Ⅱ-38 5歳の終り
■リーブル皇帝 寝所
「黒狼よ、食事は多めに出してもらったが満足してくれたか?」
「白虎よ、お前も良く頑張ってくれたな。ゆっくり休んでくれ」
二人は今日も返事をしない。
誰も褒めてはくれないが、今日は良く頑張ったと俺たち三人が判っていればそれで良い。
公爵達を捕らえたことで危険は減ったかも知れんがこの先も安心は出来ない。
もし、この二人がいなければ俺などすぐに死んでいるだろう。
ドリーミアの教皇が何を考え、パパンがどうしてこの二人を貰ってくれたかはいまも判らない。
でも理由等どうでも良いのだ、俺は感謝してこいつらを愛し続けて生きていくだけだ。
家族は居ないが俺の周りに誰も居ないわけじゃない。
いつも最高の親友が二人もいる。
うん、やはり今日も一緒に寝てもらうことにする。
俺は酒がまだ飲めぬからそれを祝いとすることにしよう。
二人は喜ばんだろうが今日は付き合ってもらおう。
三人で祝眠だ!
■リーブル宮殿 皇帝執務室
イシュバール達の処分は早めに進めた方が良いだろう。
先の大臣達のように子弟達が変な気を起こすかもしれない。
「陛下、エドガーとラインハルトが参りました」
「「陛下、本日もご機嫌麗しくぞんじます」」
「うむ、そなた達もな。今日来てもらったのは、昨晩の件で後処理を考えねばならんからじゃ」
「はい、陛下もハンス殿もご無事で何よりでした」
「うむ、エドガーはその場におったのじゃな。他の領主達は何か言っておったか?」
「はい、陛下が現れた時は、ただただ驚いておりましたが、部屋に軟禁された時は・・・皆、怯えておりました」
-全員殺されるとでも思ったのか?
「ふむ、少し脅かしすぎたかも知れぬ。じゃが、反逆者を逃さんためじゃ。機会があれば説明しておいてくれ。して、両公爵の領地についてじゃが、全て直轄地にする。イシュバール領は組合で管理するようにせよ」
「ブッフバルト領はいかがされるのですか?」
「うむ、ブッフバルトには爵位は返上してもらうが、そのまま代官として管理してもらおうと思う」
「代官? でございますか? 謀反人の一族ですがよろしいのですか?」
「うむ、あの男は少し可哀そうな気がしておるのじゃ。あやつは謀反人をあぶりだす手助けまでして、結果的に自分も処分されるんじゃからな。領地と爵位は取り上げるしかないが、屋敷を使う権利と代官としての手当てを払ってやることにしたいのじゃ」
「かしこまりました、ではそのように取り扱います」
「それと、イシュバールの一族も希望すれば新しい組合に入れてやれ。じゃが、恐らくフランへ行くと思う。ラインハルトよ、フランへ行った後の動きを掴んでおいていれ」
「承知いたしました」
「イシュバールとエミリアの処断はどうされますか?」
「死罪でよい、法に基づいて処断する。それと今回の処断については書状で全領主へ送るのじゃ。法に基づく処断であると明記しておけ」
-鉱山送りの方があの二人を罰するには良いかも知れんが恩赦の理由が無い。
「陛下、わたくしからもご相談したいことがございます」
「なんじゃ、ハンス」
「はい、陛下は来月で6歳におなりです。祝意を表す誕生行事を行いたいのですが」
「祝意? そのようなものは不要じゃ。だが、何をやりたいのじゃ?」
「各国や領主から祝いが届けられますので、謁見と祝宴を開催したいと存じます」
-即位式みたいなものか、やらねば他国に礼を失することになるか・・・
-しかし、王族や貴族と会っても意味は無い。ならばいっそ・・・
「やりたく無いがわかった。謁見相手を減らして1日だけとせよ。それと、直轄地でも民と一緒に祝いをしてくれ」
「どのような祝いをお望みなのですか?」
「うむ、民にパンを出来るだけ配ってやれ。パン祭りじゃ!」
■リーブル宮殿 中庭
中庭に吹く風も段々涼しくなって来た。
花壇の花の種類も変わっているようだが名前は判らない。
それでも、風に揺れる花はいつ見ても綺麗に咲き誇っている。
マリーがいなくなって半年ぐらいだ。
最近はここに来ても涙が出ることが無くなった。
「マリーよ、そなたとマリーナに毒を盛ったやつを捕らえたのじゃ。時間は掛ったが、責任を取らせる」
「じゃが、不思議なことにあまり嬉しくないのだ。絶対に捕まえたいと思っていたのじゃが・・・いざ捕まえても、喜びも怒りも沸いてこぬ」
「何をしたとて、そなたが戻ってこんからだろうな。もう会えぬと判ってはいても、やはり今でも会いたいと思うのじゃ」
そうだ判っているのに不思議だ。
なぜ、いつまでも会いたいのだろう?
涙は出ないが寂しい気持ちがいつまでも続いている。
「陛下」
振り返るとミユが立っている。
「ミユよ、どうしたのじゃ?」
「陛下がここにいるって」
-マリー!
「そうなのか! 他に何か言っておらんのか?」
「あの時の声で、『陛下が寂しくしているので、お側に行って上げてください』って」
「そうか・・・、そう言ってくれたのか」
ミユは白虎と俺の間に立って何も言わずに俺の手を握った。
俺と同じ小さな手は温かかった。
そうだ、生きている人間の手は温かいのだ。
「大丈夫、わたしがずっと一緒にいてあげるから」
「!」
マリーの言った通り5歳の俺にはこれからも多くの出会いがあるはずだ。
人生は悲しい別ればかりでは無い、きっとそう言うことなのだろう。
うむ、マリーよ判った。
俺は皆の力も借りて立派で格好良い皇帝になれるようにもっと頑張る。
マリーとの約束は必ず守る。
だから安心してそこから見ておれ!
-第二部完-
ここまでお読みいただきありがとうございます。
素人のつたない文章によくぞお付き合いくださいました。
エリックはまだまだ頑張ると言っていましたので、皆様はそのうちお会いできるかもしれません。
作者は少し違う世界へ行ってみたいと考えております。




