最強勇者の退屈
「全く、退屈だ。」
両手剣を片手でもち、地に横たわり、血にまみれた翼龍の上に立つ、その男は強かった。
「よっと。これで、龍族も殲滅。脆い……脆すぎる……古来から最強と言われていた種族もこんなにも簡単に……つまらない。」
銀髪で容姿端麗、眉目秀麗という言葉がが似合うのこの男は、幼少期より父に強くなることだけを求められていた。また、彼もそれに応え続けるように生きて来ていた。
名は[シークハート・バナー]
数年前、ひとりで魔王を討伐したことにより、一時期は勇者と崇められた。しかし、あまりの強さにより、その後、巷では怪物と呼ばれ忌み嫌われていた。
シークハート・バナーは誰もいないはずの場所に話しかける。
「……あぁ、そうだな。お前の言う通り、禁忌秘術の[精神存在転生]でまた数百年後に目覚めるとするか。」
[精神存在転生]は、魂のみを残し、体を全て一から作り直し、転生する方法である。また、記憶に関しては、魂に直接、書き移す。
その為、魂が新しく作られた体に適正拒否を起こした場合、魂を永久に失うことから、禁忌秘術とされているのだ。
一連の流れを想像し、ふぅ、と息をついた。そして
「転移」
右手を前につきだし、そう唱えると同時にバナーの体を白い光の粒がつつみその場から姿を消した。
数秒後に屋敷の前にバナーは光の粒と共に現われる。
「カルル。来い」
屋敷に向かい一声掛けると、中からさっと音もたてずに目の前に立った。
「お帰りなさいませ。バナー様。お食事の準備は出来ております。」
そう、膝をつき頭を垂れるながら言うのは、カルル・ベルベット、純黒の髪、華奢な容姿に誰もが一度は必ず振り向くのではないかと、思わせるほどの美しさがある。
彼女は魔王の娘でありながら、俺の屋敷に住まう、自分を慕う現メイドだ。勿論だが、経緯と事情を話せば長くなるがな。
俺は屋敷に入りながら喋る、
「食事はいい。俺はこれから[精神存在転生]をする。今の装備品などはとっておいてくれ。数百年後にまた会おう」
カルルは何も言わずにそのまま立ち、一礼をして、さっと屋敷へ戻った。
屋敷の入り口すぐ側にある自室へと入った。着ている装備品を脱ぎ、一冊の本とチョークを取り出し、魔方陣を手早く描いた。さらに、そこに幾つかの装飾品、そして棺桶を用意し、中へ入る。そうして中で目を閉じると意識が体と分離するのを感じ、深く眠りについた。
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