収穫祭
あまりの驚きに手の物が落ちる。
「何言って…」
「その手紙に書いてある通りだよ、俺はそこに行く」
アレクはぼくの手から落ちた手紙を拾い上げ言う。
「多分、親父はまだ俺にこの手紙が来たことを知らないんだろうな…、もうしばらくしたら戻るって伝えといてくれ」
アレクが何か言っている間てやっと、ぼくはアレクの言っていたことを飲み込めた。
「いつ」
ぼくの口からは絞り出したか細い声しか出なかった。
一度呼吸を整えてもう一度言う。
「いつ、行くんだ?」
「2日後、収穫祭が終わった次の朝早く」
想像よりも早く、笑ってしまう。
「早いな」
「今日じゃなければいつでも良いって書いてあったからな、そうした」
「そうしたって、どうやって相手に伝えたんだ?ここから王都までかなりかかるだろ」
ぼくの質問にアレクは手紙の中身を見せて言う。
「なんかこの紙に書けば分かるんだとよ。魔術なんだろうけど凄いよな」
「なるほどな…」
何か、何か自分自身に違和感がある。
「なあ、ノル」
「何?」
「いや、何でもねぇ。やっぱり俺も戻るわ。行こうぜ!」
そう言うとアレクは走っていく。
ぼくも遅れて走る。
その後の事はよく覚えていない。
多分何処かの出店の手伝いをして帰ったのだと思う。
気がついたらベッドの中で、天井を見つめていた。
明日は収穫祭だ。
一年に一度しかない村の祭り事だと言うのに。
ぼくは意識を手放した。
「ノル!」
直ぐ隣でぼくを呼ぶ声がして目を覚ます。
人と音楽と声で溢れた広場にぼくはいた。
「さっきからずっとボーッとしてるけど、そんなに楽しみで眠れなかったの?」
隣を見るとニーナがいた。
そうだ、ぼくは収穫祭をニーナと回っていたんだった。
「ごめん、あそこの出店が美味しそうで」
適当に人が集まっている出店を指差し言う。
「確かに美味しそうね…行きましょ」
ぼくの手を引っ張ってニーナは歩く。
ぼくはそれに任せ歩く。
「美味しいわねー、ってノル?食べないの?」
気がついたらぼくとニーナは広場の中心の方に置かれたテーブルで串焼きの肉とサラダを食べていた。
「食べるよ…うん、美味しい」
「なんか今日様子がおかしいわよ?アレクも見ないし…昨日は喧嘩でもした?」
「いや、喧嘩なんて」
ぼくはその先の言葉が言えず詰まってしまう。
そんな様子のぼくをニーナは不思議そうに見つめる。
「そう?なら良いんだけど、そう言えば向こうに…」
周りが見えなくなる。
ぼくは何がしたいんだろうか。
そういえば昨日からそんなことをずっと考えている。
昨日はあの森で、アレクに何か言おうした。
でも、何を言いたかったのか、わからない。
ぼくは何でさっきのニーナの言葉で詰まったんだろう。
ぼくはアレクと喧嘩なんてしていない。
していないんだ。
「ねぇ、ニーナ」
ぼくは下を向いてニーナに問う。
「どうかした?」
「もしさ、アレクともう二度と会えないかも知れなくて、それを知ったのが会えなくなる直前で、でも会えなくなる理由はアレクにとって良い理由だったら…ごめんやっぱ」
なんでもない、そう言う前にニーナはぼくに串をビシッと向けて言う。
「取り敢えず一発殴るわ」
ハッとニーナの顔を見ると彼女はどこか誇らしげに笑っていた。
「それが本当かどうか知らないけど、私たちに何の相談もなくそんなことを決めたんなら、一回怒りなさいよ。ノル」
ぼくは立ち上がり森の方を向く。
確信はないがどうせアレクはそこにいる。
「ありがとうニーナ、一発殴ってくるよ」
「私の分もだから二発ね」
ぼくはその言葉に笑う。
彼女も笑いながら手を振っていた。
村中の人で溢れた広場の間を縫って走り抜ける。
走りながら足に魔力を流す。
全力で森に走る。
「アレーク!」
「よう、ノル」




