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テラスでお茶を飲みながら、体調についてたずねた後で、王妃は微笑を浮かべながら言った。
「あなたは療養中だったから知らないかもしれないけれど、最近、王都でつまらない噂が流れているの」
「どのような噂でしょうか?」
「それがね、あなたは体が弱くて、〝豊穣の手〟の能力もリリアナのほうがはるかに上だというの」
クリスティアは何も言えず、うつむくしかなかった。
(わざわざこれをわたしに聞かせたのは、王妃様も同じように思っているということ?)
クリスティアではなく、リリアナのほうが王太子妃にふさわしいと言いたいのだろうか。
「むろん、わたくしはつまらない噂など信じていないわ」
王妃はカップを置いてため息をついた。
「でもね、放っておいてはあなたの名誉に傷がつく。すぐに対処したほうがいいわね」
「対処、ですか」
「できないのであれば、残念だけど、身を引くことも考えたほうがいいわね。国王陛下は辞退などお許しにならないだろうけれど、能力が劣るとなれば話は別よ。それが嫌なら、自身の能力をきちんと証明するしかないわ」
クリスティアは追いつめられたような気持ちになった。
これまで、国王に命じられるまま各地へ赴き、力を使ってきた。
これ以上、何をしろと言うのか。
身も心も疲れ切って、もはや何も考えたくなかった。
王妃のもとを辞し、王宮の廊下をトボトボ歩いていると、向こうから王太子がやってくる。
クリスティアは泣きたくなった。
彼との関係は最悪と言っても過言ではない。
***
クリスティアとリリアナは婚約者候補として、二週間に一度、交代で王太子のお茶会に招かれる。
天気が良ければ、テラスにテーブルが用意され、以前は王妃も同席していたのだが、最近ではふたりきりにされてしまう。
「なんだ、また来たのか。ほんとにずうずうしい。いくらおまえが能力者とはいっても、リリアナとは比べ物にならないのだから、さっさと辞退すればいいのに」
顔を合わせるが早いか、王太子は毎回、侮蔑の言葉を投げつけてくる。
クリスティアはうつむいて、ドレスをぐっとつかみ、涙をこらえた。
許しがなければ座ることもできない。
ずっと立たされたまま、ただ酷い言葉に耐えるしかないのだ。
王太子アーロンは国王と王妃との間に生まれた第一王子で、両親、特に王妃に溺愛されている。
プラチナブロンドに明るい青色の瞳を持つ、華やかな容貌の美しい彼は、令嬢たちの憧れの的だった。
甘やかされたゆえの傲慢さも、王者にふさわしいと許容されている。
何でも望みが叶い、我慢というものを知らずに育ってきた王太子は、まったく好ましいと思えない少女と会わねばならないことに非常なストレスを感じていた。
どんなに嫌がっても、国王は茶会に欠席することを許さない。
今ではストレスの原因である目の前の少女に怒りと、憎しみすら抱いていた。
少女もまた、彼のことが好きではなく、同じように王命で仕方なく来ているということに気づきもしないで。
「おまえは本当に可愛げがないな」
黙ったままのクリスティアを見て、王太子の機嫌はさらに悪くなった。
とにかく謝るなりして取り入る努力をすべきなのだろうが、どうしたら良いのかわからなかった。
家族はクリスティアが何を言っても怒る。それで、口を開かなくなった。
今も同じだ。余計なことを言ったと怒られるのが怖い。それなら、黙って罵られているほうがましだったのだ。
赤い髪に、あざやかな深緑の瞳。目鼻立ちのくっきりとしたクリスティアを、アーロンは最初から気の強い、生意気な女だと決めつけた。
王妃が同席しなくなって四回目のお茶会だが、まだ一度も座らせてもらったことがない。
さんざんクリスティアを罵倒してから、自分だけお茶を飲み、お菓子をつまむ。
ある程度時間が過ぎると、さっさと席を立つ。その繰り返しだ。
誰から聞いていたのかわからないが、リリアナはクリスティアが茶会でどんな目にあっているか知っていたようだ。
クリスティアにはあえて何も聞かず、わざと姉の前で王太子との茶会の様子を楽しげに語ってみせたのだから。
***
通路の脇へよけて頭を下げる。
王太子がこのまま素通りしてくれたらと願ったが、それは叶わなかった。
「おまえの本当の父親は平民なんだろ? どこの馬の骨ともわからない、卑しい男の子供のくせに、よくも私の前に顔を出せたものだな」
今までさまざまな暴言を吐かれたが、出生について蔑まれたのは初めてだった。
思わず顔を上げようとすると、手のひらで上から頭を押さえつけられた。
「俺が知らないとでも思ったか。不実な女でもリリアナの母親だから、あえて言わずにおいてやったのに、おまえは身分もわきまえず、いつまでも図々しく王宮に顔を出す。我慢の限界なんだよ」
クリスティアが妻の不貞でできた子だと、父が噂を広めているのは知っている。
それがついに王太子の耳にも入ったのだ。
しかも、なぜか母の相手が平民だという、さらにひどい尾ひれがついている。
「母は不貞などしておりません。わたしは間違いなくデイル侯爵である父の娘です」
「ふん、よくも言えたものだ。あれほど可愛らしく、優れた人柄であるリリアナと少しも似ていないというのに。やはり父親が違うからだろう」
頭を押さえつけたまま、王太子はクリスティアの耳元でささやいた。
「いいか、これが最後の忠告だ。一日も早く婚約者候補を辞退しろ。でないと、おまえの父が平民であることを公にしてやるからな。わかったら、さっさと出て行け」
そのままドンッと突き飛ばされ、床に倒れ込むクリスティアを見て、王太子はニヤニヤしながら、背を向けて去って行った。




