第395部分 現場で
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バルバを走らせてしばらくするとSMLが走る橋の建設現場に到着する。大勢の人たちが協力して一つのものを作ろうとしている様はまさに壮観であった。
「長いな、何メートルあるんだ?」
「12メートルあります....代表!?」
「そんな高さだったか。女王が住まう城を取り囲む城壁の高さくらいありそうだ」
「いつここに来たんですか?」
目的地に着くや否や、現場で指示を出すガルセルマを見つけ、意地悪く背後から質問を投げかける。
何回も同じ質問がされているのだろうか、面倒くさそうに答えつつ振り返るとそこには現場最高監督の姿。驚くのも無理はない。
「ついさっきだよ。それで、進捗はどうかな?」
「思いのほか順調に進んでいますよ。あとは設置して、整えた土台に固着すれば完了です」
「考えたな、作ってから浮かせて設置するのか」
「幸いなことに石化魔法を行使できる者がいますので」
「強度は?」
「この通り。あっ....3回重ね掛けしています」
「あっ、じゃないだろ。危ないな!」
すぐそばにあった鶴嘴を手に取り、勢いよく振り下ろしてもわかる傷はついていない。ただ、力いっぱい振り下ろした反動で、それが飛んできたことには肝が冷えたようだ。
「でもすごいな。あれだけ思いっきり叩いても欠けないのか」
「もちろんです。欠けないという自信がありましたから。強度は十分でしょう」
「十分だろうな」
「それはそうと、なぜ川上と川下を尖らせるのか?」
「水に手を突っ込んでみたらわかるよ」
「ほう....今度やってみる」
鶴嘴で叩いたところを三度指でなぞってみても欠けているかどうかわからない。形についての疑問は、川か風呂に入ったときに確かめようとひげを触りながら思ったのだった。
「それと、土台は指示通り魔法金属で防錆処理を施した鋼鉄の支持杭を20m打ち込んだ」
「期待通りの仕事だよ」
「それはよかった。ただ、現場監視人を急によこすのはやめてほしいね」
「建材が高価なのだ。そこはご理解いただいたい」
「理解できなくはない。だが前触れもなくよこされると、うちが疑われているのかと周りに勘繰られかねない」
実際にどれほど強固な地盤なのか掘らせてもらったことがあるがゆえに、無事に支持杭を打てたことに喜びを隠せなかった。そんな上機嫌な人物の横でガルセルマ棟梁は声を低くし、明確に非難する。
「....確かに今回の対応は問題があったことを詫びよう。こういう訳であったと周知しようか?」
「噂の具合によるな。対応をとる準備だけでもしておいてもらえるとありがたい」
「わかった。準備しておこう。ただ....そこまで過剰反応されるとは思いもしなかったぞ」
「契約者との信用で成り立っている以上、当然の反応ではないか?侮辱しているのか?」
「いや、すまなかった」
「理解していただき感謝するよ」
一瞬煽られているのかと勘繰りそうになるも、部下に腕を強く握られ抑えることができた。それと同時に冷静な思考で、過剰反応しすぎることによって、逆にやましいことを隠していると疑われかねないと思うのだった。
「....納期まであと8日だが、早く終わりそうだな」
「そうですね、岩盤が続いていないという最悪の事態もなく」
「それにしても相当の重量だろうな。持ち上げられるのか?」
「魔法が使える10人で力を合わせるつもりです」
「大丈夫なのか。急に心配になって来た」
気まずい空気が一瞬流れるも話題を変えるとまた話が弾みだす。目下残すところ、橋脚を設置するだけ。ガルセルマ棟梁の話しぶりもどことなく余裕そうな感じであった。
「理論上持ち上げられる重さであることに加え、長距を離運搬するわけでもないですから」
「俺よりは確実に詳しいんだから任せるよ」
「ありがとうございます。もう少し出始めますので、離れていてくださいね」
「わかった。離れたところから見守っているよ」
「作業を中断してはなれるように指示を出してきてくれ」
「了解です。仲間と協力して呼びかけに行ってきます」
何人もいた作業員はすべて引き上げ、ついさっきまで騒がしかったのが噓のように静まり返っていた。橋脚が立つのを皆、今か今かと緊張した様子で待ちわびていた。
《物体浮遊》
《....おぉ》
横にされていた時でもその大きさに驚いたが、立たせてみるとより迫力が増す。所々で、感嘆の声で先ほどまでの沈黙が破られていた。
「ちょっと失礼。耳だけ塞いでおいてくださいね」
「気にするな。耳?わかった....」
「声拡張、休憩ぃぃぃっ!」
「なるほどな」
ちょっとだけガルセルマ棟梁は皆から離れ、息を吸って魔法を行使しつつ、休憩の呼びかけをする。耳を塞がず近くで聞けば、間違いなく耳が壊れるであろう。
「棟梁!伝えたいことが」
「見事だったぞ。高いゆえによく目立つな」
「横わたっていても大きいのはわかっていたが、立ててみると余計大きく見える」
「見上げるような高さですね」
「それで、伝えたいこととは何だ?」
「棟梁。先ほどの感覚的に次の工程は10人じゃ無謀です」
「....」
「今回は起こすだけだったので、一辺が地面についていたことによって何とかなりましたが次は全体の持ち上げ。はっきり言って不可能かと」
限界突破を使うまでには至らなかったものの、SMPを極限まで使ったことに対する身体の疲労感は凄まじく、切羽詰まった表情で伝える。
「どうするんだ?」
「軽度なSMP欠乏症を発症した仲間もいます。ただ、軽度だったのですぐ回復しましたのでご安心ください」
「そうか....実際やってみないことにはわからないな。使ったポーションについては後で請求してくれ」
「助かります。では私も休憩してきます」
「無理させてすまなかった、今月の給料に多少ではあるが色を付けておこう」
「嬉しいですね。給料日を楽しみにしています」
SMPポーションはそれほど高額ではないものの、支払ってくれるのは非常にありがたい。さらには今月の給料が少しでも多くなることには思わず笑みがこぼれた。
「計画を見直さないとな」
「魔法士に部分的に委任してもらうことは可能なのだろうか?」
「ふむ、国家事業だし王室との折半で依頼可能だよ」
「そんな制度があるのか!それはありがたい。部下の命には代えられない。ぜひ依頼したい」
「明日くらいに見積もりを出しておきます」
頭をわしゃわしゃしても明暗は思いつかない。くるりと振り返り、控え気味に聞くと、いとも簡単に解決する糸口にガルセルマ棟梁の表情が明るくなった。
後日、魔法士により、納期よりも5日間も早く依頼された工事を完了させ、ほかの場所の工事の増員に向かったようだ。
次話は、2月下旬もしくは3月上旬に投稿予定です!よろしくお願いいたします




