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この世界も生きている  作者: 宮ミヤ蝉
第9章 サルベルシア女王国横断鉄道編
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第396部分 1級の来訪

―・―・―


 5日後、すべての区画が予定通り施工完了し、残す工程は石化魔法を施すのみ。側面に石化魔法を施すために依頼した王立魔法省の魔法士が金細工の施された白塗りの馬車に乗ってやって来た。


「すごいな」

「1級は扱いから違うのか」

 魔法士にこれまで何度も業務を依頼してきているからこそわかる明確な違いを前に、思わず口にせずにはいられない。


「はじめまして」

「本日はよろしくお願いします」

「その....挨拶する方を間違えていると思います。私は見習いですよ?」

「えっ、どういうことだ。後ろの君か?」

「僕も見習いです」

「魔法士らしからぬ格好ですまないね。こっちのほうが楽なんだよ」

 どこにでもいそうな、ごく普通の格好をした男が手すりを伝って下りてくる。魔法士とは思えないような恰好ではあったが、先に降りてきた2人とは違う雰囲気オーラを持っていた。


「しっ、失礼しました」

「後ろの君は気が付いていたみたいだね。素質があるんじゃないか?」

「いえ、偶然ですよ....」

 言えない、3人目はどんな人が下りてくるのだろうかと気になって覗き見ようとしただけなのだから。思いがけず周囲の注目を浴び、うつむいた。


「ふ~ん。まぁいい、私がラホッスだ。忙しいにもかかわらず、出迎え感謝する」

「ラホッス様、こちらこそよろしく頼みます」

「こちらこそ」

 手を差し出され、ラホッスと握手を交わす。形式的ではなく、しっかりとつかみ返してくれたことには若干驚きが隠せなかった。


「早速の要求で申し訳ないが、バルバと石化を施す範囲について詳しい者の同行を頼みたい。それとそんな畏まらなくていい」

「いいの?」

「いきなり馴れ馴れしく話す奴がいるか!」

「えっ、あっ....すみません」

「ふふ。彼くらいで構いませんよ。そんなに強く言わないであげてください」

「わかりました。それについては事前に手紙をいただいておりますので、準備してあります」

 いきなり間合いを詰められたことに目を丸くしたものの、思い切りのある性格は嫌いじゃなかった。笑いながら怒っている最高責任者をなだめる。


「ありがとう。うむ、なかなか良いバルバだな」

「バルバに騎乗できるんですね」

「ええ、いつ乗ったか記憶が定かではありませんが体は感覚を覚えていますね」

「見習いの時ですか?」

「この人、優秀すぎて見習いとかやってないよ」

「それはすごいな....」

 手を貸そうと一歩踏み出す前にラホッスはあぶみに足をかけ、慣れた手つきで騎乗する。それだけでも驚いたのに、見習いを経ずに1級に就いている事実には驚きを通り越して呆れすら感じられる。


「魔法士の印象が変わりましたよ」

「そのせいなのか知りませんが、型崩れなのは良くも悪くもこの人くらいですよ」

「そこまで言わなくてもいいだろい!」

 そこまで徹底的に言われるのは心外だと言わんばかりに全力でラホッスは否定して見せる。それがまた必死ゆえに周囲を笑わせる。


「だって本当なんだもん」

「自覚がないなぁ」

「じゃあ自覚してください」

「仲がいいですね」

「優秀な仲間です。さて、ふざけていないで行きましょうか」

 良くも悪くも重用されるが故の驕りがラホッスからは全くと言っていいほど感じられない。彼の部下とじゃれ合っている姿は実にほほえましかった。


「いいね~楽しい。魔法の探求もいいがこのように外に出るのも最高だ」

「いい気分転換。風が気持ちいいね」

「どうでしょうか?」

「先ほどから見ているが仕事が丁寧だね。SMPの浪費が少なそうだ」

「少し前に石化を施してもらった箇所がありましてね。その時得た知見を活かしました」

「ご配慮に感謝します」

 バルバに揺られ、魔法を行使する場所の下見。本棚に囲まれる生活も楽しくはあるが開放的な空間と比べてしまえば後者のほうが圧倒的に魅力的だった。


「にしても河川の流れを変えると平地の拡大が叶いそうだ」

「地盤が緩いので難しいのでは?」

「それは使い方次第であろう?」

「....そうですね」

 水はけが悪いのではないか?そう反論してしまいそうだったが、すんでのところで抑える。話が脱線しすぎも良くないと思うのと同時に、魔法士にしか見えていない景色があるのかもしれないと思って。


「それにしても5mは思っている以上に深く感じるな」

「ですね。私も同じこと考えてました」

「足を滑らせてしまえばただじゃ済まなさそう」

「幅に加え、深さを加味すれば雨季の洪水の心配は限りなく無用になるでしょう」

「素晴らしい事業だね」

 誰かにいたずらでもされない限りは足を踏み外すことはないだろう。好奇心で、転がり落ちる様を想像すると足がすくむ。


「長いな....2、3回に分けて魔法を行使して精度を高めたほうがよさそうだ」

「地図上でイメージするのと実際見るのとでは全然違う」

「できますよね?」

「もちろんだとも。心配しなくていい」

「自身気に言えるのが末恐ろしい」

「ふふふ。それはいくら何でも誇張しすぎさ」

 知り合いに石化できるかどうか聞いたからこそわかる異常さ。知り合いにはとち狂ったのか?とまで言われてしまった広大な範囲を前にして、にこやかに返事してしまうことに恐怖すら感じた。空耳かもしれないが、3回で完了するとのことだから顔が引きつる。


「誇張ね....」

「ただ、巻き込まれると面倒なので全員安全な場所まで退避しておいてください」

「わかった、指示を出してくる」

「他に要望とかあったりします?」

「現状とくに思いつかないな」

 万が一、範囲指定エリア・アサインが狂って施工中の人員に大事があれば責任を問われかねない。それ以外での要望は現段階では思いつかなかった。


「伝達までしばらくかかりますので休憩しましょうか」

「そうですね」

「椅子はいりますか?」

「いや、立ったままでいい」

「そうですか。立ったままだと辛いだろう?」

「どうも」

 そういうと腰のあたりについていた袋から折りたたまれた椅子を取り出した。一瞬魔法で生成したのかと思いもしたが木を生成するなど聞いたことがない。


「すごいな、物体収納袋アイテムポーチか」

「なるほど」

「劣化版だけどね。重宝していますよ」

 どうやってやったのか疑問で仕方なかったが、思いのほか納得する答えが後ろから聞こえてくる。


「私はこのバルバとちょっと戯れてきます」

「ケガしても知りませんよ?」

「心配してくれてありがとな」

「っ!お気をつけて....それと、椅子ありがとうございます」

 楽しいことを前に我慢できないような笑みで言われ、思わず顔を逸らしてしまった。ついさっきのことを思い返すと、ラホッスの顔がはっとするほど幼く見えた気がした。


「すごいな。君たちの師匠は」

「ちょっと呆れますがね」

「テンションがおかしいときは頭が痛くなりますよホント」

「「でも面倒見がいい....」」

 まるで示し合わせたように同じ言葉を言ってしまい、驚いて2人は顔を見合わせる。


「....いい師匠なんだな」

「はい!」

「私にはもったいないくらいの良い師匠です」

 メリハリのついたできる上司というのは、ああいう人のことなのだろうかと考える。それと同時に、憎めない性格も多少なりと影響あるだろうが、恵まれた才能が彼の評価に大きく寄与しているように感じた。

 恵まれた才能を内心妬んでしまった自分が嫌になる。勉学の才能があったからこそ、今の地位にいることはわかっているが、それでもなお性格上より優れた人を前にすると自分が小さく感じる。


 傍から見れば、恵まれている人の部類に入っているであろうと思えるのに、それでもなお渇望する欲求が浮かんでは消える。繰り返しているうちに使わせた者が返ってきた。

「目視確認及び伝達完了しました。事前に周知したのがよかったですね」

「万が一、ね。間違いがあってからでは遅いからね」

「ラホッスを呼びますね。いつの間にかあんな遠くにいるし」

「俺が呼ぼうか?」

「いや、もう私が呼んだ。わかったってさ」

「この距離でどうやって伝えたんだ?」

 ガルセルマ棟梁が最近使っていた声拡張(アンプリファイ ワンズ ヴォイス)に比べ随分と洗練されている。人がいないかを見てきてもらった部下には申し訳ないが、報告が右耳から左耳を素通りしてしまう。

 どんな魔法を使ったのか、この2人に聞かずにはいられない。


思念伝達テレパシーだよ」

「聞いたことあるな....」

「便利ですよ~調整すれば使い方は無限大」

「簡単そうに言うが一般人には難しいんだろ?」

「難聴になった高齢の方とかの間で使われるほどなので慣れれば簡単かと」

「多分....改良前は行使までの工程が煩雑だったのでそれかもしれませんね」

「簡略化されたのか?そりゃ初耳だよ」

 ちょっと皮肉めいた言い方であったかと一瞬後悔したが、その返事は意外な答えに目を丸くせざるを得なかった。


「いや~すまないね。楽しくてついつい周りを見るのを忘れていたよ」

「まるで毎日バルバに跨っているのではないかと思うほどの腕前でした」

「いや~さすがに本職の人には敵いませんよ。さて、また後程お会いしましょう」

「よろしく頼みます」

 バルバもラホッスが下りると名残惜しそうに鼻を鳴らす。半日もたっていないにもかかわらず、信頼関係を築いたことに、手綱を預かった者は驚きを隠せない様子。


「行ってくるよ。多層化マルチレイヤード・マジック浮遊フローティングするボード風召喚サモン・ザ・ウィンズ

「「行ってらっしゃいませ」」

「なぁ、あれで移動したほうが早かったんじゃないか?」

「バルバに乗りたがっていましたからね。不快でしたら後で叱っておきますが」

「いや、それはいい。乗りたくなる気持ちはわからなくもない」

「そうですか」

 遠目でもわかってしまうほど、心底楽しそうにバルバと戯れているのを横から口出しするのは、何かとはばかられた。

 女性の魔法士は咎める必要がないことがわかると、安心したのか穏やかな笑みで後姿を見送っていた。


 いや~やっぱり予告通り3月上旬になってしまいました、、、申し訳ないです。

 読んでいただき感謝いたします。ありがとう!!!

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