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二度も断罪されましたが死に戻りましたので、今度は愛する人を守ってみせます  作者: 今尾曜
第一章 過去

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3

 生まれた時から、クリスティアの境遇はけっして恵まれたものではなかった。


 衣食住に不自由はなかったものの、両親からの愛情を受けることができなかったからだ。


 両親は濃淡の差はあれ、ともに金髪に青い目の持ち主だ。


 ところが、クリスティアだけは、落ち着いた深い色の赤い髪に、エメラルドのように鮮やかでありながら濃い緑色の瞳をしていた。


 緑の瞳なら父方の祖母に似たとも言えたが、赤毛は両親の家系にはひとりも見られない。


 はるかにさかのぼればいたかもしれないが、先祖返りだと好意的に受け止められることはなかった。


 猜疑心の強い、狭量な父親のせいで。


 政略結婚で結ばれた両親の間に愛情はなかったと聞いている。


 侯爵家のひとり娘だった母ヴァルマに、伯爵家の次男だった父オスカーが婿入りをして爵位を継いだ。


 オスカーは妻に恋人がいるのではないかと疑ったが、娘を溺愛している先代侯爵の手前、そのようなことを口にするわけにもいかず、ひそかに調べさせた。


 その結果、他の男の影などないと報告されたが、どうにも信じ切れなかったようだし、自分に少しも似たところのない娘をかわいいとも思えなかったのだろう。


 後継となる男児でもないから、名付けも妻にさせ、まったく関心を示さなかった。


 ヴァルマは当然、夫に疑われていることを感じていたが、面と向かって聞かれたわけでもないのに身の潔白を訴えるわけにもいかず、悶々としていた。


 力の限りを尽くして産んだ娘だ。かわいくないわけがない。


 けんめいに世話をしたが、夫に冷たい目で見られ続けることに疲れてしまい、乳母に任せきりになってしまった。


 そんな有り様で関係は良好ではなかったが、跡取りとなる男子が欲しいと夫婦は願い、二年後に再び妻は妊娠した。


 願い叶わず生まれたのは女の子だったが、今度は父親そっくりの蜂蜜色の髪と、晴れ渡った空のような青い瞳をした娘だった。


 オスカーは喜び、長女に向けることのなかった愛情をすべて、新しく生まれたこの赤子に与えた。


 ヴァルマも今度は受け入れられたことがうれしくて、リリアナと名付けられた次女に夢中になった。


 肉体的に虐待を受けたわけではない。


 だが、クリスティアはただ義務として世話をされ、誕生日も形式的に祝われるだけ。


 部屋に置かれたプレゼントは母に言われて執事が用意したもので、欲しいものは何かと聞かれたこともない。


 食卓にケーキが並び、侍従が黙々と切り分ける。

 誰もクリスティアにおめでとうと言ってくれないので、何のお祝いかもわかっていない妹が、特別なケーキを見てはしゃぎ、おいしそうに頬張る。


 その様子を愛しげに見つめる両親。


 ふたりの目にはクリスティアの姿など映らない。


 心がえぐられたように痛み、うつむいて必死に涙をこらえた。


 いっそ誕生日などなくなってしまえばいいと思った。


 お祝いなどしてほしくないと思ったが、父の機嫌を損ねるのがこわくて、何も言えない。


 唯一、母方の祖父母だけは、クリスティアを気に掛けてくれた。


 夏になると、ひと月ほど領地で祖父母と過ごす。その日々だけが心の支えだった。



     *



 デイル侯爵家には何代かにひとり、〝豊穣の手〟と呼ばれる能力者が生まれる。


 植物を丈夫にし、病を防いだり、生育を早めたりできる能力で、その力を使えばけっして領地が凶作に見舞われることはないと言われている。


 侯爵家の長女として生を受けたクリスティアに〝豊穣の手〟の能力が発現したのは、七歳の夏、祖父母の館に滞在していた時だった。


 いきなり高熱が出て、両手が金色に光ったのを見て、侯爵家の歴史書を読み込んでいた祖父は、これが〝目覚め〟だと確信したという。


 熱が下がると金色の光もおさまったが、願いをこめて両手をかざすと、植物の生長が早まる。


 何度も試すうちに、広範囲の植物に対して力を使えるようになった。



 〝豊穣の手〟の持ち主が三代ぶりにあらわれたとあって、祖父母をはじめ、一族の喜びようはたいへんなものだった。


 〝豊穣の手〟は領地を豊かにするとされ、その力を持つ者は王家と縁づくことが約束されていたからだ。


 だが、能力に目覚めたところで、父である侯爵の態度は変わらなかった。


 〝豊穣の手〟はヴァルマの血筋に宿る能力であって、それが発現したからといって、自分の子である証明にはならないからだ。


 特別な力を得たのが溺愛するリリアナではなく、クリスティアだというのが気に入らなかったようだが、打算的な侯爵はすぐに思考を切り替え、自らの利益のために動いた。


 王家に報告し、調査の結果、クリスティアが能力者と認定され、王太子の婚約者候補となると、さすがの侯爵も喜んだ。ずっと目障りだった者が、ようやく役に立ってくれたからだ。


 正式な婚約は社交界デビューをしてからと決まった。


 ところが、二年後、リリアナが同じ能力に目覚めたことで、その喜びはすべて消え失せた。


「こうなるとわかっていれば、クリスティアのことなど王家に報告しなかったものを。早まるべきではなかった」


 今まで〝豊穣の手〟の能力者は当代にひとりしかあらわれなかった。


 まさかリリアナも目覚めるとは思わず、急いで王家に報告したのが裏目に出たのだ。


 オスカーが机を叩いてくやしがるのを、クリスティアは震えながら見ていることしかできなかった。


 リリアナは同年代の令嬢の中でも一、二を争う美少女だと言われており、クリスティアが婚約者候補となる前は何度も王宮でのお茶会に呼ばれていた。


 オスカーとしては今からでもリリアナが婚約者となれるように仕向けたかったが、クリスティアをかわいがっている先代侯爵の目もあって難しい。

 爵位を継いだとはいえ、いまだ侯爵家の実権を握っているのは引退したはずの先代なのだ。


 だが、彼はあきらめなかった。


 王家に対してすぐさまリリアナを売り込みはじめたのだ。


 それからはクリスティアだけでなく、リリアナも王宮で妃教育を受けるようになり、王妃や王太子とのお茶の時間にもふたりそろって呼ばれた。


 王妃も王太子も、おとなしく控えめなクリスティアよりも、華やかな美貌で性格も明るいリリアナを気に入っているようだった。


 さすがに王妃はあからさまに態度に出すようなことはなかったが、王太子からは冷たく当たられ、クリスティアは王宮へ行くのがつらくてたまらなかった。


 何度も父に婚約者の候補を辞退したいと訴えたが、国王から許可が出ないと苦々しげに言われた。


 どうやら国王はどちらを婚約者にするかはっきり決めないことで、〝豊穣の手〟の持ち主であるふたりを囲い込み、少しでも長く王家の意のままに動かそうとしたようだ。


 ようやくリリアナが正式に婚約者と決められたのは、クリスティアが十五歳になり社交界デビューをする直前だった。


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