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そんなつもりじゃなかったんだけどね、と親友は言う。

「そんなつもりじゃなかったんだけどね! そんなつもりじゃあ……!」

「へー」


 アタシ、明神小春は、目の前で頬に両手を当てていやいやと真っ赤な顔で照れている親友を見る。ただ、見る。ただ、それだけ。


 わざとらしい黒色の髪をぶんぶんしてるせいでひかりの髪の匂いがふわっと香る。いい匂い。だけど……。


「あれ? ひかり? シャンプー変えた?」

「ううん、違うの。ヘアオイルをね、変えたの。や、八雲君がすっごい照れてたやつに、えへへ~……」


 うぜえ。我が親友ながらとってもウザい。最近、ひかりは本当に甘ったるい。たとえるなら、善哉にイチゴ大福と雪見大福をぶちこんでチョコフォンデュをぶっかけている。あまあまのあまだ。


「ん、どした? なんでこんなにひかりがえっちな声漏らしてんの?」

「えっちじゃない!」


 真っ赤な顔で否定するひかり。いや、声はえっちだった。それは間違いない。輝咲の言う通り。早速アタシのじゃが〇こを一本咥える。なので、輝咲のパイの〇とトレード。


「ひかりがね、小谷がすきだって」

「今更? 流石えっちな女だね。恋愛が遅れてやってくる」


 輝咲が笑う。それな、ガチで。


「ひかりはえっちじゃないよ」


 いつもの真っ黒い缶を持って参戦してきたのは陽真理。おい、アタシのじゃが〇こ食うなら、なんかよこせ、と思ったら陽真理の髪色より赤い謎の外国のお菓子出してきやがった。え? これ、大丈夫そ?

アタシがその不吉なお菓子を嗅いでる隙にひかりが陽真理に対して身を乗り出して頷く。


「だ、だよね。わたし、えっちじゃないよね?」

「うん、ひかりはどすけべ」

「どすけべじゃあないけどお!」


 なるほど、その手があったか。確かに、ひかりはどすけべかもしれない。自分の声のデカさに慌てて小谷の方を見るひかり。そして、次に自分の胸を見る。そして、アタシたちを見回して、


「や、八雲君は、どすけべな方が、す、すきかな?」

「「「……はあ~」」」


 ため息がシンクロする。ガチで脳が溶けてる。まさか、あのひかりがこんな風になるとは、アタシも、輝咲も、陽真理も、みんな思わなかっただろう。


 ひかりは、めっちゃ明るくて元気な子だったけど、なんか壁のある子だった。

 積極的に話しかけてくるし、人の話もめっちゃ頷いてくれるいい子。なのに、なんかふとした瞬間にみんなの顔色を窺ってる感じだった。恋愛したいって言う割には結構男子にビビってるから、アタシ達でまもらなきゃってナイトしてたし。


 でも、そのピュアな感じとか毎回全力な感じが面白くて、アタシはひかりが大好きだった。輝咲も陽真理もそうだと思う。


 そんなピュアひかりが。


「や、八雲君が、ど、どすけべになれというのならぁあ……!」

「やめとけ」


 アタシのチョップがひかりの脳天に炸裂。流石に今の激やばどすけべ顔は小谷には見せられん。色んな意味でひかりがラインを越えるようになってしまった。


 あの事件があった時は本当にへこんだ。


 雨野が色々やってたのは知ってて、やりあってたし、ひかりのことも分かってるつもりだった。だけど、アタシ達の思ってる以上にひかりは追い詰められてた。だから、学校の屋上に上がった。その話を聞いたときには本当に本当に泣きそうだった。


 そして、ひかりが学校に来た時にどうしたらいいか分からなかった。

 ひかりが髪を真っ黒に染めてやってきた。

 顔は、今までのずっと笑ってた顔が嘘みたいに俯いててめっちゃ不幸顔で。


 そうなってしまってるひかりに最初会った時、何も言えなかった。

 そのあと何を話しかけてもひかりは、


『うん、大丈夫』

『わたしのことは気にしないで』

『それより小谷君が……』


 って感じだった。何度話しかけてもひかりが遠かった。

 輝咲や陽真理とめっちゃ作戦会議したけど何もうまくいかなくて、かなり泣いた。


 でも、変な話だけど、ひかりが小谷のことでブチぎれた時にほんとのひかりを見た気がした。

 そして、小谷が復帰してからのひかりはヤバかった。


 なんでも小谷の為にやり始めて、小谷になんかしようもんなら睨みつけて、小谷が喜んだら小さくうっすらにやあーって笑ってて。傷ついてるとか罪悪感はガチだったんだろうけど、ひかりがすごいいきいきしてる気がした。


 楽しそうだった。そして、かわいい。


 今の涙目上目遣いで頭を押さえてるひかりもかわいいし、なんか距離が近い感じがしてドキドキする。


「いたいよぉ……」

「今の超どすけべ顔を小谷クンに見られたらヤバいかもって小春の配慮だよ」


 輝咲のナイスフォロー。流石、輝咲。仕事の出来る女だ。生徒会副会長のオンナだけあるわ。


「いや、でも、さっきの超どすけべ顔見せたら、小谷っちみたいなのはイチコロなんじゃない?」


 引っ搔き回す陽真理。相変わらずのやりとり。だけど、なんか進化してる気がする。その原因はきっと。


「どどどどどっちにすればいいの? わたしは、どっちを選べば、や、八雲君に……!」


 目がグルグルしてそうなひかりが両手に何か持ってて見比べている。ウケる。きっと、どっちでもいい。小谷ならどっちのひかりも好きだと思う。だから、


「おーい、小谷」

「こ、小春!?」


 中原となんかわけわかんないポーズとってた小谷がアタシの声に反応してこっちに来る。中原はなんかアメリカンな感じで小谷に行ってこいってポーズしてる。なんだアイツ。


 戸惑いながらやってくる小谷。ひかりをちょっと見ると、なんか照れてる。一方のひかりもいきなり前髪とか整えだして、小谷をちょっと見ると照れてる。なんだお前ら。

 まあいい、親友の恋路を助けてあげるのも親友の務めだろう。


「小谷、ひかりから聞きたいことあるってー」

「ええええええっ!? わたしが、や、小谷君に!?」


 アタシが振るとひかりが真っ赤な顔でパニくり始める。聞けばいいのに、清楚とどすけべどっちが好きって。まあ、聞けないから面白いんだけど。ていうか、さっきまで八雲君って呼んでたのに小谷君になおしてる。呼べばいいのに。

 オロオロ、キョロキョロと見回すひかり。素っぽいひかり。かわいい。

 そして、はっと気づいて手に取り小谷に差し出したのは、


「こ、これ、食べる?」


 陽真理の激赤スナック。


「あ」

「あ」

「あ」

「あ、ああ……じゃあ、い、一個もらうわ」


 小谷もその赤さにちょっとビビったみたいだけど、ひかりの前だから泣き言が言えないとおもったのだろう。かっこつけて手に取ってぽいと放り込む。そして……悶絶し始めた。


「んんんんんんんんんんんんんん!?」


 全身で辛さを表現して転がりまわる小谷。ウケる。


「あはははははははは! こ、小谷、さいこー!」

「ふ、ふふ……小谷クン、流石に、床は汚っ……ぶ、ぶふう!」

「小谷っち、身体があつくなっちゃうでしょ……ふ、ふふ、はははは!」


 小谷は本当に最高だ。リアクションいいし、ひかりを笑顔にしてくれたし、だけど、


「ねえ……こ、小谷君、泣いてるじゃない。なに笑ってるの……?」


 圧をかけてくるひかり。いや、あんたが食わせたんでしょうが。小谷もツッコもうとしてるけど唇が腫れてうまく喋れてない。


「あ、ふぁさか……こ、こへめっひゃからひ……」

「そ、そうだよね……あ、小谷君! 飲み物、さっき買ってたでしょ!」


 ひかりが慌てて小谷を席に連れていく。そういえばさっきの休み時間二人で買いに行ってたな。めっちゃ夫婦やん。


「もう付き合えばいいのに」


 アタシがそう言うと輝咲がポニーテールを結びなおしながらつぶやく。


「いや、私はもう少しこのジレジレを見たい派かな」

「あたしは一人くらいライバルキャラが現れて嫉妬するひかりが見たいかも~」


 どろどろ大好き陽真理。だけど、ひかりに対してはエグイ展開は希望してないみたい。そりゃそうだよね。ひかりには幸せになってほしい。それはガチで三人の共通。

 だから、どんな形であれ、アタシ達は小谷とひかりをくっつける。


「ぷはあ……ああ、まだからひ~……」

「や、こ、小谷君! これもよかったら……!」

「い、いや、でも、それ、あさかのだし……か、間接……」

「あ……」


 激辛喰った時より、茶化された時より赤くなる二人。


「「「はあ~」」」


 ため息がそろう。

 多分しばらくはこのままだ。


「「「はよもっとしあわせになれ」」」


 そんなつもりじゃなかったとしても、今めっちゃ幸せそうな親友を見て、アタシ達親友は顔を見合わせて笑った。

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あっめぇ~…劇毒ぶちこんで、嫉妬する朝霞さんが見たぁい…幸せにはなれ!
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