8、 9月13日(2日目・深夜)・野生の幼女が夜這いを仕掛けてきた!
そして、その晩きょーこに指摘されたフラグを、速攻で回収することとなるのである。
「‥‥ん?」
ふと、目が覚めた。何か湿ったものが顔に当たっている。不審者が夜這いに来たわけでも、野良猫にぺろぺろされているわけでも、親に見捨てられ路頭に迷っていた幼女が偶然見つけた素敵なお兄さんをぺろぺろしているわけでもない。
ぼんやりとした頭で状況を把握して、その途端にくらうは一気に覚醒する。
「‥‥‥‥雨っ!?」
そう、雨が降ってきていたのだ。屋根も何もない場所で寝ているのだから、くらうは全力で雨にさらされているわけである。慌てて起き上がり、寝袋を畳んで避難する準備を始める。
準備が整った辺りで、雨が止んだ。
「‥‥なんだそりゃ」
「んー‥‥なにしてんだよくらう」
その時になってようやくきょーこも気がついたようだ。眠そうに頭を揺らしながらあくびを漏らして起き上った。
「いや、雨が降ってきて、慌てて片付けたら急に止んだ」
「‥‥だっはは! さっそく天罰が下ったんだよ! こりゃ自業自得だな!」
ばしこーん! ときょーこにでこぴんを喰らわせてから、くらうは再び寝袋を敷いて寝る体勢に入った。時間を見ると午前1時。さすがにキツイものがある。
無理矢理起こされたものの疲れが溜まっていたこともあり、くらうはすぐにもう一度眠りへと落ちていったのだった。
そして、その晩きょーこに指摘されたフラグを、速攻で回収することとなるのである。
「‥‥ん?」
ふと、目が覚めた。何か湿ったものが顔に当たっている。不審者が夜這いに来たわけでも、野良猫にぺろぺろされているわけでも、親に見捨てられ路頭に迷っていた幼女が偶然見つけた素敵なお兄さんのあんなところやこんなところまでぺろぺろして誘っているわけでもない。現実はいつだって無慈悲なものだ。
ぼんやりとした頭で状況を把握して、その途端にくらうは一気に覚醒する。
「‥‥‥‥雨っ!?」
そう、雨が降ってきていたのだ。屋根も何もない場所で寝ているのだから、くらうは全力で雨にさらされているわけである。慌てて起き上がり、寝袋を畳んで避難する準備を始める。
そして今度は、準備が整っても止むことはなかった。
「‥‥げー、マジかー」
時間を確認すると深夜2時半。どう考えても行動するには向かない時間帯である。とはいえここでじっとしているわけにもいかない。
「きょーこ、ちょっと移動するぞ」
「むにゃむにゃ、もう食べられないよ‥‥」
「テンプレートな寝言言ってんじゃねえよ」
寝ぼけているきょーこをポケットに突っ込み、ちゃっかりいつの間にか肩の上に乗ったモアを連れて移動開始。移動とはいっても雨の中前進するわけにもいかず、とりあえず屋根のある場所に行くことが先決だ。
そしてくらうが向かったのは、つい先ほど買い物に立ち寄った業務スーパーの駐輪場である。
屋根がある場所として最初に思い浮かび避難したのはいいが、こんな開放的かつ邪魔になる場所で寝るわけにもいかず、かといってここでこのまま日が昇るのを待つにはあまりに長すぎる。
「参ったな‥‥どうしよう」
無情にも雨は止む様子を見せない。本当に最悪、この場で夜が明けるのを待たざるをえない可能性もある。雨具もあるにはあるが、雨の中暗がりを走るのはあまりに危険すぎる。
「ん‥‥何してんだよくらう。‥‥あ? ここどこだ?」
ようやく目を覚ましたらしいきょーこがもぞもぞとポケットから這い出し、眠たげな目をこすりながらきょろきょろとあたりを見回している。
「いや、また雨が降ってきて、移動もできないし寝る場所もないんだよ」
「あー、よっぽど重い天罰だったんだな。これに懲りたら、今後はカップルを見ても遠くから呪う程度で我慢しろよ」
「くそっ、仕方がないな‥‥」
「ていうかさ、寝る場所ならそこにあるじゃねえか」
「は? どこに」
きょーこが突然そんなことを言い出し、くらうは首を傾げる。
「そこだよ。目の前」
目の前にあるのは、昨晩入った銭湯の敷地。しかしきょーこが示しているのはその敷地の、自転車置き場だった。
「‥‥なるほど」
そこの自転車置き場はここと違って、かなり閉鎖的な造りとなっている。イメージとしては学校の渡り廊下。2階以降の両側が半分閉じているそれに、屋根がついている感じ。
確かに、雨風はしのげるし人目にもつきづらい。しかし飽くまでそこは店の敷地内である。施錠等はされていないが、勝手に入っていいとも思えない。
「悩むのもわかるけどさ、このままここでじっとしてるわけにもいかないでしょ。もし怒られたら、その時は謝ろう!」
自信満々にダメな提案をされ、かといって全否定することもできない。さすがに今ばかりは状況が状況だ。
「‥‥そうだな。怒られるまで、寝させてもらおう」
仕方なく、くらうは広島県福山市にあるスーパー銭湯ゆらら(←宣伝)の敷地を勝手に使わせてもらうことにした。
屋根の下に入って自転車を置き、寝袋を敷いてすぐに寝る準備。
「ふあぁ‥‥ったく、くらうがくだらねえことしたせいで、とんだ災難だな」
「オレのせいかよ」
「あんたのせいだよ」
言い合いもそこそこに、屋根もスペースも確保したくらうは三度眠りへと落ちていくのだった。