1547年(天文16年)1月中旬、武田家、北条家の婚約成立!
祝賀行事の2日目に流鏑馬、通し矢の演武が始まります。その行事の最中に松千代が心優しい北条家の姫様と出会います。
二人の出会いが武田家と北条家を結ぶ縁に繋がります。
1547年(天文16年)1月中旬
武蔵国守護府の祝の宴は全ての同盟大名家の当主と宿老が揃い、交流を深める良い機会になりました。
翌1月16日の午後から流鏑馬、通し矢の競技が行われ、立花家と同盟大名家の兵士達が技を競いました。この日の競技には立花家から多くの女性兵士が参加する事になり、女性兵士の技術の高さと華やかな軍装が御祝い行事に華を添えました。
競技が終わると流鏑馬、通し矢にて優秀な成績を収めた勇者10名ずつが選ばれ、その中に流鏑馬で3名、通し矢でも3名の女性兵士が表彰されて盛り上がりました。
夕刻からは昨日と同様の席の配置にて2日目の宴が始まりました。
この日の献立は豆腐と青菜の和え物、マグロ、ブリ、マダイの刺身盛り合わせ、山菜の天麩羅、軍鶏の唐揚げ、鹿肉の角煮、伊勢海老の茶碗蒸し、伊勢海老とアサリ、ハマグリの海鮮炊き込みご飯、伊勢海老の味噌汁、食後の甘味に梨の焼酎漬け、卵焼きのモンブラン等が用意されていました。
宴席には前日と同じく名産地から日本酒、焼酎が集められて招待客に振る舞われ、美食と銘酒の和やかな宴会になりました。
武田晴信が立花義秀に疑問を投げ掛けます。
「立花殿、女性兵士達を実戦に使うのは難しいでしょう?」
「立花家は昨年の上洛に際して女性兵士達を連れて参ったが、浅香山の宿営地の攻防戦、古渡城の攻防戦では敵方に弓矢の雨を浴びせて大いに役立ちましたぞ!
白兵戦では男に敵わなくとも、弓矢ならば対等以上に戦える事が証明済みでござる。
使い処を選べば十分に戦力になりましょうぞ!」
「使い処ですか?!…」
「最近の事になりますが、大軍が出征した後の立花家の領内には男性兵士に混じり、女性の騎兵部隊が各地に配備されて治安維持の任務に投入されています。
流鏑馬や通し矢の腕前は男性兵士に劣らず、彼女らの技で敵方を実戦で制圧する能力を保持しております」
「武田家では武家の女性に薙刀を習わせますが、女性に弓矢を習わせた事は皆無に等しく、驚くばかりにございます!」
「うむ、立花家の領内では武家や農民、町衆も身分に違わず、護身の為に手軽に学べる弓矢を奨励しておってなぁ、子供の頃から遊びながら覚えて、野盗、野伏、害獣対策に役立てているから、自然に女性兵士の志願者が増えて採用する事になったのじゃ」
「なるほど、甲斐国では身分だとか男女の習い事などに古い考えを持つ頑固者がおりまして、立花家が羨ましゅうございます」
その時、二人の会話を聞いていた松千代がはっ!?と思いつきます。
北条氏康が連れて来ていた妹の真奈姫が弓矢を嗜む事を思い出しました。この日に開催された流鏑馬、通し矢の競技を観覧していた時に松千代と真奈姫がたまたま仲良くなり、嫁入り先が未だ決まらない事、流鏑馬、弓矢の心得が有る事を聞いており、松千代に優しく接する態度にとても好感を抱いていました。
「北条様!真奈姫様から流鏑馬と弓矢の心得が有ると伺いました。しっかり者で心優しい真奈姫様なら武田家との架け橋になりそうです!晴信様に輿入れ為されては如何でございましょう?」
突然、松千代が言い出した言葉に周りの人々が驚きます。
北条氏康は一瞬真剣な顔になりましたが、やがてニヤリと笑顔で笑いました。
「ぬははは!松千代殿はいつの間にか我が愛おしき妹と仲良しになっておりましたな? 」
「はい、優しい姉様にございます。
姉様が大好きになりましたから幸せにしてくれそうな立派なお武家様に嫁いで戴きたく、武田晴信様を推薦致します!」
「ぬははは!松千代殿の推薦でござるな?
武田殿、我が妹が弓矢を嗜み、傍に仕える侍女達も弓矢を嗜みます。武田家の女性の習い事に弓矢を加えては如何であろうか?」
「はっ?北条殿の妹君を我が嫁に?…」
突然の話しに武田晴信が戸惑います。
「武田殿、我が妹は数え18歳になりました。
亡き父の忘れ形見にてこれまで大切に育てて参りました。側室でも構わぬ故、武田家と北条家の架け橋に貰って頂きたいのだが?如何であろうか?」
「ぶははは!これは目出度い!武田殿?如何かな?
両家が縁戚となれば、敵対する駿河国の今川家に圧力となりましょう?」
立花義秀が楽しそうに口添えしました。
「承知致しました!宜しくお願い致します!」
武田晴信は以前から北条家との結び付きを高めたい気持ちがありました。
側室でも構わないと北条家からの申し入れに、家格で上位に当たる武田家の面目も立つ事から晴信は即答で婚約が成立しました。
武田晴信26歳、北条氏康32歳、二人が婚約に合意しました。婚儀は4月に甲府、躑躅ヶ崎館にて行われる事が決まりました。
「良し!目出度いぞ!
皆様にお知らせ致します!武田家と北条家の婚儀が決まりましたぞ!
来る4月吉日!武田晴信殿に北条氏康殿の美人と噂の妹殿が嫁がれる事に相成りました!
御祝い申し上げる!
乾杯だー!」
ご機嫌の立花義秀が両家の婚儀を知らせました。
「うぉー!」
「目出度い!」
「乾杯!」
「おめでとうございます!」
などと声が上がり、拍手が沸きました。
武田晴信、北条氏康の辺りに諸将が集まり、酒を注ぎ祝の言葉を投げ掛けます。
婚約成立を喜び、武田家、北条家の隠し芸が披露されて祝の宴は更に盛り上がりました。
過去に対立した事からスッキリしない関係が続く両家がようやく手を結ぶ事になりました。
「松千代!良くやった!」
立花義秀に褒められてニッコリする松千代…
「お爺、北条家には今川家を抑えて貰い、武田家が安心して信濃国の北へ勢力圏を広げるとなれば、上野国方面の前橋上杉家を西から抑える牽制になり、立花家の利益になるからね!」
「ぶははは!祝杯だ!酒が旨いぞ!」
立花義秀はご機嫌で杯を重ねました。
武田家と北条家の重臣達は翌日から婚儀の取り決めに加え、同盟する規約の内容について協議する事になりました。
近年まで今川家と武田家は同盟を結び、北条家と対立していました。6年前に武田信虎を駿河国に追放した事により、武田晴信は今川家と距離を取り始め、少しず関係修復の機運が高まっていました。
両家が立花家と同盟して以来、雪解けの機運は更に高まり、松千代の口添えで婚約が成立する事になりました。




