カレンと俺と2
それから数日。
俺は国王から、アホほど接待された。
国王は俺に美味い飯とたくさんの宝石を押し付け、感謝を示してくる。
まだ王都の復興も済んでいないくせに、馬鹿じゃねえのか。
そんな余裕があるなら、国民のために使ってやれよ。
俺はとりあえず宝物を少しだけ受け取り、うんざりしながら人間世界をあとにした。
カレンを生き返すために持ってきた赤い石を手に、戻ってきた魔界の大地を踏みしめる。
この石は、アレキサンドリアたちの身体を造るために使う。
それが一番利口な方法だろう。
魔界にはまだ、俺が魔王を分解したときに発生した赤黒いモヤが漂っていて、視界がボヤける。
――モヤ、か。
こんなエネルギーを視認できる時点で、俺はもう普通の人間とは言えない。
俺は、バケモンになっちまった。
カレンもいなくなって、人間でもなくなって、俺はこれからどうしたら良い?
少なくとも、人間社会に俺の居場所はない。
だったら俺は、どう生きる?
『レノ様に感謝申し上げます』
アレキサンドリアたちの住処へ行き、身体を造ってやったら、みんなに感謝された。
交換条件を果たしただけで、感謝されることでもないから、居心地が悪い。
ゆっくりしていけと言われたが、さっさと帰ることにする。
「じゃあな。テメエら、もう戦争はすんなよ」
『もちろんです、レノ様』
「何か困ったことがあったら、俺を呼べ。少しくらいなら手伝ってやる。俺は、魔物たちに作ってもらった村で暮らしてるから」
『あの、赤い石を祀っていた村ですか? 人間の世界へは、帰らないのです?』
「まあな。半分魔物みてえな俺が、人間社会なんかで生きていけるかよ」
そう言い残して、俺はモヤたちの森から去った。
俺の居場所は、結局、魔物たちが造ってくれたあの村しかない。
魔物たちはみんな良いヤツだ。
俺のために動いて、立派な村まで造ってくれた。
だったら今度は、俺がアイツらのために生きてやるべきなんじゃねえの?
『レノ殿』
村へ帰ると、ドラゴンのメロが俺を出迎えた。
メロは一足先に、村へ来ていたらしい。
後ろに小さな魔物たちを従え、すっかり馴染んでやがる。
『さあ来るのだ、レノ殿。住処をととのえ、食料も調達しておいたぞ』
「ガチで?」
『ああ、見るがよい』
メロが自慢げに翼を広げる。
その奥に広がる居住地。
道路は舗装され、建物の外壁は強固な岩石で新たに加工されていた。
「なんじゃこりゃあ!」
村のはずれには食料の貯蔵庫が建設され、中の温度が一定に保たれている。
そこには、さまざまな魔物の燻製や野菜、果実がわんさか貯蔵されていた。
「これを、オマエらが?」
小さな魔物たちは得意げに頷いている。
優秀すぎるだろ、コイツら。
俺は思わず近くのウルフを抱き上げた。
ウルフがベロリと俺の頬を舐める。ザラザラした舌が少し痛い。
田畑の周りには水路が流れ、広範囲へ一気に水をまける機構まで作られていた。
どういう仕組みなのか、俺にはさっぱりわからない。
「なんか、すげえことになってんな!」
『そうであろう、そうであろう。みなで協力して、より良い村づくりをしたのだ』
「ウチも驚いたネ!」
会話に乱入する声がする。
建物からピョコッと顔を出したのは――。
「ピィ! なんでここに居るんだよ!」
あり得ねえ! 俺は口をパクパクさせた。
だってオマエ、つい数日前まで、王都でベアトリーチェとして働いてたじゃねえか!
なぜここに居る?!
というか、ピィなのか?
ベアトリーチェはどうした!
混乱する俺を見て、ピィがピッピピッピ笑う。
「ウチ、起きたネ! 入れ替わる、自由ネ! ベア、いぱい働いたネ! 次、いぱい遊ぶネ!」
『というわけで、ピィ殿も先ほど、この村へ遊びに来たのだ』
「はー……、まあ、ふたりで上手く身体を使い分けられてんなら良いけどよ」
合成されても、ちゃんと生き続けられるなら、それに越したことはない。
だけど、カレンを想うと、胸がズキンと痛んだ。
でも、それはそれ、これはこれだ。
カレンは、自我を保てなかった。
ピィとベアトリーチェは、自我を保てた。
そう、割り切るしかない。
「レノは、これからどうするネ?」
「どうって?」
「ここで暮らすネ? もう人間とこ、いかないネ?」
「まあ、そうだな。とりあえずここで、俺は俺らしく生きるわ。猟をやって、村を統治して。俺は元々、猟で生きてきた人間だからさ」
結局、俺は根っからの村人なのだ。
魔王を撃退する、なんて馬鹿げた事態に巻き込まれたけど、そんなイレギュラーな日々はもう終わり。
俺は俺らしく、俺にできることをして生きていく。
村の中で、村人として、胸に宿るカレンと共に、いつまでも。
なあ、カレン。
俺は心の中のカレンと一緒に、この命を使い果たすから。
だからその間、一緒に、平々凡々な幸せを紡いでいこうな。
よろしくな、カレン。
俺はそう心に誓いながら、青く澄んだ空を見上げた。
了




