第四話
リウリがグラドに接触する前、当然のことながら若いとはいえ公爵家の当主である彼女の身の危険を案じる者は多くいた。
大半の連中はリウリの意思が固いと見るや、グラドの逆鱗に触れて死んだあとの己の利権ばかりを考えていたが、それでも本気で彼女を心配する者は居た訳で、そういった声を彼女はどうやって止めたのか?
公爵家の歴史の中でも抜きん出て優れた少女リウリは、彼女に絶対の忠誠を誓う者たちにこう言った。
「私と私の図書館の護衛を、あのグラドに任せることが出来れば私は自分のために時間が使えるわ。
その結果、殺されたとしても自分の意思で死ぬことになる。
それは全て、私の時間は私ものとして使えるの」
リウリを慕う者たちは常に彼女の側に付いていた。
だからこそ彼女の辛さを――若くして公爵家を継がねばならなかった責任の重さを知っている。
解放されたいと思いつつも、夢を追いたいと思いつつも許されぬ立場。故の諦め。
周りの大人を相手に弱みを見せられない彼女にとって、最初で最後になるかもしれない我儘。
なればこそ、彼女の命を彼女自身のために使ってもらうために誰も止めなかった。
「私には夢があるわ。
その夢を実現させるためにも、彼――グラドが必要なのよ。
誰にも手なずけることの出来なかった人間災厄とも言われる彼がね」
そう言ってリウリはグラドに会いに行った。
教会を内部分裂させ、騎士団を一人で壊滅させた異端者にして無法者。
その一方で大工として国の建築技術を発展させ、冒険者として人間以外の災厄を根絶やしにした英雄。
彼が殺してきた人間は多くいたが、善悪関係なく共通しているのは彼の闘争欲を刺激したということである。
闘争欲を全く持たないリウリは彼にとって不思議な人間だったのだろう。
すぐに挑発と言う形でリウリの誘いに乗った。
リウリはすぐにグラドを探して会いに行き、少し話をした。
「あなた、面白いことが好きなんでしょ?」
「てめーが俺に殺されるよりも俺を楽しませることができるのか?」
「楽しいかどうかはあなたが決めること。
私は私で自分が楽しむためにあなたを誘っているんだけど?」
「俺の狂気を受け入れるとでも? お前ごときが?」
「私は何も受け入れないわ。ただ受け流すだけ。
被害は余所へ、自分は楽しく。そういうもんじゃないの? 人生って」
「それは自分の死も楽しめる奴のセリフだ。
お前は死ぬのが怖くないのか?」
「怖いわね。だからこそ興味も尽きないし、死んでみたいとも思うけど、結局は死にたくないわ。
でもそれ以上にあなたが欲しいの」
「……俺が得るものは何だ?」
「私以外のすべて。自由をあげるってことね」
「自由はすでに満喫しているが?」
「それは『自由』じゃなくて『退屈』でしょ?
私があなたにあげるのは自由。闘争も狂気も他人がいる場所で初めて自由になるもの」
少しこのリウリと言う少女に興味を持ったグラド。
戦うことと同じく、自分の狂気を振りまくのも好きな災厄は、目の前の脆弱な少女を食い物にしようと思った。
「万が一の不幸って言葉があるけどよー、俺を引きいれたところで、てめーの不幸は一万分の九千九百九十九くらいあるんじゃないのか?」
「でもそれに匹敵する一万分の一の幸せが『自由』なのよ。
私は籠の鳥。あなたの不幸で死ぬのならそれはそれで私の意思による死よ。
誰も気にする必要はないもの」
ここに至って、グラドは目の前の少女への興味が闘争よりも楽しいことに気づいた。
言葉で言い表せない感情を闘争や狂気と言う形で振りまいていた彼だが、それを言葉で正面から返してくれる者が面白いのだ。
「つまり俺がお前の下で暴れて国を崩壊させても構わないと?」
「したければどうぞ。私はあなたを側に置くことで国よりも大事な自分の自由を手に入れられる。
貴族にしては自分勝手な考えだけど、私は自分以外は割とどうでもいいのよ」
「……最後に一つ聞くが、その狂気に染まった考えは元々か?」
「ええ、私は昔からこう。
自分が狂っていることを理解しれいてば、真面目な外面なんて幾らでも作れるわ」
それを聞いてグラドは彼女になら側に置かれてやってもいいと思った。
狂気を止めるの不可能だが、狂気が他の狂気と混じれば面白くなる。
その見え方が他人からは大人しく感じるようになるだけで、グラドとリウリは二人一緒にいれば面白くいられるのだ。
こうして誰にも縛れないグラドは自ら縛られることで自由を得て、籠の鳥の少女は自由という名の狂気を得た。
ただ楽しく。しかし狂った考えをその身に秘めて静かに笑うのだった。




