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東方訪問記  作者: 明鏡止水
姜芽編
38/64

8-4 謁見

次のエリアもまた、一本道だった。

正面の壁に、満月が描かれた大きな絵が掛けられている。

途中で何か出てくるかと思われたが、今回は特にそのような事はなかった。


その後、同じようにワープして、少し進んで絵に飛び込んで…をしばらく繰り返した。

そしてもはや何回目か忘れた頃、ワープ先に変化があった。


絵から飛び出すと、程よい広さの部屋に出た。

そしてそこには…


輝夜が後ろを向いて佇んでいた。


「輝夜!」


「こんなに早くくるなんて。まあ、ある意味ではありがたいのだけどね」


「どういう意味だ?」


「私はね、あなた達に最後の忠告と提案をするためにここで待ってたのよ。…あなた達は特別よ。下界の連中どころか、私に勝るとも劣らない、優秀な才を秘めている。そんな逸材を、みすみす見殺しにしてしまうのは惜しい。そこで、一度だけチャンスをあげる。どうせあなた達がどう足掻こうと、何も変わらない。ここで引き返すのなら、あなた達は殺さない。そして、私が世界の統治者となった暁には、私に準ずる特別な階級を与えてあげる。

と共に人形どもを見下ろし、世界の頂点に鎮座する存在になる事を認めてあげるわ。…どう?悪い話じゃないでしょ?」


「そんなものに興味はない。俺たちはお前を止めるために来た、それだけだ」

姜芽は斧を、龍神は刀を、それぞれ構えた。

「…そう。残念ね」

輝夜はそう呟き、振り向いた。



その刹那、姜芽は振り下ろされた一太刀を受け止めていた。

しかし、少しずつ押される。

「見かけの割にずいぶんと力がおありのようで…」


「これもまた、薬のなし得る力。私に力の薬がある限り、私が負ける事はない…」

このままでは埒が明かない。

そこで…

「[ブレイヴレイク]…!」

姜芽は剣を一気に押し返しつつ、瞬間的に闘気を纏って体当たり…ならぬドロップキックをかました。


吹っ飛ばされて輝夜が無防備となった隙を狙い、

「[刹那突き]」

龍神が飛び込んで脇腹を突く。

輝夜は壁を蹴ってぐるんと一回転し、着地した。

「やるじゃない…?けどね…」

喋りながら猛スピードで突っ込んできた。

「言ったでしょ?あなた達には、どう足掻いても私を殺す事は出来ない」


「確かに、前のお前ならそうだっただろうな…だが、いまは特性を捨ててるんだろう?なら殺れるさ、余裕でな」

刀を刀で受け止め、龍神は言う。

「随分大口叩くのね。面白いじゃない、やってみなさいよ」

そう言って、龍神を蹴り飛ばした。


(こりゃ、能力が全体的に上がってるな…さっさと仕留めよう)


再び斬りかかる。

「姜芽!」

呼び掛けに呼応し、姜芽が別方面から斬りかかった。

すると輝夜は、姜芽を蹴りではね除けつつ龍神を斬った。

「…そんな器用な事ができるとは。腕を上げたな」


「…その言い方。やっぱり、過去の私を知ってるのね。いつ、どこで知ったのか気になるわね…教えてもらいましょうか!」

輝夜は刀を突きだし、飛び込んできた。

「おっと」

体をよじり、輝夜を捕まえて小脇にかかえ、頭から床に叩きつけた。

「ぐあっ…!」

輝夜は悲鳴をあげたが、すぐに立ち直った。

「へえ…お前たちは、本気で私をやるつもりなのね…なら私も安心して全力を出せる!」

刀を正面に構え、動きを止めた。


龍神はカウンターの構えと判断し、攻撃をやめた。

姜芽も察し、盾を構えて防御の構えをとる。


…姜芽は違った!

「[ガードフレーム]」

盾から猛烈な炎を噴き出した。


炎は輝夜を包み込んだ…が、すぐに立ち消えてしまった。

「嘘だろ!?」


「…甘いわね」

輝夜はここで構えをとき、一気に払い抜けた。

姜芽、龍神ともに血を流し倒れた。


「…立ちなさい」

輝夜は呟く。

「立ち上がりなさい!この程度では死なないはず。ほら、立ってきなさいよ!」


「へえ…わかってるじゃんか」

その通りだ。

この程度で死ぬほど、やわではない。


「人間なら、今ので死んでただろうけど…あなた達、少なくとも人間ではないわね?まあ、誰であろうと殺すだけだけど」


「お、お前もやる気なんだな?」


「当然でしょ。私かあなた達が死ぬまで終わらない。この部屋はそういう仕組みなんだから」

これは、どちらかが倒れるまで扉は開かないということだろう。

「それに、私はあなた達との戦いが楽しい。薬をまいた時の山を見たときほどじゃないけど、なかなかいい暇潰しになってるのよ?けど、こんなものじゃまだまだ足りない。もっともっと楽しませて頂戴!」


「乗り気でいいじゃねえか…ようし姜芽、やるぞ!」


「おお…!!」


それから、二人は戦いながら色々試した。

様々なタイミング、やり方で攻撃を仕掛けた。

いずれも効いてはいるようだったが、輝夜は倒れなかった。


長い戦いで、二人は疲労が溜まっていた。

そして…



輝夜の一閃。それが止めとなった。



「…」

溶けかけた雪だるまのように、崩れ落ちるように、静かに二人は倒れた。

「…立ちなさい」

声をかけるが、反応がない。

二人の体からはもはや血も流れていなかった。

「流石に終わりみたいね。妹紅ともども、今までで一番優秀な玩具だったかもね。さて…」

輝夜は振り向き、ドアの方を見た。


…開いていない。

ドアが、開いていない。

全てを察し振り向く…



「!!!」

強烈な一撃を顔にくらい、輝夜は倒れた。






輝夜を一撃で殴り飛ばしたのは姜芽。

「…ど…どう…して…?」


予想外のことでとっさに反応できなかったが、すぐに立ち上がる。

…しかし、まともに立っていられない。

(うう…!)

足がおぼつかず、すぐに倒れてしまった。


ただ顔を殴られただけで立てなくなるなんて。

私は、一体何をされたの?

「思った通りだ」

目眩のするなか、姜芽の声が聞こえる。

「人間と同じ体になったんなら、肉体の強度も人間と同じだよなあ?」

そうか。

輝夜は姜芽の発言の意味を理解した。

こいつ…「今の」私の弱点に気づいた…!


「…それがどうした!状況は何も変わらない!」


「いいや、違うね。現に、俺たちは回復してる」


「…!」

そう言えば、今の二人の体には傷一つついていない。

あれだけ傷を負わせたはずなのに。

「有効打はわかった。反撃といこうぜ」

龍神は刀を納めた。

「おのれ…!」

輝夜は必死に立ち上がり、妖しく光る紫の瞳孔の中央に二人を捉えた。

そして、凄まじい速さで姜芽に斬りかかった。


「…!?」

姜芽は片手で輝夜の一太刀を受け止め、間髪入れずアッパーを打ち込んだ。

さらに、吹っ飛ばされて倒れた所に龍神が追撃とばかりに飛びかかってそのまま馬乗りになり、顔を何度も殴りつけた。


「…!…!」

やがて、輝夜は龍神を突き飛ばした。

そして立ち上がって龍神を睨み付け、

「もう手加減はしない。まずはお前から…地獄に落としてくれる!!」

と怒鳴り、再び攻撃しようとした。


「奥義 [螺旋火車]」

無数の小さな炎が現れ、輝夜を包むように渦巻く。

消されるかと思われたがそうはいかなかった。

「っ…!これは…!」


「特別製の炎だ。そう簡単には消せないぜ」


「…小癪な真似を…!お前たち二人、仲良く殺してやる…!」


「やってみろよ」

姜芽はそう言って、身動きがとれない輝夜の懐に飛び込み…

「[業火拳]」

炎の魔力を込めて拳を打ち込む、扱える中で最強の火属性の体術。

人間がまともに食らえば間違いなく即死するだろうが、果たしてこいつにはどうだろうか…

「…っっ!!」

拳を打ち込んだ刹那、輝夜の全身が燃え上がった。

そして、輝夜は倒れ…

消滅した。





『蓬莱人』

未だ謎の多い種族。

妖怪とも魔法使いとも異なる強靭な肉体と能力を有し、数万から数億の年月を生きるとされる。

「月の都」なる場所に住んでいる、不老不死であるなどといった逸話もあるが真偽は定かではない。

よく似た「月人」という種族が存在することが確認されているが、明確な違いは不明。


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