第十六話
「悔しかった……那月が決勝に上がれなかった時。ずっと努力してるところを見てたから……余計に」
流れ出るものは止まらない。ついには隠すことをやめて、涙声の中話してくれた。
「ごめん、こんなこと言っちゃって……迷惑だったよな」
弱々しい姿を見せたら謝るところ、昔からそうだ。相手に心配させまいと無理して強がってるみたいだけど、その行為が自分自身を苦しめて結局、今のように崩壊する。体は大きくなっているのに、中身は何も変わらない。口下手なところもそう。……でもそれが、彼なりの優しさだってことをよく知っている。
司君と違って……昔から問題を後回しにして逃げてばっかだ。自分の首を絞めて悶えるどころか、司君のように夢を応援してくれる人にも心配をかけてしまう。司君の言うように、心のどこかにまだ陸上への情熱が残っているかもしれない。でも、直に感じた頂点への壁を越えるに値する程持ち合わせていない。こうしている間にもハードルは伸びていく一方。次獲ればいいって両親は言うけれど、また一年同じように頑張って練習して全国行ったところで、決勝に行けるの?そもそも全国に行ける保証は?受験はどうするの?このまま夢を追いかけていいの?
……なんでもっと早くから司君に相談しなかったんだろう。
「……本当にバカなんだから」
自然と吐き出してしまう。気づいた頃にはもう遅かった。
「うん……バカだよ。俺は」
「司君じゃない、バカなのは私の方。ずっと応援してもらってたのに……何もできなかった。それどころか、今もいろんな人に迷惑をかけてる……」
「誰も……迷惑だなんて思ってない」
「みんな優しいから、口にしないだけだよ……きっと」
「そんなこと言わないで。那月が頑張ったのは……みんな知ってるんだから」
「違う」
「違くないよ。みんなを信じて」
「でも……」
司君にそんなことを言われなくても、みんなのことは昔から信じてる。今、信じることができないのは……この私。
「……無理だよ、私にはできない。怖いの。また負けるんじゃないかって」
私は続けて、「みんなが期待してくれているのは嬉しいよ。だけど、期待に応えようと練習して、また決勝に出られなかったら?全国に出場できなかったら?……って考えちゃうの。忘れたくても無理。夢に出てくるくらいだもん……」と、これまで溜めていた物を放り出す。
「私だって走れるならそうしたい。でも、もう遅いの、何もかも……」
「那月……」
乾ききっていた地面はまた潤いを取り戻す。どうすればよかったんだろうか。
「……遅くないよ、那月は一人じゃない。俺もそばにいてやるから」
「何それ、どういう意味?」
「分かんない、咄嗟に出てきた。でもまあ、できるとしたらマネージャーとか?」
「あんたそれ女子陸上部の中に混ざるって言ってるようなもんだけど……?」
「あ、確かに。それはマズいか」
「うん、マズいね。それも結構」
もし本当に彼がマネージャーになってくれたら……と考えた事は何度かあるけど個人的にじゃなくて部のマネジメントだからあまり意味はない。それに、きっとお互い忙しくなるだけだろうから。
「じゃあどうしようかな、とりま顧問の先生に一緒に頭下げに行くとか?」
「そんな事しなくて良いよ、私の問題なんだし」
「てか先生って那月が無断で休んでる理由知らないんでしょ?」
「まあ言ってないからね」
「ならさ、俺が無理やり連れ出してましたって言えばお咎めなしじゃね?」
「でもそれじゃあ……」
私の顧問の先生は厳しい。特に部活動に関しては。欠席する理由が何であれ、必ず叱責をする人。陸上に熱心なのは有難いけど、その熱意の方向が異常で、彼のせいで体調を崩した生徒がいるとかいないとか。体罰をしないだけまだマシだと思いたいぐらいだ。
「わかってるって、あの先生がやばいってことぐらいは」
「じゃあ……」
「大丈夫、きっと何とかなる」
「でも……それだと司君が」
「言ったでしょ?そばにいてやるって。それにさ、遅かれ早かれ先生に捕まってこんな事になってるだろうし、一人で延々と説教聞かされてるよりは誰かいたほうがいいでしょ?ね?」
……決まってそうだ。私や、私以外の他の子にもこうやって救いの手を差し伸べる。物静かな人なのに親身になって相談に乗ってくれて、人の嫌がることも進んで引き受ける。本人だって辛いはずなのに、そんな顔は一切見せない。いつも悪いって思いながら私は今日も頼ってしまうんだ。そんな自分が嫌いだ。
そんなことを考えながら私は静かに頷く。司は私の手を掴むと、「なら、早速行こう!」と、ベンチから立ち上がった。バッグは置きっぱなしのまま、学校までまっすぐ走り出す。司君の背中とたまに見える横顔が今でも焼き付いている。手をギュッと握り返した。
♦︎
……決して忘れることのできない大切な思い出。私がこのまま陸上を続けられたのも、高校に上がってから起きたことも全て司君がいてくれたからこそ。感情的になる……きっとキマリスの言っていることは今、私の思い浮かべていることとはまた違ったことなのでしょう。自分のことは自分が思っている以上によくわからないもの。司君は私の知らない自分を教えてくれる。私の大切な人。……だから私は前に進まないといけない。この想いを糧に私は……。
「……いきます」
瞳を閉じて両腕を宙に差し出す。全身から湧き上がる不思議な流れを感じながら、暖かい光を想像した。その想いがまたいつか、昇華されることを願って。
「こ……これは」
「お、お嬢様……!すごい!」
陽の光に当てられたからなのか目を閉じているのに眩しく感じてしまった。それでも目が慣れてきてゆっくりと開くと両の手のひらから光源が漏れていることに気づきました。炎のように揺らめいているけれど、何も熱さを感じません。
「これが……魔法……。やった!できました!」
喜びのあまり飛び跳ねると集中が切れたのか、私の生み出したあの魔法はすぐに消えてしまいました。ベイルも自分のことのように喜んでくれて抱きついてもくれました。その衝撃で私たちはバランスを崩し倒れてしまいましたが、そんなことはお構いなしに「おめでとうございます!」と何度も祝いの言葉を言ってくださいました。
「いやはや、素晴らしいものを見せてくださいました、お嬢様。流石でございます、まさかあのような大きな火の柱を出すなんて」
倒れた私たちにそっと手を差し伸べながら、あまり似合わない笑顔が溢れているキマリスは言いました。二人とも、私が魔法を使えるようになったことを心から祝福してくれているようでした。
「二人の助言があってこそ、です。ありがとうございます」
「いやぁ、良かったですよ。私にも何か役立てることができて」
「そうね、感謝するわ。ありがとう、ベイル」
照れくさそうにしているベイルを見て私も気分は晴れやかです。これで私も、一人前に一歩近づけたでしょうか。
作者の瑠璃です。
まずは読んでくださりありがとうございます。
この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。人族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!




