欺瞞の芳香
「慈善活動ですね」
紫苑が遮るように答えた。
「月城家も同じ計画に関わっております。ホームレス支援プロジェクトの一環として定期的に行っているのです」
西園寺葵の目が大きく見開かれる。
「知っていらしたんですね」
「もちろんです」
紫苑が微笑む。
「ですが皆さんだけでは危険なこともありますでしょう。わたくしも同行することにしました」
執事の光圀が静かに全員分のティーカップを配置する。
淡い琥珀色の液体が揺れるたびにバニラの甘い香りが鼻腔を擽った。
「そんな……」
ヨシオが呻く。
「だったら最初から言ってくれたら……」
「春野さん」
北条綾乃が毅然とした声で割り込む。
「私たちこそ謝罪すべきでした。善意のつもりでしたが……結果的に月城家の行動を阻害してしまいました」
「違うわ!」
西園寺葵が叫ぶ。
「私は個人的な……」
「結構です」
紫苑が再び遮る。
「どちらにせよ目的は同じでしょう?」
光圀がカトラリーを配膳する音だけが響く。
桃タルトの周りにナイフとフォークが整列していく様は軍隊式訓練のようだ。
「ではお召し上がりください」
紫苑が勧める。
「まずは皆さんの分を」
一口食べると完熟桃の芳醇な香りが鼻に抜ける。
桃のみずみずしい果肉とタルトのしっとり感が堪らない。
次に紅茶をすするとふんわり香るバニラフレーバーとえぐみが一切ない茶葉の奥深い甘み。限定品だけあって間違いなく絶品だ。




