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プロローグ
私の腰に尾ひれがついた。
深いエメラルドの海の中に差し込む、か細い陽の光。最後の泡がそこに当たってパチっと弾けた。
上と下が、途中で分からなくなった。光のある方が上のはずだった。
でも私は、光の方へは行かなかった。
誰かが私の名前を呼んでいる気がした。呼ばれ慣れた名前。私のものではなかった名前。
私も嘘をつこうとしていた。でも、嘘をつく前に電話は切れた。
残ったのは本当の私だけ。やっと私は私になれた。
こんな形でしか、と思った。それから、こんな形でも、と思い直した。
海水に目が沁みる。涙が海水と混ざって、見えなくなっていく。
誰にも見えないところで泣くのは、得意だった。
水の中は静かだ。ここまでは、誰の声も届かない。
これから、たくさんの人が私のことを話すだろう。話すたびに、私は少しずつ、その人たちのものになるだろう。
そして私は、物語になった。




