第一話 無能 クリュウ・マヤ
「ん~っ!」
気合いを入れる。時間の問題で挑戦できる回数はあと僅か。
しかし、諦める訳には、いかない。
「…よしっ!」
気合いを入れて風系統:丁級 〈風脚〉を詠唱する。
「我が身に宿る風の理 疾風よ 我が身に纏え!」
すると魔力が魔術陣を巡り、足下に緑色の魔術陣が展開し………なかった。
「……ダメ、かぁ」
想像はしていたが、それでも堪える。
勿論、厨二病では無い。断じて無いのだ(重度の患者だったことはあるが)
俺は、至って真面目である。
(…羞恥で転げ回りたくなるが、羞恥で転げ回りたくなるがっ!)
「ふぅ…も、もう一度っ!」
~数時間後~
「で、またダメだったのね~」
「ごめん、オリベ姉」
「いえいえ、謝ることはありませんよ。けど…」
机に突っ伏していた頭を上げて正面に座るお姉さん兼孤児院長を見る。
織部・雀鷹。
アメジストのような深い蒼の瞳と白銀の髪を持つ、かつて顕れた勇者の末裔。
身に纏う黒を基色とした上品な着物につきそうなセミロング……ごちそうさまでした。
そして、4歳の頃から火・水・風・土の魔術を扱えた天才であり、俺の師匠で、捨て子の俺を育ててくれた恩人でもある。
姉、という単語の通り、俺が今14歳で、3歳しか離れていない。
「ねぇねぇ、マヤちゃん」
「えっ、あハイ」
「何か思い当たることは無いかしら?普通の魔術の殆どが使えない理由」
「……」
「理由が分かれば解決出来るかもしれないわ」
そう言われても、なぁ。
正直、理由は単純明快なのだ。
それは…俺が地球で暮らしていた時の常識のおかげで、魔術が信じられない為。
簡易的に自身に身体強化をかける分は問題ない(まだ鎧等がイメージ出来るからだ)
けど、魔術となるとイメージどころか、信じられないから
詠唱しても無意識にブレーキがかかってしまう。
「…ごめん」
「…まぁ、マヤちゃんなら大丈夫よね、固有スキルのジュー、リョク…?があるし」
「重力魔法だよ、オリベ姉」
そう言って、席を立って魔装を取りに行く。
「もう、春休みも終わりかぁ、もうちょっと甘やかしても良かったのに」
「…その好意だけで十分だよ」
甘やかされたら、ダメな気がする、人間としてダメになりそう。
「もっと私を頼っていいのよ」という、某特Ⅲ型駆逐艦の様な溢れる母性を感じるのだ。
けどなーという誘惑を頭を振って振り払い、育ての親にまた、別れを告げる。
「じゃあ、また、夏休みに」
「そうね…また、夏休みに」
「お土産、楽しみにしててよ」
そう言った俺にアヤベ姉は、
「マヤちゃんが無事に帰ってくるのが、1番のお土産ですよ」
しいて言うなら、面白いみやげ話しを期待してます。と付け加えて、
送り出してくれた。
深海 彩羽様、お忙しい中ご助力頂きありがとうございました。