第二話
グラドは生まれつき強かった。
彼の生まれは誰も知らず、孤児として孤児院に捨てられていたのを拾われたところから彼の人生は始まった。
だが彼が3歳になる頃には、10歳以上も年上の少年たちを叩きのめし、孤児院でも孤立していた。
その結果グラドは、わずか5歳のにして孤児院を追いだされることとなった。
強すぎるのもそうだが、彼は子どもなら誰もが持つ純粋な好奇心の全てを他者と争うことに向け、望んで喧嘩をしていたからだろう。
当時の孤児院の関係者は皆、その目は狂気に取りつかれていたと語る者が多い。
そして孤児院を追いだされたグラドは、次に大工の棟梁に養子として迎えられた。
荒くれ者も多いため、最初こそなじむかと思われたが彼はここでも受け入れられなかった。
彼は失敗をしたと思ってはいない。ただ自分の乱暴で粗野な言動ではなく、争いを望むその性格が好かれなかった結果としか認識しなかった。
相手が大人でも平気で喧嘩を売り、容赦なく勝つグラドは大工の棟梁を病院送りにして追い出される。
彼には戦わないという選択肢はなく、楽しんで人を殴っていた自分を、自分自身が褒めていたからだ。
こう何度も問題を起こしたグラドを引き取ろうという変わり者はいないと思われたが、さらに次の引き取り手は意外にもあっさりと決まる。
次の現れたグラドの引き取り手は、冒険者ギルドのマスターだった。
最初、ギルドマスターはグラドのありあまる狂気をただ元気な少年と思い、一人の大人として扱うことにした。
これが失敗だったか成功だったかは定かではないが、少なくともグラドに一人で生きる知識を教えることには大きく役立ったと言えるだろう。
この時まだ6歳のグラドだが、大人扱いされて依頼が受けられるということで、少しは冒険者ギルドに長居することが出来た。
が、それもたったの5年だけ。
結局グラドは、冒険者としても強すぎるために、11歳にして過去に英雄だの勇者だのと言われた人物が苦心して成し遂げた偉業を全て塗り替えた。
別にそれだけなら問題はないが、グラドは強くなると同時にその狂気まで増大させていた。
見かねた周りの大人が止めようにも、彼は慢心が油断を招かないほどに強いのだ。
冒険者ギルドが確認している魔物を全て狩りつくしたグラドは依頼も受けずにギルドで喧嘩をして暮らしていた。
荒くれ者が多い冒険者ギルドでさえ目に余る素行の悪さ。
自分の気を害した相手に容赦がない性格に、ついにギルドからも追放された。
次にグラドが行くこととなったのは教会だった。
彼を知る者は『絶対に馴染めるはずがない』と口をそろえて言ったが、教会側からすればグラドのように腕の立つ子どもを自分たちの組織に引き込めれば後々便利に使えると思ったのだろう。
腕っ節で抑えられないからと言って、頭を使って抑えることも出来ないのがグラドの狂気。
その辺を見誤った教会は、周囲の予想通りグラドを更生することに失敗した。
グラドは教会の人間を総じて馬鹿にし、彼に神の教えを解こうとした神父でさえ彼の狂気に感化されて冒険者になるなどと言いだし、教会は内部分裂を引き起こすこととなった。
グラドにして見れば悪気があるわけではない。
ただ楽しいから。そして教会の人間が馬鹿だと思ったから。ただそれだけの理由で彼は大好きな闘争の芽を教会内にばらまいただけなのだから。
一しきり楽しんだところで、冒険者時代に一人で生きる術を学んでいるグラドは自ら教会をあとにした。
行くあてがあるわけではないが、やることがないのなら自由に生きるだけだ。
教会はグラドが出て行ったあと、何とか纏まりを取り戻したが、その時には彼の蒔いた闘争の芽は育ちに育っていた。
彼の狂喜の影響で死傷者も多く出した闘争の結果、教会を去る高位の聖職者も多かったため、人員的にも金銭的にも被害が大きかった。
こうして教会は勝手に出て行ったグラドを自分たちの方が異端として追放したことにし、国に異端者として手配することにした。
この国で教会を追放された者は神の名の下に騎士団が派遣され処刑されることとなっているのだが……、それが国を傾けるほどの大きな失敗だと悟るのはすぐあとのことだった。
問題となるのはグラドに勝てる騎士は一人もいないということだ。数で攻めようが倒せず、逆にグラドは剣の一振りで何百何千という騎士達を斬り殺した。
そして騎士団が壊滅したことで国の治安は乱れ、各地の農村では盗賊が大手を振って動き出し、教会のみならず、国もすべての原因をグラドに押し付けるがグラドは変わらず血の臭いの中で笑うだけだった。
国の被害も彼もどうしようもなかった。
ただ幸いなことと言っていいのかは分からないが、盗賊の被害に関しては偶然か気まぐれか、グラド自身の手によって壊滅したために騎士団がいない状況としては奇跡的な被害の少なさで収まった。
こうなってはどうしようもなく、国も教会もグラドを災害のように捉え、一切の干渉を禁じるように国中に公布した。
……それから時が過ぎ、教会も騎士団も形が整い、国が再び平穏になろうという時に一人の貴族がグラドに交渉を持ちかけた。
それがただの貴族であれば問題なく王が止めたのだろうが、ただの貴族ではない。
その貴族――王家とも深い繋がりがあり、かつ他の貴族や他国にさえ大きな影響力を持つ公爵家の家督を継ぐ少女。
幼くして公爵家を実力で継ぎ発展させたその少女の名はリウリ。
彼女は二次被害に備えていた他の貴族連中を無視してグラドに近づいて交渉をしたわけだが、何がどうなったのかリウリはグラドを引きこむことに成功した。
さて、何か理由があったのか。それとも単なる気まぐれか。
こうして無法者にして、ただただ強いだけだったグラドに、名目上だが上に立つ人間が出来たのだった。
それが世界で最も無法者に似つかわしくない知識の宝庫『クリューク図書館』にてグラドが働く理由なのだった。




