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1.0 必然の偶然

「いらっしゃい、今日は何にする?」


「じゃあ...パフェにしようかな。」


「了解。外の席空いてるけどそっちにする?」


「じゃあそうする。」


今日も彼女は来た。前にアスタリア・リーベルと名乗っていた。仕事を明かしてもらったことはないのだが、相当な地位の剣士である噂をよく耳にする。本人の口から聞いたことはないが、必ず月、水、金に来て、たまに土日に来る。安価で美味しいものを目指しているのは確かだが、その頻度で来るには金が結構かかる。ある程度収入があり、ここに来る余裕もあると考えると良い役職であるのはわかっていた。


「はいどうぞ。ごゆっくり〜」


彼女は遠くを見てなにか考え事をしているみたいだった。いつも通り、目の前に座る。


「今日はどうしたのさ。」


「いや、えーっと...あんまり言えないこと。」


「そっか。」


悩み事があり、相談したがっている。でも言えない。彼女はやはり剣士なのだろう。国家機密なのか、それとも何かしらの事情があるのかはわからないが。


「うーん...やっぱり相談したほうが良いのかな。」


「どっちでもいいさ。どうせ、この時間は君しか来ないからね。」


「仕事に出る前となると、朝早くなる。」


「この時間にわざわざ店を開けてるんだからそんなことわかってるさ。客がいるなら喜んで店を開けるのが僕の性なんでね。」


まだ日が出始めた頃。この時間に来るお客はほとんどなく、それ故に少しぐらいサボっていても問題はなし。


自分の分のコーヒーを入れ、彼女の前に再び座る。


「あのね、またテロ?ってやつが起きてて。」


「あぁ、噂のね。」


それから彼女の愚痴を聞いた。


この国はいつになっても治安が悪い。ザーシェル王国、三方を異種族に囲まれ、時々物騒な事件が起きたり...。そんな土地だ。事件は日常茶飯事。


「今回は目星はついたのかい?」


「巷で何かと噂の魔王軍ってやつだよ。街にも人に扮して現れるらしいし...怖いなぁ。」


「困ったもんだねぇ。」


コーヒを飲みながら、街へと目をやる。少し高台に位置したこの店からは街がよく見える。俺が大好きな街で———あいつが愛す『故郷(ふるさと)』でもある。


「ごちそうさま。美味しかった。」


「それはよかった。お代はまた金曜日で」


「うん。いつもありがと。」


以前客の一人に言ったら驚かれたのだが、彼女からは金曜日にまとめてお代をもらうことにしている。


朝に来る時にお金をもってくるのがめんどくさい、という彼女の提案に従った形だ。実際いつも来てくれているし、それなりに信頼しているのだ。常連にもほとんどそういうことはせず、彼女だけが特別だ。


「じゃあ、いってらっしゃい。」


「行ってきます。」


水曜の朝、彼女はいつも通り店を出ていった。今日も戦いに追われているのだろうか...なんて考えているが、正直剣士であってほしくはない。自分の店の常連で、家族のような存在が命を賭けて戦っている。明日から来ないかもしれないという不安を抱えて店を続けるのは少し嫌なのだ。




水曜、木曜と店は通常通り営業していた。この店の利益はいつもギリギリ黒字。通常の値段で商売していれば利益ガッポリなのだが、限界まで安くしているのもあって利益はちょっぴり。だが、それでいい。この街で暮らすことができて、自分で使える金があって、常連と仲良く話ができる。金では得られない幸せがたしかにそこにあった。




金曜の朝、いつも通り朝早く店を開くが...誰も来ない。


いや、この時間は誰も来ないのが正しいのか。朝早いし、寝ている人が多い時間帯だ。だが...。


「アスタが来ないな。」


来ない。いつの間にか日が昇り、辺りが明るくなる。だが、来ない。


お客が増えて店もまぁまぁ混む時間帯になっているが、来ない。


「店主さん、常連の女の子、今日来た?」


「朝早くくる子か?」


「そうそう。なんか怪我して治療中なんだってさ。」


「本当か?!」


驚いて思わず声が出る。常連の彼を驚かせたかもしれないが、俺も驚いている———なんてバカなことを考えている限り、俺はまだ冷静なのかもしれない。


「どこにいるとか、わかるか?」


「いや〜さすがにそこまではわからんねぇ。だけど、気になるなら今日でも聞いておくよ。」


「頼む。あの子がいなきゃこの店の営業時間が短くなる!」


「それは困るな。」


営業時間が短くなったところで、彼女以外には影響しないが。まぁ黙っておこう。




次の日、彼に病院の場所を教えてもらった。街を出て、王都へと向かわなければならない。と言っても、店自体も王都と少し離れただけの街なので、往復で半日もかからないくらいか。すぐに準備を整え、店の前には張り紙をしておいた。


『常連の子のお見舞いで、今日はお休みします。』


常連の人達には悪いが、どの常連さんも等しく大切なのだ。ゆえに、行ってこよう。


「王都に行くのか?」


「あぁ、納品にな。」


「乗せてくれ。」


商人の馬車に乗り、王都を目指す。


朝早い街は人がポツポツといる。店は開店準備を進め、まだ明かりがついている場所もあるくらいの時間だ。つくころには日も昇ってあたりも賑わうだろう。街では馬車が走り、商人や旅人たちを支えている。。王都はあまり行ったことがない場所だから、少し迷ってしまいそうだが、それも含めて、朝早く出発したのだ。


2時間ほど馬車に揺られているとあたりの様子は代わり始めた。王都付近になり、人の流れに騎士や剣士がいるのがよくわかる。王都周辺はやはり警戒態勢が緩まないのだろう。これも全部、王都を襲撃したあの事件からだろう。


「兄ちゃん!俺はそろそろ到着だ!」


「ありがとう、あとは自分で行くよ。」


「兄ちゃんこそ、こんな朝早い時間に大変だろ!がんばってな!」


気前の良い商人だ。やはり我が街は偉大。


さて、彼女がいる病院へと向かおう。着いた場所は王都の西側。彼女の病院は王都の南側だ。王都中央には王城と主要な施設があるので、反時計回りで行くのが一番いい。歩くか。


2時間もしないうちに、あたりは人で賑わい、時々人の流れに押し潰されそうになりながら歩く。あっという間に南側へつき、彼女の病院の前へとやってきた。


「ここか...。」


中に入り、彼女の名前を出すと部屋まで案内してくれた。扉を開けると、一昨日と同じ。遠くを見てなにか考え事をしている彼女がいた。


「失礼するよ、どうも。」


「て、店主さん!?と、とりあえずいらっしゃい?」


「今日は俺がいらっしゃいって言われる側か...なんか不思議な気分だな。」


彼女に話を聞くと、どうやら一昨日の噂の対処中に油断して怪我をしたそうだ。左足は骨折、治るまで2ヶ月とちょっと。たいていの治癒魔法はかすり傷などにしか聞かないため、大人しく入院するしかないそう。


「そうだったんだ...家にはしばらく帰らないの?」


「帰りたいんだけど...一人じゃ大変だし...。本当はお店に行って美味しいもの食べていたいんだけどね。」


「アスタって魔法使えたよね?」


「うん、だいたいは使えるよ。」


「じゃあ、うちに来なよ!今人手が足りなくって。」


アスタにはお店にいてほしいと思っている自分がいる。あいつを思い出すから、あの頃の幸せを思い出せるからだ。それに、彼女の幸せそうな表情はこちらの栄養になる。店もいつもワンオペだから最近人を雇おうか迷っていたところだったし。


「でも私骨折してるよ...?あまり役に立てないんじゃないかなぁ...。」


「ある程度治ってからでいいよ。治ってすぐ仕事には戻れないでしょ?仕事に戻れるまでうちでゆっくりしていきなよ」


彼女は少し考えて、『うん』と一言。


そうして、彼女を連れ帰ることに無事成功。帰り道はまた馬車で。自力で歩けないため少し大変だが、家へとつけば後は簡単。手先だけは器用なんだ。


店の隣にある家へと彼女を連れ、部屋を用意。即席で動く椅子を作り、彼女をその椅子に座らせる。これがあれば魔力を消費するだけで自由に行き来ができる。


「よし、準備は完了。あとは治すだけ!」


「ありがと...でもいいの?迷惑じゃない?」


「迷惑じゃない!少なくとも最終的には利益のほうが大きいから!」


「じゃあ最初は迷惑ってことじゃん...ふふっ。いじわる。」


「いじわるとは失礼な!優しい店主様だぞ!」


そんな会話は2ヶ月ほど続いた。この頃にはある程度怪我が治り、自力で歩けるようになっていた。しかしまだ仕事には復帰できない。やはり剣士という役職は動き、敵を討つ。そういう仕事だ。過度な運動を前提とすることに、足は耐えきれない。あと2ヶ月ほど療養し、長時間走っても問題ないくらいに回復するまでは仕事を休むそうだ。


今まで誰かの分も埋めていた努力が、人一倍平和のために動いたその勇気が。彼女にはそんな強さを周りに認めさせたことによって長い休暇が用意された。彼女の上司いわく『必要になったら呼ぶからそれまでゆっくり休んでおけ!』だそうだ。一応ここの場所を教えてあるので、一大事になれば彼女を迎えに誰かしら来ることだろう。


「今日は何にする?」


「トースト。自分で作るよ。」


「じゃあ、俺の分もついでにお願い。」


「はーい」


いつも通りの朝、魔法の扱い方も覚え料理の腕も一人前だ。こりゃ、2号店も視野に入れなきゃな...。なんて、そんなわけあるか。


俺もトーストを彼女に頼み、2人分のトーストを作ってテーブルへ。外の席でゆっくり朝ごはんを...と行きたいところだが、あいにくこの家にはない。大人しくテーブルで飯を食え。


「そういえば...聞きたかったことがあるんだけど。」


「なんだい?」


「今まで気づかなかった。カウンターの裏に剣が置いてあるの。」


「あぁ、あれか。あれは思い出だからね。」


「店主さんってそういう仕事してないと思ってた。剣を持ってるってことは剣士ってことだよね?」


「あの剣は大切な家族から貰ったものでね。大事にするって約束してるんだ。まぁ、使う機会はないけど。」


そう。大事な剣だ。あいつからのプレゼントであり、形見でもある。


「そっか。今度少しだけ見ても良い?」


「あぁ。もちろん。」





それから3ヶ月、思ったより遅い復帰だったが、まぁ普通どおり行けばこんなもんだろう。彼女はいつもどおりの生活へと戻り、今日も朝早くから出ていった。天気は少し悪めだが、雨はふらないだろう。


昼過ぎ。昼ごはんを食べに来たお客さんも皆帰り、少し片付ける余裕ができた。皿を水魔法で洗い、風魔法で乾かす。毎日毎時間こんなことをやっていて魔力切れになりそうだが、案外使用量が少ないのか魔力切れになったことはない。


「店主さ〜ん」


「今日は早いお帰りだね。」


「ちょっと困ったことになっちゃって...。早めに夜ご飯。」


あれから、彼女はよくこの店に入り浸っている。


懐かしい———おっと、今のはなし。とにかく、彼女の話を聞いてみることにする。


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