エピローグ
「おかあさまあー」
陽光を受けて輝く金色の髪をなびかせて、幼子が走ってくる。
「サフィア」
クリスティアは愛しい我が子を抱きしめて頬ずりした。
王都での夜会の後、ユリウスの立太子式に出席したら辺境に帰るつもりだったが、意外なことに辺境伯から、ふたりともそのまま王都に残るよう命じられた。
これからは王都で他の貴族とも交流を図ったほうが良いとの考えからだそうで、ルーファスは雪月水やネイヴェリルの販路を拡大したり、王家から賜った土地の管理をすることになった。
クリスティアは辺境伯と祖父母のすすめもあって王立学院に通い、卒業後にルーファスと結婚した。
それから二年後に生まれた娘は黒い髪でも赤毛でもなく、ヴェルマと同じ色の金髪とルーファスによく似た青い目を持っていた。
(もし、わたしがこの色で生まれていたら、何かが変わっていたかしら)
ふとそんなことを思ってしまった自分に苦笑する。
(皮肉ね。神様の悪戯かしら)
まるで試されているようだと思ったが、自分を愛さなかった母と同じ色をしているからといって、厭う気持ちなど微塵もない。
この子は自分の子であると同時にルーファスの子でもある。愛する人との間に生まれた大事な宝物だ。
ルーファスも子どもがこんなに可愛いとは思わなかったとしみじみ言いながら、娘を溺愛している。
「あのね、雪月草の花が咲いたの」
王家から拝領した土地は痩せていたが、クリスティアが〝豊穣の手〟を使い、さらに肥料を与えて耕していくうちにだんだんと豊かな土壌へと変化していった。
今では幾種類もの薬草を大量に収穫できるまでになっている。少しずつではあるが、雪月草も植えている。
「それでね、おとうさまもモリスもいるから、おかあさまを呼びにきたの」
「そう」
モリスも結婚し、一女の父となっている。クリスティアも驚いたのだが、相手はルーファスの妹であるシャーロットだった。
辺境伯とルーファスだけが知っていたことだが、モリスはとある伯爵家の三男だった。魔法師になることを反対されて実家とは絶縁状態だったが、籍は抜かれていなかったので貴族のままだという。
ルーファスによれば、シャーロットが熱望し、彼女に甘いモリスが折れたというが、本人たちが否定しなかったから、多分そうなのだろう。
クリスティアたちは今でも王都にいるが、彼は家族と辺境で暮らし、時折この薬草園を見に来てくれる。
レーヴェ領はクリスティアにとってもいずれ帰るべき場所だが、辺境伯は健在だし、モリス夫妻が守ってくれているので心強い。
「よし、じゃあ、行きましょうか」
クリスティアはサフィアとしっかり手をつないで歩き出した。
誰からも愛されないと思っていた自分が、二度目の人生で思いがけず、祖父母やルーファスから惜しみない愛情を注いでもらった。だからこそわかる。受け取った愛がその人にとって最高の守護になるのだと。
ずっとこの手を離さずに愛していく。
それがクリスティアにとって愛しい人を守る方法なのだ。
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