第44神 七不思議4番目『願いを叶えてくれる鳥居』ー願いの先に─
────アルバートは、蓮、朝梨、桃梛を抱えて鏡とイネの元まで向かった。
「やあ、鏡の七不思議。悪いけど君を倒すはずだったヒーローたちはみんな疲れてしまって寝てるんだ」
目の前でぐったりとしている鏡は人の形を型取ろうとして失敗しているだけの黒い塊が膝をついて、今もなおバチバチと火雷の黒い稲妻を背負って当たり続けている。
悪いね、と全く悪びれた様子もないアルバートは三人を下ろす。
すぐさま出てきた神様たちを横目に、アルバートは自分が割と信頼されていることに笑ってしまう。
「悪魔を信頼するのは本当に良くないと思うんだぞ」
『あなたは何もしませんからね、良くも悪くも』
美夜の言葉にあえて何も返さない。
当然だ、俺は楽しい方に転ぶんだから。
守護者を倒したって自分にその厄介ごとが回ってくるだけだ。
面倒なことはごめんだよ。
鏡に近づく。
鏡は反射的に斬撃をアルバートに飛ばしてくる。
カンッ!
玉が刀で弾き返す。
「…おっと、まだ攻撃できる元気はあるんだね」
『私の雷でも頑張り続けちゃうなんて…』
火雷はそう言って、鏡に向かって片手を翳した。
くいっ、と上に引っ張るような動きをする。
バチバチバチ
雷の音が増え、鏡が地に伏せる。
「…容赦ないね。まぁ良いか」
「ここから俺もそろそろ出たいと思ってるんだ。だから君にこれをあげるよ」
番人の身体から落ちてきた本を渡す。
「これは、君の物語だ。思い出すといい、鏡に連れて行かれた君の物語を」
弱っている鏡の身体に沈み込ませる。ずるりと、異物を入れられた鏡は一度固まる。
「君は、誰かを閉じ込めたんじゃない。閉じ込められた側だったんだろう?」
人型をしている鏡の胸の真ん中にあるであろうカケラを引き摺り出す。
無抵抗となった鏡はカケラを取られても唖然とアルバートを見上げている。
手元に持ってきたカケラを片手に握り潰す。
「それじゃあまたね鏡さん」
パキン──
次の瞬間には、ポタポタと黒い涙を流す。
──あれ、こんなところに鏡なんてあったっけ?
──鏡の七不思議が…
──手をついたらダメなんだよ
──私、いやっ!
"そうだ、そうだ!なんで手なんかついたんだ!"
"おれは、わたしが、手なんてついたから!"
叫ぶ声帯なんてないはずの鏡が悲鳴を上げ、頭を抱える。
"おれの、きおく、おれは、わたしは、ぼくは!!!"
"──────おれは、誰だったんだ……?"
パリン
音がして、人の形をした鏡が割れる。
散らばる。
『──鏡の七不思議は、どういう奴だったんだ?』
「鏡に映った人間は黒い手の影に連れ去られて二度と戻ってこれないのさ」
「たとえ逃げ切れても、鏡のカケラが現実だけじゃなくて、夢に現れて度々連れ去ろうとする、異空間移動型なのさ」
『中に入ったら終い…か』
「そういうこと。まあ鏡に捕まったら帰れなくなるってだけの即死ゲーだよ」
『…そくしげー?』
風伯の疑問には相変わらず答えずに割れた鏡の破片を見て、ソッと拾う。
「…鏡に閉じ込められた人の記憶、ねえ…」
「残酷な話だね」
ほんの少しだけ目を細めたアルバートは、もはやただの鏡となってしまったそのカケラに映る自分の顔に一度目を瞑り鏡のカケラを投げた。
『ラスボスなのに呆気ないがやね』
「元々火雷と蓮がほとんど壊したしね。というか、火雷と風伯身体は大丈夫なのかい」
『…うん、大丈夫。ありがとうアルバート』
『ここを出るまでならな』
「ふーん」
『それで?鏡を壊したから帰れるんですか?』
「いいや?これは『七不思議』という物語、だよ」
美夜の言葉にアルバートが答えると、納得したような声を上げた。
『そうなんですね。じゃあ最後の子まで行かないといけませんね』
「根本である鏡はもちろん壊さないとダメなんだけど…」
鳥居の前にいるので鳥居を見ると黒い狐が1匹、そこで一部始終を見ていた。
アルバートはイネを見る。
「イネ。最後は君だよ」
"手荒いやつやな…鏡にもっと優しゅうしたってや"
「知らないよ、そういうのは守護者がやるものさ」
"…はぁ、うちの鈴は?もっとんやろ"
「桃梛がね。美夜」
『どうぞ、イネさん』
"いつもおおきに。ひとまず、マガツヒに汚染された、七不思議も満たされたさかい、この世界は閉じれる。ほんまにおおきになぁ"
にっこりと笑ったイネの首に美夜が鈴をつける。
首につけた鈴に記憶が蘇る。
──ああ、そうだ。
イネには、大切な神様がいた。
消えてしまった西城学園を守る神の、神使だった。
『神様、うちなー、みんな守りたいねん』
静かに頷く神様はイネの頭を優しく撫でた。イネはそれだけで満足していた。
神は消えた。
神の力はイネに受け継がれ、『願いを叶える鳥居』となった。
イネは目を伏せ、静かに息を吐く。
膨大な記憶を一気に見たから、少し疲れたのもあった。
溢れる涙をそのままにアルバートたちを見上げれば、アルバートはそんなイネの涙を拭くでもなく、ただ見下ろす。
「今までどうしてたんだい?」
"桃梛が1人で倒そうと色々やっとったわ。時間制限があるさかい、なかなか最後までは行けんくて…"
イネの言葉に補足するように美夜が返す。
『鏡の時にいつも途中で帰っていたんです』
"途中で帰るとリセットされてまう、せやからなかなか終わらんかった。
そのループが今、閉じれる"
「ふーん…」
イネはアルバートにカケラを差し出す。
「thank you、壊しちゃうよ?」
"かまへん"
パキッと音が鳴る。
パンッと破裂するようにカケラが割れる。
パラパラと粉が落ちていくのを眺め終えたアルバートはイネを見る。
「じゃあ、最後は願いをなんでも叶えてくれるイネに願おうかな」
"鈴ももろたしなんでもええで"
ニッコリと笑ったイネに笑い返す。
「ゲームクリアだろう?ゴールまで連れてってよ、神様」
イネは一つ頷く。
"その願い、賜った"
リンッと鈴が鳴る。
彼女が飛んで、空中でくるりと回る。
そうして、アルバート達を元の世界に飛ばした。
黒い狐は白になり、コン、と鳴いた。
そこに残るのは小さな社と鈴。
そうして少しずつ、狐の像にヒビが入る。
けれど、その像はどこか嬉しそうに世界の崩壊と共に崩れていった。
次から七不思議の断片が覗けます。
いろんな角度から楽しめるかと思います!
ぜひお時間あるときに覗いてみてください。




