第十九話 後編
「白狼って……あの白狼ですか?」
父から告げられた内容は、到底理解に苦しむものだった。父上も冗談混じりで親友を殺すような嘘を言わない人だ。しかも、それは白狼ときた。何度も読み漁ったあの英雄譚。勇者一行が苦労の末突破したとされる白狼。団長が亡くなった事実も受け入れ難いのに、同等もしくはそれ以上の衝撃でもある。
「突然のことでびっくりしちゃうかもしれないけど、全部本当なんだよね。念の為エクス君にも見せてあげるけど、これ」
シャーロット公は服の内ポケットから布に包まれた何かを取り出した。その中身はやはり、彼の家紋が刻まれたペンダントだった。細部まで緻密に彫られた金具の隙間に赤黒くこびりついている。きっと団長だったものだろう。
「本当に……亡くなられてしまったんですね」
「近いうちに訓練学校でも話があるだろう。もう一度言うが、この話は箝口令を引いている。誰にも話すなよ」
「はい。わかっております」
「ごめんね、重い話しちゃってさ。本当は楽しい話したいんだけどね、状況が状況なんだ。国も対応に追われてるし、全て任せるわけにもいかない」
「そうですね……」
ペンダントが何よりの証拠であることもわかっているが、それでも死を受け入れることはできない。
「エクス、お前は今後どうしたいか、この休暇の間にゆっくり考えてくれ。まだ、お前には時間はある」
「ち……父上はどうするのですか?」
「ルークが死んだ今、戦力を増やすべきとして彼に代わる軍の教官が必要になった。俺はシルヴァと共に教官となり、軍に従事することが決定している。しばらくの間、ここを離れることになるだろう」
「そしたらアルは、アルはどうするんですか?休暇が終わってしまうとこのままでは一人に……」
「う〜ん、そこまで心配しなくて良いと思うよ、エクス君。気持ちはわかるけど、日頃からランバートと話すことはないでしょ?うちの娘がそうだしさぁ……」
「それにうちには収集な執事がいる。任せても問題ないだろう」
「しかし……」
「このまま順調に行けば訓練学校を卒業し、所属する師団を選ぶことになるのだ。今は自分のことだけを考えろ、エクス」
「……はい」
父上に強く諭される。エクスも父上の伝えたいことをしっかりと受け止めているが、それでもやはり、アルヴァのことが気がかりなようだった。
「そうだ、エクス君。少し聞きたいことあるんだけど」
「なんでしょうか、シャーロット公」
さっきの食事でも言ったけど、そこまで畏まらなくていいよ、と前置きした上で、「ルークに少しだけ剣を教えてもらったんでしょ?」と聞いてきた。理由を尋ねると、どうやら親友である団長がこれから騎士団に入る若い新兵たちにどのようなことを教えているのか興味があるようだった。
「そうですね、第一に叩き込まれたのは……」
と言いかけた時、窓から激しい光と爆発音が聞こえた。衝撃は空気を伝い、この窓だけでなく屋敷までも揺れさせた。
「……じ、地震?」
捕まるようなものもなくおどおどした様子を見せるエクスに対して大人二人は静かに窓へ近づく。
「いや、これは……あれだな」
「威風堂々だね」
突発的な揺れが落ち着いた頃、下にいるアルヴァ達を覗き、そう呟いた。
「それって……もしかして」
「うん、俺たちの家系魔法だよ。すごいね、まさかエリナが使うなんて」
「そうだな……うん?」
「あれ、今、僕なんて……?」
家系魔法が発動しただけだと、理由がわかったことでさっきの話を続けようと元の位置に戻った。しかし何かに引っかかったのか、シャーロット公と父上は互いに顔を見つめる。数秒間の硬直から我に帰った二人は慌ながらもう一度覗いて一言、こう叫んだ。
「威風堂々だって?!」
「威風堂々だと?!」
父上らがなぜそこまで家系魔法に反応しているのかさっぱりだった。第一、覗いてみようにも、窓を占拠しているため近づくことができない。彼らの慌てふためいた姿から何が起きたのかを想像したいがそんな暇もなさそうだ。
「エクス、先に二人の元へ行くんだ!」
「何があったのですか?」
「説明は後でする、だから早く!」
「え、あ……は、はい!」
父上がここまで焦っている姿は滅多に見ない。依然として、ことの重大さが今ひとつ理解できていないエクスだったが、飛ぶようにアルヴァらのいる庭園へ駆け出した。
作者の瑠璃です。
まずは読んでくださりありがとうございます。
この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。魔族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!




