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ふ か  作者: 柿原 凛


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1/9

プロローグ

 私の腰に尾ひれがついた。


 深いエメラルドの海の中に差し込む、か細い陽の光。最後の泡がそこに当たってパチっと弾けた。


 上と下が、途中で分からなくなった。光のある方が上のはずだった。

 でも私は、光の方へは行かなかった。


 誰かが私の名前を呼んでいる気がした。呼ばれ慣れた名前。私のものではなかった名前。


 私も嘘をつこうとしていた。でも、嘘をつく前に電話は切れた。


 残ったのは本当の私だけ。やっと私は私になれた。

 こんな形でしか、と思った。それから、こんな形でも、と思い直した。

 

 海水に目が沁みる。涙が海水と混ざって、見えなくなっていく。


 誰にも見えないところで泣くのは、得意だった。


 水の中は静かだ。ここまでは、誰の声も届かない。

 これから、たくさんの人が私のことを話すだろう。話すたびに、私は少しずつ、その人たちのものになるだろう。


 そして私は、物語になった。


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