がない。
煮えくり返る気持ちだ。
・ ・ ・
それから俺達はぱっつん様に連れられ他の正義者達が多く滞在する大きな宿屋の一室に集合した。
「それでは作戦内容の確認を行う!」
俺達はフードを被り部屋の隅でじっとしていた。
あのぱっつん様がある程度の人間達に俺達の事を説明したようで、特別扱いだ。
まあ誰一人こちらに話し掛けてくる者は居ないから良いけど。それでもビッチのローブの上からでもきっちりとわかる我がままボディに目線を追い鼻を伸ばす奴は後を絶たない。
でもま、俺達が奴隷だとわかったらここの奴らはどうゆう反応をするのだろうか。
今も作戦確認をしている人間達は真面目に耳を傾けているが俺はともかく、こいつがあの有名なってやつの奴隷だとわかったら正義者が暴徒者になってもおかしくないなんて思っている。
「はぁ・・・」
「レーグ様、気乗りがしないのでしたら」
「いや、いい。気使い感謝するよ」
また赤面・・・するなんて思ったがそうでもなかった。
意外にまともに俺の心配をしているようで涙が出る。いつもその感じなら少しは見直すのにな。
「では、以上だ。 何か質問のある者はいるか?」
どうやら作戦確認とやらは終わり質問タイムになった。お決まりのように沈黙になる。
そして質問が無いとわかると各自作戦準備ということで解散になり次々と部屋から退散していく。
俺達はただ二人でずっと隅に固まり出ていく者達を見送る。
「では、我々も行こう」
ぱっつん様も多くの正義者さん達に激励を送り終え俺達を迎えに来た。
その顔はとてもキラキラしているようにも見えた。充実している、そんな面だった。見ているだけで変な気持ちになる。
どうも俺はへそを曲げている。自分を客観的に見ても思う、ただの子供の様だと。
そう思われても構わないし、これが現実でありこうゆう世界に生きている以上仕方がないとも思う。
こんな思いをしない為にも今はこの気持ちを抑え込む。
難しいよ・・・生きるって。
「・・・・・・。あのファレン様」
俺も移動を始めようと立ちあがった時、後ろから声が聞こえ立ち止まり振り向いた。それはぱっつん様も同じだった。
「ここまで来て進言するのはおこがましいとは思いますが、私達自身に危険が及んだ場合、私達は二人で逃げさせて頂きます。もちろんお助け出来ることは全身全霊を掛けてご協力させて頂きますが、その点だけご了承頂ければと思います」
突然の申し出に俺は驚いた。内容は至ってシンプルな物、優しい言い方をしているが。自分達が危なくなったらお前等を置いてとっとと逃げるからなという物。
「・・・いいでしょう、その点では了承致します。それまでは出来るだけ足を引っ張らないよう、お願い致します」
「わかりました。ありがとうございます」
深々とお礼のお辞儀をする、まるで俺の変わりと言わんばかりに。
「では、行きますよ」
「・・・ああ」
お辞儀をする彼女の肩に手を置く。
俺はお前の事が嫌いだ、だけど俺の為に言ってくれたのはわかる。それを無下にしてはいけない。
してしまったら、ここの部屋に居た奴らと何も変わらない。
そんな罪悪感が俺の迷いを吹っ切ってくれた。
「ふふふ仮にしておきます、今度一緒に就寝お願いしますね」
「却下」
俺はお前が嫌いだ。そこに嘘偽りはない。
そんなこんなであの噂の研究所とやらに、俺達は足を運ぶのだった。
・ ・ ・
ここはレーグ達が目的地としている研究所。
そこにはインシス王国の名のある騎士団達が研究所前に集まっていた。
「聖天騎士団集合ー!」
フォルトの号令で集合される。その中には当然ユリスの顔もあった。
続々と集まる騎士達は真剣な目でフォルトの話を聞こうとしていた。
「気を抜かせるようですまない。私達はこのままここの警護だ」
聖天騎士団が命じられたのは正面入口の警護。
団長が集まる確認報告等でフォルトが言い渡されたのはその指令の継続ということだった。
「団長ー! あの噂について何か言われてましたかー?」
団員の一人が手を上げ質問した、誰もが気になっていることだ。
先日聖天騎士団もあの反逆者殲滅作戦に参加している、ならば考えることはその殲滅したであろう反逆者達の残党。
そして噂は、あの殲滅作戦は一部の反逆者達だけだったということ。
「一切触れてない、私が触れようとも思ったけどそんな空気じゃなくて・・・ごめん」
またいつものように申し訳なさそうに謝罪するフォルトにまたこれも同じ様にいえいえとお馴染みのコントのように掛け合う。
だが、騎士団員もフォルトもその噂の信憑性を重く見ていた。
「とりあえずみんな警戒態勢は怠らないで、何時その正義者とかいうのが
来るのかわかったもんじゃないからね」
「「「「「了解しました」」」」」
団員達が次々と散開していく。
そんな中ユリスはフォルトへ向った。
「フォルト隊長、先日の事なんだけど」
「ん? 殲滅戦の件? さっきも言ったけど特に情報が無いよ」
「あ、違うそうじゃなくて、えっと・・・臭い?」
疑問を掛けるような質問だった。ユリス本人もわかっていない、そんな様子でフォルトもどうしていいのか難しい顔をする。
ユリスのこういった意味のわからない質問は今に始まったことではない。
それでもたまにそれが当てになる時も無いわけではないので無下には出来ないでいた。
「んーーっと、どの臭い?ユリス」
考え抜いた言葉がこれだった。けれどユリスもぱっとしない返事をしてた。
「あの・・・なんていうか、似た臭いが・・・。っ!?」
ユリスは首を傾げたふわっとした表情からキリッとした表情にすぐ変化した。
ゴォオォォンッ!!!
同時に近くで爆発が起きた。すぐさま騎士団員達が声を掛け合う。状況の把握を最優先した動きを見せる。
「戦闘体勢!」
フォルトの号令に全員武器を取り身構える。噂の真意の問題はすぐに解消された。
聖天騎士団の目の前に大勢の人間が姿を現す。全員素顔を隠すようにフードを深く被っているが彼等の正体には察しが付いていた。
「正義者の奴らか、本当に現れるなんてな」
「気を抜かないようにして! 正義者とか言うのの情報は全くないんだから・・・にしても」
敵の数が多過ぎた。正面を守る人数を遥かに超える量の人間が押し寄せてきていた。
先も言った通り、正義者達の情報は聖天騎士団には下りていない。どんな魔法を使うのか、どういったスキル持ちの連中なのか。
前回の殲滅戦でも同じだ。ただの反逆者。それだけしか教えてもらっていない。
「おぉぉおおおー!!!」
「やれぇえええええー!!」
大勢の人間が押し寄せてくる。近接戦闘、ならば聖天騎士団に分がある。常に最前線で戦っていた彼等は他の騎士団よりも経験値は豊富。
そう近接戦闘なら。
「敵魔法攻撃!! 防御体勢!!」
空から大量の火の弾が姿を現した。
夜の暗い闇の中、周囲に松明の明かりがあろうと暗く視界を極端に減らしているのが、魔法の光。火の弾の光は誰の目にも映っていた。
「くぅ!!」
「陣形を崩すな! 威力の弱いこけおどしに過ぎない!」
フォルトの言う通り敵魔法の力は数は多いも威力は大した物ではない。
今の団員達ならば軽傷以下に留めれる。
「今だ!!いけぇええーー!!!」
「進めぇえええ!! 敵の動きは止まったぞー!!」
これ見よがしに敵の正義者達は一気に押し寄せてくる。
最初に目視したのは先遣部隊、後方には更なる人数の人間が押し寄せていた。
「居過ぎ・・・!!っだろぉ!!」
「陣形を崩さないように立ちまわ・・・ユリス!!」
一人の団員が先陣を切って突貫する。
新調した片手で持つ剣を振るい次々と研究所へと向かおうとする者達を斬り裂いていく。
どれだけの数を揃えようとユリスは自らの速度を落とす事無く突き進む。
「冷血が出たぞ!!」
正義者達もすぐにユリスの姿を確認していた。
とにかく今は凌ぐ、少しでもユリスの行動を抑えようと躍起になる。
だが悲鳴が留まる事はなかった。
正義者達の腕は斬り落とされては胴体も真っ二つ、血は飛び交いユリスの居る周辺は真っ赤な血に染まっていた。
「待たせたな! 準備は出来てる!」
「よーし! 冷血対策開始だ! 魔法、放て!!」
複数の人間が魔法詠唱が始めすぐさま今も暴れ続けるユリスへと向けらてた。だがその魔法を当てるべく正義者達が大勢で取り囲んでいた。
身動きが取れなくなるユリス。その地面に魔法紋が形成された瞬間スキルが発動する。
「ポイズンフィールド!!」
紫の魔法紋が発動と共に光り輝く。
避けることは出来なかった、取り押さえ要員の正義者達も共に毒の結界の餌食。
それが彼が考えたユリス攻略の手段だった。
「ぐぅぅうああああ!!!」
「あぁあああ!! 毒消しを!!」
「早く!!くれぇぇええ!!!」
本来なら毒消しをすぐに飲みその結界内で耐える算段だった。
だが、それは出来なかった。
正義者の指揮官の一人がはニヤリと笑った。その真意は単純な物だった。
ただでさえ強いユリスに取り付くなんて誰もが進んでやるわけもない、それどころか毒の結果の上で耐えるなんてもっと無理な物。
だから指揮官は彼等に嘘を付いた。
彼等には効果の無い物、ユリスのみに効く魔法だと。
もちろん味方識別魔法は存在する、今回の作戦は全部が全部捨て身の戦法ではなかった。
だが本当の作戦はこれだった、ユリスの動きを封じ猛毒の魔法で完全にユリスをこの世から葬る作戦だった。
「ふふふ、悪く思うな。これも王国の為君達の犠牲は無駄に・・・は?」
「ん・・・?」
指揮官は途轍もない大口を開いた。信じられない光景だと。
ユリスは一人魔法紋の上で一人自分の身を確認するように体全身を見ていた。
一体何があったのかと。何故自分をせっかく取り押さえた正義者達が悲鳴を上げながら死んでいったのか、わからないでいた。
「なななな! 毒耐性だと!!? 馬鹿な!!そんな情報は無かったぞ!!」
戸惑いを隠せていないのは指揮官だけでは無かった、自ら魔法をユリスにぶつけた魔法部隊も全員がユリスの姿に唖然としていた。
自分達の最高魔法が一切効かない。物理的な攻撃、それは魔法も一緒。目に見える攻撃はとにかくユリスには通用しない。
ならばと、今回の作戦の為に猛毒の魔法を手に入れたというのに全くその成果が出ていない。
「・・・あれか」
ユリスは一人ポツンと立ちながら呟いた。
自分に毒耐性なんて物が備わっていた事に自分自身驚いていた。だが思い当たる節はあった、むしろ一つしかなかった。
いつぞやの洞窟ダンジョンの戦い、寄生ディザスター。
あの時ユリスには力が宿っていた、それは毒を無効にするものではない。毒ダメージを回復へと変更させる力。
一時的とはいえその力を宿した状態でディザスターが持つ世界最強クラスの毒を常に受け続ければどうなるのか、答えは簡単だった。
(あれ・・・俺のせいだ)
物影から主戦場を見ていて両手で自分の顔を覆うレーグだった・・・。




