表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兵法とは平和の法なり  作者: MIROKU
寛永編
14/40

第十四回 再出発



 江戸城御庭番と共に日々を生きる七郎。

 彼の心は虚無だ。十数年に及ぶ隠密行の中で心は乾いてしまった。

 だが唯一、彼の魂が輝く時がある。それが兵法だ。

 父と師から受け継いだ技と魂、更には飯坂長威斎の説いた「兵法とは平和の法なり」という概念――

 それを実践するために彼は江戸を守る戦いに身を投じる……

「若、何にしやす?」

 物思いにふけっていた七郎に源が注文を取りに来た。ここは源のうどん屋だ。

「ん? あ、ああ、一切の無駄のないものを」

「じゃあ、素うどんでよろしいですかい」

「ではそれで」

 という事になったが、運ばれてきたうどんを見つめて、七郎は寂しさを覚えた。

 素うどんには刻んだネギがたっぷりと乗せられている。いい味ではあるのだが、ふと店内を見回せば、うどんの上に様々な具が乗せられているのが目に入る。

 竹輪やかまぼこ、野菜の天ぷらなどもある。源の店ではうどんとは別に各種の惣菜があるのだ。

 これによって客は自分だけの特別なうどんを楽しめる。値は張るが食べる喜びがある。だから客足が増えてきているのかもしれない。

「大事な事は一つだけではないな……」

 七郎はうどんをすすりながら苦笑した。彼は洗練された無駄のない一手を追求する。なぜなら武の真髄とは一瞬で敵を倒す事にあるからだ。

 だが、それはそれ、これはこれだ。それに気づけただけでも七郎には大事な悟りだ。

「蕎麦切りも頼む」

「へい、まいど」

 七郎は蕎麦切りを追加注文した。この時代の蕎麦切りとは、後世の蕎麦の事だ。単に蕎麦だと、丸めた蕎麦がきの事になる。

 また蕎麦に含まれる成分には疲労回復の効果があり、それがために肉体労働者に好まれ、江戸では蕎麦が広がったのかもしれない。



 かすみの旅芸人一座は驚いた。河原で出会った武士の順三郎が五両以上の大金を持参して、頼み事に来たからだ。

「ど、どうしたの、この金?」

「刀を売った」

 順三郎は落ち着いていた。武士の魂といえる刀を質に売り、彼はどうする気なのか。

「俺をここへ置いてくれないか、何でもする」

 順三郎はかすみ以下、旅芸人一座の者に深々と頭を下げた。これは彼の新たな一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ