第五話 この世界で
~ある男の記憶~
「んっ、此処は…?」
やぁ、お嬢ちゃん。
「ひっ!どっ何処から」
あ~、スマンな。肉体を失って久しいからな、念話を使わせてもらった。
「…私は、死んだのですか?」
うんにゃ、危なかったのは事実だがな、魂が無事なら保護は可能だ。
それに、親近感湧く光景が目に入ったからな。
「親近感、ですか?」
そうそう、例えば、自分の成果を盗られたり、背後から口封じの為に刺されたり……とかな。
「っ!」
いやな、俺、この世界は、いや、この世界も理不尽だーなんてのは何時も思うんだ。
どれだけ信用しても、騙され裏切られ、闇討ちされ…
どんな美辞麗句で彩ろうとも、結局本質は変わらない。
詰まるところ、強い者や、小狡い狐狼の様な者が上にたつ。
口だけの無能など、飽きる程見てきた。
要するに、正直者が馬鹿を見るのはどの世界でも共通な訳で。
「そんなのおかしいよっ!」
だと思うだろ、嬢ちゃん。
そう!おかしいんだよ、狂ってんだよ!
でも誰も変えられない。
そりゃあそうさ、汚職を暴露しようとしたある正直者が、
いきなり逮捕されたり、変死したり、謎の武装勢力に殺されたりするんだ。
敵は強大で、俺らは無力なんだよ。
「でも、それじゃぁ……報われないよ。今まで、死んだ人達が……」
………そうだ、な……
「ねぇ、貴方の考えたは分かった。だからね、賭けをしない?」
……なんのだ?
「貴方のー」
………………………………………
はぁー、行っちゃった……。
バカなやつだよ、全くもって。
『私は、そんな奴らを許さない。そしていつか…みんなが仲良く出来る世界に』
夢が多すぎんだよ、強欲が。
例え、お前が頑張っても、強大な力を持ったお前を…人は、恐れる。
そして、いつかお前を殺すぞ。
…〈魔王〉となったお前を……
………………………………………
ドスッ
……ほらな。
「…なんで、私は、人の、為に」
〈魔王〉に致命傷を与えたのは、勇者の一撃、ではなく長年補佐してくれていた男だった。
「魔王、お前を殺せばその力、殺した奴のものになるんだろぉ」
男は、もうすぐ〈魔王〉の力が手に入ると、上機嫌で語る。
その圧倒的な力が欲しくて、服従していただけ、
〈魔王〉の力を手に入れた時、外聞が悪くならないように噂や、裏で組織した部隊を使い、悪のイメージを国民に刷り込んだ、等など。
「っ!……そう、か……」
「大丈夫だぞ、魔王さんよォ、俺がちゃんと支配してやるからさっ!」
ドスッ!ブシャッ!!
だから、言っただろ。
人は、どうしようもなく、愚かだと。
…プツン
「私…信じてたのに……分かり合えるって。信じ合えるって!」
「ひぃぃぃ!!首が、は、話っ」
ベキッ!! メキメキッ!!! バキッッ!!!!!
ムッ、我の眷属召喚と似た術式…なんと禍々しい。
「あなたたち、私と死体を媒介として、世界に災禍を振り撒きなさい」
その日、〈魔王〉は、倒された。
魔王の力である《魔法》と魔力は、多少劣化したものの、《魔法》は魔術となり人々が抗うための力となる。
だが、一部の劣化しなかった権能は、魔王と同じ意思を持つものにひっそりと受け継がれていった。