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二度も断罪されましたが死に戻りましたので、今度は愛する人を守ってみせます  作者: 今尾曜
第一章 過去

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 初めからどうにもならない恋だった。


 無実の罪を着せられ、すべてを奪われ、罪人として送られた辺境の地で、心からあの人を愛した。


 叶わぬ思いと知っていたから、胸の奥底に封じ込めていた。


 なのに、暴かれ、利用され、踏みにじられた。


 そして、今ふたたび、ありもしない罪で裁かれようとしている。


     *


「クリスティア、己の罪を認め、すべてを白状するのだ」 


 王太子が中央の玉座の上から冷たいまなざしで見下ろしている。


 両隣には母である王妃と、王太子妃リリアナが座り、一段低いところに宰相であるキリング公爵と中央神殿の大神官が控える。


 リリアナはクリスティアの実の妹だが、日頃から姉を蔑み、疎んでいた。

 今も嘲るような笑みを浮かべ、こちらを見ている。


(まさか、ここまでするなんて……)


 後ろ手に縛られ、床にひざまずかされたクリスティアは、悔しさのあまり唇をかんだ。


 病床に伏す国王に代わり、現在は王太子が政務を執っている。だが、彼はしょせんお飾りに過ぎず、実権を握っているのは王妃と宰相だ。


 彼らもまた、クリスティアに冷たいまなざしを向けている。


「わたしは罪など犯していません」


「ほう、この期に及んで、まだ罪を認めぬと?」


 宰相が目を細め、口元に冷笑を浮かべる。


「レーヴェ辺境伯夫人である第一王女カミラ様に、おまえが毒を盛ったことはとうに調べがついている。幸いにもカミラ様はご無事だったが、侍女が犠牲となった。おまえが作った強壮薬を飲んだのだぞ。言い逃れなどできまい」


「確かに水薬を作ってお渡ししましたが、毒など入れてはおりません」


 王女直々に頼まれ、強壮薬を作ったのは事実だ。だが、原料は香草だけだし、飲み合わせに注意が必要な物は何も入れていない。ましてや毒など入れるはずもない。


 取り調べの兵士に聞いても、どのような毒が使用されたのか、教えてもらえなかった。


 毎日の習慣で、決まった時間になると侍女が王女の居間へお茶を運ぶ。


 強壮薬を渡したその日、王女はクリスティアの指示通りお茶に水薬を入れて飲もうとしたが、侍女の顔色が悪いのに気づき、代わりに飲むよう勧めたらしい。


 お茶を飲んだ侍女はその場で倒れ、一度も目覚めぬまま、翌朝には息を引き取ったという。


「ならば、誰が毒を入れたと? おまえから薬を受け取り、王女様のお部屋にお持ちしたのはその侍女だ。もし、自分で毒を仕込んだのなら、その薬を入れたお茶を飲むわけがないだろう」


「それは…」


 クリスティアが口ごもった時、謁見の間の扉が開き、濃紺の軍服に黒いマントを羽織った長身の男が入ってきた。


「来たか」


 宰相がつぶやく。


「どうして?」


 振り向いたクリスティアは彼の姿を認め、言葉を失った。


 ルーファス・フィラ・レーヴェ辺境伯。


 浅黒い肌に漆黒の髪。


 深い海の底のように濃い青色の瞳をクリスティアに向けた彼は、自身が苦痛を受けたように顔を歪めた。


「我が娘を危険な目に遭わせておきながら、よくもわたくしの前に顔を出せたものだ。しかも、そなたは犯人であるこの女とずいぶん懇意にしていたそうだな」


 挨拶を述べようとするルーファスをさえぎり、これまで無言だった王妃がはじめて口を開く。


 そう、彼は第一王女カミラの夫である。だが、クリスティアにとっては最愛の人だ。


(なぜ、ここに来てしまったの? いま領地を離れたら、どんな疑いをかけられるかわからないというのに…)


 政略的な理由から王女を嫁がせたとはいえ、王妃はもともとルーファスを良く思っていない。


 隣国との国境に位置するレーヴェ伯がいつか反旗を翻すのではないかと疑い、王宮から騎士を派遣し、つねに監視をさせているほどだ。


「おそれながら、王妃様。今回の件に関しましては、まだ調査が終わっておりません。我が領内で起きました事ゆえ、どうか私にお任せください」


 片膝をつき、頭を下げて礼を執るルーファスに、王妃は冷ややかな怒りのこもったまなざしを向けた。


「調査だと? これ以上、何を調べると言うのだ。この女のことはすでにカミラとリリアナから聞いている。王太子妃の座を狙ったが果たせず、今度は辺境伯夫人になろうとそなたを誘惑したのだろう? ああ、そういうことか」


 王妃は納得したように大きくうなずいた。


「そなたはすでに堕ちていたか。それゆえ、命を狙われ傷ついている我が娘を置き去りにし、わざわざこの女を助けるために王都まで来たのだな。愛妾などカミラが許すわけがない。邪魔になって殺そうとしたのだろうが、まさか、今回のことはそなたが命じたわけではあるまいな?」


 王妃の鋭いまなざしを、ルーファスは堂々と正面から受け止めた。


「誓ってそのようなことはございません。クリスティア嬢は妹の病を治してくれました。恩人である彼女が無実の罪で苦しむのを見ていられないのです」


「そなたはこの女が潔白だと申すのか?」


「お茶を運んできた侍女は、部屋に入ってきた時から明らかに顔色が悪かったそうです。王女様に薬を入れた茶を飲むよう言われた時も、ひどく青ざめ、震えていたと。おそらく薬の中に何が入っていたのか知っていたのでしょう」


「毒が入っていると知りながら、飲むはずがないであろう」


「王女様に言われれば、断れないでしょう。それに、ひとくち飲んだだけで死ぬことになるとは思わなかったのかもしれません。おそらく侍女は自分が入れた毒についてよく知ってはおらず、言われた通りにしただけなのでは? 誰か逆らえない相手に命じられて」


 深い青の双眸が、鋭く王妃を見つめる。


「カミラを邪魔に思う者が、この女の他にいると?」


 王妃の口元に微笑が浮かんだ。


「それならば、真っ先に疑われるのはそなただと思わぬか、ルーファス。いまだに妻を〝王女様〟と呼び、白い結婚を貫くなど、王家を侮るにも程がある。その女が無実だと言うなら、やはりすべてはそなたが企んだことだな、レーヴェ辺境伯」


(なんて強引なの。どうしてもルーファス様を巻き込みたいのね。初めからこれが狙いだったの?)


 クリスティアの背筋に冷たいものが走った。


 王妃とリリアナにとって邪魔な存在である自分が、罠にはめられたのだと思っていた。


 だが、王妃はクリスティアを利用して、ルーファスを陥れようとしている。


「妻を亡き者とし、その女を後添えにとでも考えたか? 王家との縁を軽んじるとは、反逆の意思ありと疑われても仕方がないな?」


 挑発するような王妃の言葉にも、ルーファスはまったく表情を変えない。


「そのようなことは考えたこともございません。先ほども申しましたが、クリスティア嬢は妹の命の恩人です。ですから、彼女の無実を信じます。きちんと調査をして、濡れ衣を晴らしたいのです」


「もう良い」


 王妃がいらだったように声を荒げた。


「これほどまでに罪が明らかな者をかばうとはな。やはり共謀していたのだろう」


(ああ、このまま無理やり話を終わらせ、わたしだけでなくルーファス様も罪に問うおつもりなのだわ。だから、他の貴族たちを呼んでいないのね。この場ですべて終わらせようとしている……)


 そんなことはさせない。


 クリスティアは覚悟を決めた。


「違います、辺境伯様はなんの関係もありません。すべてわたしひとりでやったことです」


「ご令嬢、何を言うのだ!?」


 ずっと冷静だったルーファスが、初めて顔色を変えて叫んだ。


「辺境伯様、信頼していただいたのに裏切ってしまい、申し訳ありません。わたしが一方的にお慕いし、妻になりたいという大それた望みを抱いたせいです」


「違う、そうじゃない」


 ルーファスがうめくような声をあげる。


(どうかあなたは苦しまないで)


 クリスティアは祈った。


 ルーファスを愛する心を暴き立て、侮蔑の言葉を投げてくるカミラを憎んでいた。


 毒など盛ってはいないが、消えてくれたらと願ったのは事実なのだから。


「お姉様っ、なんて酷いことを。あなたはおそろしい人だわ」


 狙いすましたようにリリアナが叫び、両手で顔を覆うと、わっと泣き出した。


 妹はつねにクリスティアを貶めようとする。


 ここでもまた、声高に姉の非を叫び、見事な泣きの演技を披露してみせたのだ。


 心の底から怒りがこみ上げてくる。


 これほどまでに偽りを重ねて、どうして許されるのか。


 目の前の汚い人間たちの思い通りになることが、たまらなく悔しい。


(それでも、ルーファス様だけは助けたい)


 だが、その願いさえも、無残に打ち砕かれることになる。

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